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LIFESTYLE 家族

2019.05.04

変わり果てた父の姿に泣いたあの日。〝高次脳機能障害〟がやってきた【うちのダディは脳梗塞5】

 

カリスマモデルとして活躍した10代を経て、20代でデザイナーに転身した佐藤えつこさん。順調にキャリアを築き、「まだまだこれから!」という35歳のとき、父親が脳梗塞で倒れました。アラフォーにして介護歴は4年に。だれにでも起こりうる、けして他人事ではない介護のリアルを語ります。大好きだった父親の変わり果てた姿とは―――。

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これは……ダディなのか⁉

ダディが倒れてから7日後。症状が安定したダディは、個室のICUに移り、時折、目を開けられるようになっていました。無表情で虚空を見つめる目。声をかけても反応はありません。

医師に脳のCT画像を見せてもらいながら、家族全員で今後の説明を受けました。

「腫れは少し引いています。ただし、この先は記憶もない。話もできないし、自分でトイレをすることもできないし、いずれ胃ろう生活になるかもしれない。きっと寝たきりで家には帰れないでしょう。まぁ、もし運よく帰れても、1年以内に生きてる確率は10%、3年以内でも5%。まず5年生存はナイですネ」

お先真っ暗――。

希望を失うような言葉の数々が突き刺さり、体が冷えていくのがわかりました。毎日のように死が隣にある先生にとっては当たり前のことなのかもしれないけれど、もうちょっと他に言い方ないもんですかね。お気楽な私でも、さすがにこれはキツい。

10月。ダディの右の手足はまったく動かないものの、左手は少し使えるようになっていました。相変わらずの無表情。目のよどみは少しマシか。試しに、手鏡を見せてみると、自分の左手で鏡を持ち、顔と頭を見て悲しそうな顔。見せなければ良かったね。

流動食を渡したら、左手に持ってパッケージをじーっと見つめています。もしかして文字は読めているのかも? 紙に「えっこのことわかる? わかったら手を握って」と書いて見せました。でも、紙はのぞいても、手は少しも握らない。声を出して頼んでみても同じ。

そのうち、ナースをガン見したまま鼻をほじり始めたダディ(笑)。「ちょっと、お父さん!」とたしなめようとしたところで、今度は獣のようなあくびをひとつ。

恥じらうという感情がまるでなくなってしまった姿は、人間じゃないみたいでした。プライド高くかっこよく生きていたダディの魂が空っぽになってしまったようで。

こらえきれず、声をあげて泣きました。

私はまだ、脳梗塞の後遺症がどんなものかまったくわかっていなかったんですね。手が動くなら握れると思っていたし、私の言っていることもダディは理解していると思っていた。だから、「書いて」とか「指さして」とかやたらに声をかけては、何もしてくれないダディの姿に落ちこんで……の繰り返し。

そういう障害が存在するということ自体、理解していませんでした。

脳梗塞の後遺症。その代表が、〝高次脳機能障害〟でした。かのglobeのボーカル・KEIKOさんが患い、小室哲哉さんが直面したと言えば、なんとなく想像がつきますでしょうか。この果てしなくやっかいで、ごくたまに愛おしい障害と、私は35歳にして付き合っていくことになりました。

イラスト/佐藤えつこ 構成/佐藤久美子

佐藤えつこ

佐藤えつこ

1978年生まれ。14歳で、小学館『プチセブン』専属モデルに。「えっこ」のニックネームで多くのティーン読者から熱く支持される。20歳で『プチセブン』卒業後、『CanCam』モデルの傍らデザイン学校に通い、27歳でアクセサリー&小物ブランド「Clasky」を立ち上げ。現在もデザイナーとして活躍中。Twitterアカウントは@Kaigo_Diary

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