転職サイトを眺めていて「固定残業代」という言葉が気になったことはありませんか? 「固定残業代って、どんなに遅くまで働いても、決められた金額以上はもらえないってこと?」 、「友達が固定残業代の会社で働いているけど、ブラック企業なのかな」、「SNSでも固定残業代についての不安な声をよく見かけるし」…。そんな声を聞いて、「固定残業代」と聞くと、つい身構えてしまう人もいるかもしれません。
ですが、固定残業代は、正しく運用されれば、むしろあなたのメリットにつながる可能性があります。
本記事では、固定残業代の基本から、知っておくと便利な確認ポイントまでをわかりやすく解説します。これを機に、あなたも固定残業代についてしっかり理解して、今後の働き方に役立ててみませんか?
固定残業代とは? ビジネスで押さえておくべき基本知識
「固定残業代」は、基本的に月給制でお給料をもらっている人のための制度です。パート、アルバイトなど、時間給ベースで、働いた時間分だけお給料が計算されている人には原則使われません。
残業代の考え方
月給制でお給料をもらっている場合、その月に働く日数・時間の目安は、あらかじめ会社ごと、個人ごとに決められています。これを、「所定労働日数」「所定労働時間」といいます。就業規則や労働条件通知書に記されていますので、確認してみてください。
その決められた日数・時間働くことで、満額の「基本給」がもらえるということになります。では、その決められた日数・時間を超えて働いたらどうなるのでしょうか?
そこで重要となるのが、法律です。労働基準法という法律では、労働時間は、「1日8時間、週40時間」と上限が定められています。そして、会社がその上限を超えて働かせたい場合は、官公庁に届け出をしたうえで、超えた時間については通常のお給料を割増して支払わなければならないことになっています。
この、割増して支払われる分がいわゆる「残業代」です。固定残業代とは、その名前の通り、「残業代」が「固定」されているものです。
固定残業代の意味と背景
「残業代」が「固定」されているとは、どういうことでしょうか? それは、通常は残業した時間分だけ支払われる残業代が、一定の時間までは同じ金額になるということです。
厚生労働省のリーフレットには、「固定残業代とはその名称にかかわらず、一定時間分の時間外労働、休日労働および深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金のことです」と書かれています。
参考:厚生労働省ホームページ
また、固定残業代制を利用する場合、次の(1)~(3)の内容すべてを明示することとされています。
(1)固定残業代を除いた基本給の額
(2)固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法
(3)固定残業時間を超える時間外労働、休日労働および深夜労働に対して割増賃金を追加で支払う旨
かなりかたい言葉が並んでいますね。ひらたく言うと、固定残業代とは、
・基本給とは別に支払われるもので、
・何時間までの残業が固定残業代に含まれるのかがはっきりしていて、
・その時間よりも多く残業した時の残業手当については、通常通りの残業代の計算で支払われる
ということです。
たとえば、固定残業代が「20時間分」とされている場合、
・実際の残業が15時間だった場合でも、20時間分の「固定残業代」がもらえる
・実際の残業が25時間だった場合は、超えた分の5時間は通常通りの残業代が支払われる
ということになります。
あなたの会社が固定残業代を利用している場合、固定残業代が何時間分かは、雇用契約書等に「◯時間分の残業代として△円」と書かれているはずです。確認してみてください。
固定残業代は、IT企業から販売業種まで、主に中小企業でごく一般的に利用されている制度です。
固定残業代のメリット・デメリットを知る
では、会社が固定残業代を設定しているのは、なぜでしょう? それは、利用するメリットがあるからです。以下に見ていきましょう。
会社のメリット・デメリット
(1)費用の見通しが立てやすくなり、予算が組みやすい
(2)複雑な残業代計算の負担を軽くすることができる
(3)社員に業務を早く終わらせてもお給料は同じというモチベーションを与えられる
(4)固定残業代を設定することで、基本給を調整して手取りを高く見せられる
ですが、デメリットもあります。
(1)一定の時間残業することを前提としてしまうため、会社側の業務管理が甘くなりがち
(2)固定残業時間は業務量とのバランスで決まるため、業務量の変動により定期的に見直す必要があり、手間がかかる
そのうえ、ある企業では、「固定残業代の10時間分を超えたら追加で割増賃金がもらえるなら、なるべく残ろう」という社員がいて、固定残業代を利用している意味がないという事案もあったようです。
会社としては固定残業代を払っていたとしても、業務管理をしっかりしたうえで、社員には残業を減らすよう働きかけていく必要があります。
私たち働く側のメリット・デメリット
では、私たち働く側にはどんなメリット・デメリットがあるのでしょうか?
(1)残業が少なくても固定額がもらえる
先ほどの例の通り、20時間分の固定残業代が設定されている場合、実際の残業が15時間だったとしても、もらえる残業代は20時間分です。これは、時給に換算すると増えているということです。
(2) 効率アップで時給アップできる
つまり、同じ成果を短時間で出すことができれば、実質的な時給が上がります。「残業を減らす工夫」が、あなたの収入アップに直結するのです。
(3)収入の見通しが立てやすい
残業の多い月、少ない月でお給料が大きく変わることが少なくなり、毎月の給与が安定するので、家計の管理がしやすくなります。
デメリットとしては、2つあります。
(1)「固定残業代」をもらっているということで、残業が前提の働き方になりがち
(2)「固定残業代」があることで、「基本給」が見えにくい
特に(2)には注意が必要です。残業した時の割増賃金の計算や、会社によっては賞与の金額を決める時や福利厚生制度で休職見舞金を計算する時に重要になるのは、「基本給」です。
つまり、基本給が低いと、割増賃金や賞与の金額が低くなるということ。毎月お給料としてもらえる金額としてはあまり違いが見えませんが、「基本給」と「固定残業代」の内訳は確認しておきましょう。
固定残業代の計算方法と注意点
では、その「固定残業代」はどうやって計算されているのか、見てみましょう。固定残業代を確認するときは、月給の人でも、時間給に換算して確認します。
計算は2ステップ
時間給は、次の2ステップで計算できます。
(1)基本給(役職手当など一部の手当を含む)、月の所定労働時間を雇用契約書や給与明細で確認する
(2)基本給を、月の所定労働時間で割る
月の所定労働時間とは、「この月は何時間働きます」と会社と決めた基本の働く時間です。
1日8時間✕20日~22日となっている会社が多いです。
たとえば、基本給20万円で、月の所定労働時間が160時間(8時間✕20日)の人は、こうなります。
基本給20万円÷160時間(月の所定労働時間)=1,250円
この人の場合、固定残業代が20時間分であれば、
1,250円✕20時間✕1.25(残業の割増分)=31,250円
なので、固定残業代が31,250円以上であればOKです。
31,250円を下回っている場合は、違法となります。