過失とは?故意との違いも
まずは過失の意味を改めて確認しましょう。また、故意との違いについても解説していきます。これを知っておくと、事故やトラブルがあった際に責任の所在やどのような罪に問われるのかを把握しやすくなります。
過失は注意不足などが原因となる損害
過失とは、結果を見越して回避できたはずなのに、ミスや注意不足によって引き起こされた問題を指す言葉です。
か‐しつ〔クワ‐〕【過失】
1. 不注意などによって生じたしくじり。過ち。
2. 法律用語。 ア.私法上、一定の事実を認識することができるはずなのに、不注意で認識しないこと。イ.刑法上、行為者が不注意によって犯罪事実の発生を防止しなかった落ち度のある態度。⇔故意(こい)。
3. 欠点。
小学館『デジタル大辞泉』より引用
歩きスマホをして人とぶつかってしまった、などが過失の典型例です。簡単にいうと「うっかりミス」のようなものですが、法律上はもっと複雑で重要な役割を果たします。
民法では、不法行為や債務不履行の責任を問う際の要件となります。一方、刑法では原則として故意犯を処罰しますが、過失により特に重大な結果を招いた場合は罰せられる決まりです。
過失を避けるには、日常生活でも仕事でも責任ある行動を心がけることが大切です。過失の概念を理解して適切に行動すれば、法的トラブルを避けやすくなります。
故意は意図的に行為に及ぶことを指す
法律用語の故意とは、自分の行いが特定の結果を引き起こすと認識しながら、あえてその行動を実行することを指します。
たとえば、他人を傷つける目的で危害を加えた場合、典型的な「故意」といえます。刑法では犯罪の成立要件として重要な概念です。
故意であったかどうかを判断する際は、計画性の有無やどのように犯行に及んだかなどの客観的な証拠が重視されます。
民法でも同様の定義がされますが、損害賠償の責任を問う際には故意と過失を細かく区別しない場合があります。
こ‐い【故意】
1 わざとすること。また、その気持ち。「故意に取り違える」
2 私法上、自分の行為から一定の結果が生じることを認容しながら行為に出る心情。刑法上は、罪となる事実を認識し、かつ結果の発生を意図または認容している場合をいう。⇔過失。
小学館『デジタル大辞泉』より引用
【民法】法律上の過失の意味・範囲
その行為が過失となるのかどうかが、民事事件と刑事事件の双方において裁判の争点となることは珍しくありません。民法上の意味や、どのような種類があるのかなどを紹介します。
民法における過失の意味
民法における過失とは、損害が発生するかもしれないと想像できたのに、それを回避するための注意義務を怠った場合に発生します。
他人の権利や法律上保護される利益を侵害する行為があったために、損害が発生したと認められれば賠償責任が生じます。
たとえば、医療ミスや交通事故などが代表的な例です。また、契約締結上の過失も重要な概念で、契約交渉段階での信義則上の義務違反、つまり相手方の信頼を裏切らないよう誠意を持って対応することを怠った場合も、損害賠償責任につながる可能性があります。
一般的に、過失の有無や程度は具体的な状況や当事者の立場によって判断されます。
民法における過失の種類
同じ過失と呼ばれるものにも度合いがあり、主に「軽過失」と「重過失」の2種類に分類できます。
軽過失は、その立場において通常考えられる注意義務を怠ったために、問題が起きたときなどが当てはまります。たとえば、よそ見をしていて人や物にぶつかってしまった場合などです。
一方、重過失はわずかな注意を払うだけで結果を想像できたにもかかわらず、それを怠った場合を指します。代表的な例は、交通事故で赤信号を無視して事故を起こしたケースなどです。
重過失は法的責任が重くなる傾向があり、損害賠償額の増加や保険金の支払いも制限されるといった影響があります。過失の程度は具体的な事例に基づいて、慎重に判断されます。
重過失が問題となる場面の例
重過失が問題となる場面は、日常生活のさまざまなシーンで見られます。ガスコンロの火の消し忘れやタバコの不始末など、わずかな注意で防げたはずの火災は重大な過失とみなされる可能性があります。
火災事故の場合、「失火責任法」によって重大な過失が認められなければ損害賠償義務はありません。隣家からのもらい火などで家財や自宅が燃えた場合であっても、火事を起こした人に重大な過失がなければ賠償請求ができないのです。
