円周の長さの測定
「矩尺」の表面には「丸目」、裏面には「角目」という目盛があり、円周の長さを測定できます。円周は「直径×3.14」という計算式で求めます。
例えば筒の材料の場合、表面にある「丸目」を利用することで円周の長さを測ることが可能です。丸目の目盛には、長さに「3.14」を掛けた数字があらかじめ記載されており、円の直径さえ丸目で測れば、円周が分かります。
また、裏面にある「角目」を利用することで、筒状の材料から切り出せる最大の正方形の大きさを知ることができます。このように、「矩尺」には先人達のさまざまな知識が詰まっているのです。
「矩」を使った3つの四文字熟語
前述の通り「矩尺」に使われる「矩」という漢字は、直角を意味します。「矩尺」をそのまま使った四文字熟語はありません。しかし「矩」を使った四文字熟語は、いくつか存在します。「矩」が含まれる代表的な四文字熟語は次の3つです。
・方領矩歩
・規矩準縄
・規行矩歩
ここでは、それぞれの意味や由来、例文を詳しく解説するので、確認していきましょう。
方領矩歩(ほうりょうくほ)
「方領矩歩(ほうりょうくほ)」とは、儒学者の身なりや態度を意味します。「方領」は四角い襟の服を指し「矩歩」はルール通りの正しい歩き方のことです。
また儒学者とは、儒学を自らの行動規範とするために儒教の学習や研究をする人を意味します。近世の武家では城下に学校を作り、儒学者を師として学問を学んでいたことから、師のように立派な人である様を表しているのです。「方領矩歩」を使った例文は次のとおりです。
【例文】
・みなりが【方領矩歩】である人たちの中に、なぜ彼が参加しているのでしょうか。
・いかにも服装が【方領矩歩】である人に質問され、回答ができず慌てました。
・【方領矩歩】は現在の道徳教育の基礎といえます。
規矩準縄(きくじゅんじょう)
「規矩準縄(きくじゅんじょう)」は、物事や行動の標準・基準を意味します。「指矩」は、L字の定規、「準縄」は木材に直線を引く道具を意味し、いずれも図を描く際に要するものです。また「規矩」と「準縄」はいずれも規則や法則を意味する熟語であり、同じ意味の語句を重ねて強調しています。
「規矩準縄」は『孟子』という書物の中で「聖人が自分の眼の力を使い、さらにコンパスや定規、水準器、墨縄を用いたところきれいな図形が描けたため、使いきれないほどの多くの製品が作られた」といった内容が記述されています。
作図の基準とした「コンパス・定規・水準器・墨縄」の4つを漢字で表したのが「規矩準縄」なのです。「規矩準縄」を使った例文は次のとおりです。
【例文】
・国の法律はいつも【規矩準縄】となるべきものである。
・議論が脱線した際は、一度その組織における【規矩準縄】に立ち返り、議論を整理しかければならない。
・【規矩準縄】は自ら創り上げるものであり、与えられるものではない。
規行矩歩(きこうくほ)
「規行矩歩(きこうくほ)」は、心や行いが正しく模範的であることを意味します。非常に真面目で行いが正しいことを意味する「品行方正」とほぼ同義といえます。一方、古い習わしによって融通が利かないことや柔軟性に欠けるといった意味も持ち、この点は「品行方正」と大きく異なる点です。
「規行矩歩」の由来は、中国晋王朝の歴史書である『晋書』にあり、歩き方が正しい法則に沿っているさまを表しています。「規行矩歩」を使った例文は次のとおりです。
【例文】
・部長は部下からの信頼は厚いが、真面目すぎることで周りから【規行矩歩】といわれるのも分かる。
・警察官の祖父はいつも【規行矩歩】で、周囲が心配するほどだ。
・彼はいつも【規行矩歩】で、模範的な生徒といえる。
まとめ
「矩尺」は、直角に曲がった物差しや長さの単位を意味します。いずれも建築業界で利用されることの多い言葉であり、あまり聞き慣れないと感じる方も多いでしょう。
しかし、古くは中国の魯の工匠である「魯班(ろはん)」が「矩尺」を作り、さらには日本ではあの「聖徳太子」が広げた歴史ある道具です。先人達のさまざまな努力によって作られた「矩尺」の意味を正しく理解することで、会話のネタとしても利用できるのではないでしょうか。
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