「衣食足りて礼節を知る」ということわざを聞いたことはありますか? 普段あまり聞く機会のない言葉ではありますが、その意味を聞くと身に覚えがある方もいらっしゃるかもしれません。そこで本記事では、「衣食足りて礼節を知る」の意味や使い方、類語・対義語を解説します。
「衣食足りて礼節を知る」とは?
「衣食足りて礼節を知る」は、「いしょくたりてれいせつをしる」と読みます。意味は、辞書に以下のように記載されています。
《「管子」牧民の「倉廩(そうりん)実(み)ちて則ち礼節を知り、衣食足りて則ち栄辱(えいじょく)を知る」から》人は、物質的に不自由がなくなって、初めて礼儀に心を向ける余裕ができてくる。衣食足りて栄辱を知る。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「衣食足りて礼節を知る」とは、「人は着るものや食べるものが十分にあって、初めて礼儀や節度をわきまえられる」という意味のことわざです。わかりやすく言えば、生活にゆとりがないと精神にも余裕は生まれないという意味ですね。
使い方を例文でチェック!
「衣食足りて礼節を知る」とは、具体的にどのような場面で使う言葉なのでしょうか? 一緒にチェックしていきましょう。
1:ミュージシャンの彼は、若い頃乱暴者だったが、スターになってからは見違えるように礼儀正しくなった。衣食足りて礼節を知るとは、彼のためにあるような言葉だ。
若い頃は、話す言葉や振る舞いが荒々しかった人も、歳をとって人が変わったように穏やかな性格になることはよくあります。社会的な地位が向上したことで、経済的にも安定し、立ち振る舞いに品が生まれることもあるでしょう。物質的な豊かさがあって、初めて礼儀や節度をわきまえられるようになった、という良い例ですね。
2:優しい母親でありたいとは思っているものの、生活が厳しく、精神的にも余裕が持てない。衣食足りて礼節を知るということを痛感した。
いつも心が穏やかでありたい、とは思っていても、実際の生活が厳しかったり、仕事が忙しいと、気持ちまで殺伐としまうこともありますよね。パートナーや子供に八つ当たりしてしまい、後から後悔したなんてこともあるかもしれません。着るものや食べるものがあり、生活が安定していることの大切さをしみじみと実感しますね。
類語や言い換え表現は?
「衣食足りて礼節を知る」の類語はご存知ですか? 似た意味を持つことわざを3つ見ていきましょう。
1:倉廩実ちて礼節を知る
「倉廩(そうりん)実(み)ちて礼節を知る」の意味は、以下の通りです。
《「管子」牧民から》生活が安定してはじめて礼儀を重んじるゆとりが生じる。衣食足りて礼節を知る。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「倉廩」とは、昔の米倉のこと。直訳すると、「米倉に穀物が十分に詰まっていれば、心にも余裕が生まれ、礼儀や節度をわきまえられるようになる」という意味になります。穀物を蓄えることで、食料の心配をすることもなくなり、またそれを売ることによって経済的にも安定します。このことから、現在では経済的に生活が安定するという意味で用いられることが一般的ですね。
(例文)
・倉廩実ちて礼節を知るというように、まずは食べるものに困らないことが大切だ。
・不自由のない生活をすることで、精神的に豊かにもなる。倉廩実ちて礼節を知るというように。
2:貧すれば鈍する
「貧(ひん)すれば鈍(どん)する」の意味は、以下の通りです。
貧乏すると、生活の苦しさのために精神の働きまで愚鈍になる。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「貧すれば鈍する」とは、「貧乏になると頭の働きまでも鈍くなる」ということを表します。また、どんな人でも、気持ちに余裕がなくなることで、さもしい心を持つようになるという意味も含まれます。
一見「衣食足りて礼節を知る」と反対のように思えますが、意味するところは同じでしょう。ものの豊かさが、人の振る舞いや節度にも大きく影響するということですね。
(例文)
・冗談好きだった課長はリストラされてから、まるで人が変わってしまった。貧すれば鈍するとはこのことだ。
・貧すれば鈍するということわざもあるので、できるだけ豊かな生活をしたい。
3:恒産無き者は恒心無し
「恒産無き者は恒心無し」は、「こうさんなきものはこうしんなし」と読みます。「しっかりした経済的基盤のない者は、その時々の状況に左右されて、いつ考えが変わるかわからない」という意味です。
一定の職業や財産があるからこそ、しっかりとした人生設計が建てられるもの。生活が安定しないことで、感情や考えが揺らいでしまい夢や目標を達成するのが難しくなってしまうのかもしれません。
(例文)
・「まずは、生活を安定させること。恒産無き者は恒心無し」と父は言った。
・恒産無き者は恒心無しということわざもあるので、兄の考えもいずれ変わるかもしれない。
対義語
「衣食足りて礼節を知る」とは、「人は着るものや食べるものが十分にあって、初めて礼儀や節度をわきまえられる」という意味でしたね。それでは、反対の意味を持つことわざにはどんなものがあるでしょうか? 早速見ていきましょう。
1:人はパンのみにて生くるものにあらず
「人はパンのみにて生(い)くるものにあらず」とは、「人は物質的に満足すれば、それでいいというものではない」という意味。
人は、物質面だけではなく、精神面も満たされることを求めて生きる存在であると説いています。元々は、『旧約聖書・申命記』にあるモーゼの言葉、およびこれを引用した『新約聖書・マタイ伝』にあるイエスの言葉に由来があるようです。
(例文)
・お金やものに恵まれることだけが幸福ではない。人はパンのみにて生くるものにあらず。
2:貧は世界の福の神
「貧(ひん)は世界の福の神」の意味は、以下の通りです。
貧乏は、かえって人を発憤・努力させ、後の幸福をもたらすもととなる。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
お金がなくて苦しい生活をしている時ほど、「今に見てろよ」という気持ちで、頑張れたという経験はありませんか? 逆境に負けず、「いつかこんな暮らしがしたい」という理想に向かって努力することで、精神的に強くなれたり、自分に自信が持てるようになったという方もいるでしょう。
そんな人にとっては、貧乏も福の神と同じといえるかもしれませんね。
(例文)
・今の生活は苦しいが、貧は世界の福の神だと思って頑張ろう。
最後に
着るものや食べるものに恵まれているからといって、必ずしも礼儀や節度をわきまえているとは言い切れません。しかし、経済的に安定したことで、初めて身なりに気を配るようになったり、困っている人に手を差し伸べることができるようになれたという人もいるでしょう。物質的な豊かさと精神的な豊かさは、お互いに影響を及ぼしあうものなのかもしれませんね。
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