交通事故においても、過失の程度や割合が問題になる場合があります。飲酒運転や居眠り運転はもちろん、著しい速度超過や体調不良を知りながらの運転も重大な過失とされ、高額な賠償責任を負う可能性があるのです。
また、無免許運転による事故も重過失と判断されやすく、通常の過失よりも重い責任を問われることが一般的です。
出典:e-Gov 法令検索 明治三十二年法律第四十号(失火ノ責任ニ関スル法律)(明治三十二年法律第四十号)
【刑法】法律上の過失の意味・範囲
刑法は犯罪行為をした場合に、国がどのような処罰を下すかを定めたものです。警察や検察などが被疑者に対し、法的に罪があるかどうかを明らかにするため刑法に基づいて争われます。
刑法における過失の意味
注意義務を怠ったために犯罪結果が引き起こされることを、刑法上の過失と表現します。例を挙げると、運転中にスマホを操作して事故を起こすなどのケースが該当し、意図的に犯罪行為をする故意犯とは区別されます。
重要なのは、刑法における過失は単なる不注意ではなく、社会的に求められる注意義務を著しく欠いたために罪に問われる点です。過失の判断には、予見可能性やその場の状況なども考慮されます。
過失犯の中でも人を傷つけた場合や、死亡させた場合は罪に問われます。一般的に、故意犯よりも刑罰が軽くなる傾向です。
過失犯の種類
過失犯とは、行為者が結果を想像でき回避する義務があったのに、それを怠った場合に起こる犯罪の総称です。主な種類に「過失往来危険罪」「過失傷害罪」「過失致死罪」などがあります。
過失往来危険罪は「線路上に石を置く」「灯台を破損させる」など公共の交通の安全を脅かす行為を指します。過失傷害罪は、不注意により他人にけがをさせてしまう罪です。たとえば、工事現場での安全管理不足による事故などが該当します。
過失致死罪は、不注意により他人を死亡させてしまう罪です。医療ミスによる患者の死亡などがこれに当たります。これらの罪は結果の重大性から刑法で処罰されます。
出典:e-Gov 法令検索 刑法(明治四十年法律第四十五号)
業務上の過失
業務上の過失は、職業上の義務や責任を果たす際に生じる不注意や怠慢を指し、一般的な過失よりも重い責任が問われることが特徴です。例として、医師が手術中に医療器具を体内に置き忘れるミスや、運転手が長時間運転による疲労で起こした事故などが該当します。
これらは、その職業に求められる高度な注意義務を怠ったとして、刑法上でより厳しく罰せられるのです。
また、民事上でも損害賠償などの責任を負うこともあります。専門職や危険を伴う職業に就く人々は常に細心の注意を払い、業務上の過失を防ぐ努力が求められます。
過失を別の言葉にすると?類語もチェック
過失と似た意味を持つ言葉に、「過誤」や「手抜かり」などがあります。どちらもほぼ同じ場面で使用できる言葉です。細かいニュアンスの違いや使用例などを紹介します。
過誤
過誤とは、間違いや失敗のことを指します。過失とほぼ同じように使えますが、より広い範囲で使える言葉です。そのため、単純なミスから重大な事故まで、さまざまな状況で使用されます。例を挙げると、医療現場での診断ミスや投薬ミスは医療過誤と呼ばれます。
過失が法律用語としてより厳密に定義されるのに対し、過誤は一般的な文脈でも使われる傾向です。保険請求や審査内容などに誤りがあった際などに使われることもあります。
過誤を防ぐには、慎重な行動と適切なチェック体制が重要です。
手抜かり
手抜かりは、注意や配慮が足りないために起こる失敗や間違いを指します。たとえば、仕事で重要な書類を確認せずに提出してしまうことなどが該当します。
法律用語としての過失と比べると、より日常的な場面で使われる表現です。「警備に手抜かりがあって商品を盗まれそうになった」というように、日常や業務上のミスで使われることが少なくありません。
「手落ち」も同義語ですが、こちらは準備はしていたが不足や欠点があり失敗が起こったことを指す言葉です。
ただし、どのような表現をしたとしても、大きな損害が生じた場合は法的責任を問われることがあります。手抜かりを防ぐには、チェックリストの活用や複数人での確認などの工夫が大切です。
ちょっとした過誤や手抜かりが大きな問題につながるという認識を持ち、日々の行動に注意することが求められます。
メイン・アイキャッチ画像/(c)Adobe Stock
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