「手塩にかける」は“自ら世話をして大切に育てること”
「手塩にかける」とは、他人任せにせず、自らが世話をして大切に育てることを意味することわざで、日常会話やビジネスシーンなどで幅広く使われます。大切に育てる対象は、人間に限りません。野菜や作品などにも用います。
ただし、そもそも「手塩」が何を指すのかを理解した上で使っている方は少ないでしょう。ここでは、手塩にかけるの由来などを解説します。
■由来は江戸時代の“塩による味付けの仕方”
手塩にかけるの手塩の由来は、元は室町時代に膳の不浄をはらうために塩を盛った小皿にあります。食事に添える塩を盛った小皿のことを手塩皿と呼び始め、江戸時代には、味加減を調えるために少量の塩を添えるようになりました。現在のようにさまざまな種類の調味料が存在しなかったため、ほとんどの味付けは塩で行われていたのです。
やがて手塩と略され、少量の手塩で料理を自分好みの味付けにしていたことから転じて、自ら世話をして面倒をみることを手塩にかけると表現するようになったとされます。
なお現在では、手塩皿は塩のほか、香の物やお醤油を添えるための豆皿や小皿を指します。
■「手塩をかける」と間違えない
手塩にかけるを、「手塩をかける」と間違えないように注意しましょう。前述のとおり、ことわざの由来が味加減を調えるための塩であれば、手塩をかけるという表現でも問題はなさそうですが、正しくは手塩「に」かけるです。
「手塩にかける」の使い方
手塩にかけるということわざは、以下のようなものに対して使われます。
・子ども
・動物
・野菜
・会社
・商品
自ら世話をして大切に育てたものであれば、対象物は限定されません。手塩にかけて育てるといったように使うのが一般的です。たとえば、生産者が「手塩にかけて育てた野菜です」というと、大切に心を込めて作った野菜であることが伝わるでしょう。
〈手塩にかけるの例文〉
・手塩にかけて育てた野菜なので、自信をもっておすすめできる
・娘のことは手塩にかけて育てたつもりだ。それだけに、明日の成人式は感慨深いものがある
・手塩にかけて育てた盆栽が、品評会でグランプリを受賞し、とても嬉しい
・手塩にかけて育成してきた部下が、気づいたら一人前になっていた
・手塩にかけた甲斐があり、弟子が一流の職人に成長した
「手塩にかける」の類語4つ
手塩にかけるには、いくつかの類語があります。以下の4つは、いずれも「自ら事にあたる」や「世話をする」といったニュアンスを持つ類語です。
1.手をかける
2.手間をかける
3.丹精込めて育てる
4.育成する
それぞれの言葉の意味や使い方をご紹介します。
1.手をかける
手をかけるとは、時間や労力を惜しまずに世話をするという意味の言葉で、手塩にかけると、ほぼ同じ意味で使って問題ありません。また人手を増やすことや、手数をかけるという意味でも用いられます。子育てのシーンで使われることも多く、たとえば「子どもに手をかけすぎるのはよくない」といったことを聞いたことがある方もいるでしょう。
そのほか、手出しをする、盗みを行うといったネガティブな意味でも使われます。
2.手間をかける
手間をかけるの「手間」は、何かを行うのにかかる労力や時間のことです。つまり、何かを行うために、自分自身が労力や時間をかけることを表す言葉であり、手塩にかけると似た意味で使います。
そのため相手に手間をかけさせてしまったという意味で使う場合は、手間をかけるではなく、手間を取らせるというのが正しい表現です。たとえば相手に何度も書類の提出をお願いするといったときには、「お手間を取らせてしまい申し訳ございません」と使います。
なお、相手に取らせた手間を表現する言葉として、手数(てすう)があります。「お手数をおかけする」という言葉は、相手に手間を取らせてしまうという意味です。この2つが混同し、「お手間をおかけする」と使うことがありますが、正しい使用法ではないため注意が必要です。
3.丹精込めて育てる
「この野菜は、わたしが丹精込めて育てたものです」というような表現はよく使われます。丹精の「丹」にはまごころという意味が、「精」には真実の心や本当の気持ちという意味があり、丹精は偽りのない真心や誠意をあらわします。
また、それ自体で心を込めて物事を行うことをあらわす言葉です。「丹精を込めて」あるいは「丹精を尽くす」といった使い方をします。
4.育成する
育成するという言葉も手塩にかけるの類語の1つで、育て上げること、育てて大きくすることを意味する言葉です。「後継者を育成する」といった使い方をします。
また、たとえば企業が、その発展や業績の向上に貢献できるために、従業員に必要なスキルの習得を促すことを「人材育成」といいます。
「手塩にかける」の意味を知り使いこなそう
手塩にかけるとは、他人任せにせず、自らが世話をして大切に育てることを意味することわざです。育てる対象は人間に限らず、野菜や作品などにも用いられ、日常会話やビジネスシーンなどで幅広く使われます。
室町時代、膳の不浄をはらうために、食膳に塩を盛った小皿を添えていました。これを手塩皿といい、江戸時代に入ると味加減を調えるために、少量の塩を添えるようになりました。
手塩皿はいつしか手塩と略され、塩で料理を自分好みの味付けにしていたことから転じて、自ら世話をして面倒をみることを手塩にかけると表現するようになったようです。手塩をかけると間違えやすいため、注意して正しく使いましょう。
手塩にかけるの類語には、「手をかける」「手間をかける」「丹精込めて育てる」「育成する」などがあり、いずれも「自ら事にあたる」や「世話をする」といった意味を持ちます。手塩にかけるの意味や由来を知り、あわせて類語も覚えると、一気に語彙力がアップします。それぞれの言葉の意味を理解し、使いこなせるようにしましょう。
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