いかに適切な説明を行えたかが謝罪会見の分かれ道
まず、一般企業における危機管理の定義から教えてください。
企業における“危機的状況”とは、深刻な不祥事や事故が企業内で起きて、組織のブランド価値や株価を大きく傷つけるような事態に至ることを差します。
そうした危機状態が起きたらダメージを最小限にとどめ、できる限り速やかに事態を収束させるのが“危機管理対応”の基本になります。
ちなみに危機管理広報とは、不祥事や事故について社内外の複数の関係者に説明が必要になった場合のコミュニケーションを担う部署です。いかにきちんと適切な説明を行えるかが任務のポイントになります。
具体的にはどのように進めていくのでしょうか?
たとえば個人情報が大量に漏洩してしまった場合を例に、謝罪会見準備のステップをまとめてみましょう。
1 社内の情報を集めて事実確認
何か深刻な不祥事が起きたら、とにかく社内の情報をできる限り収集します。
2 外部に伝えるべき内容を明確にする
何が起きているかの事実を集めた上で、社外に向けてどこからどこまで説明するのかを検討します。調査中でまだ真偽があいまいなことは出さないためにも、情報開示の範囲やスタンスをしっかり決めます。
3 お詫びの対応方法を決める
さらにそれらをどのような形で社外に対して説明していくのか、対応方法を決定します。
事態の大きさや反響の大きさによって変化しますが、お詫びを発表する方法としていちばんライトなのは会社の公式サイト上での発表です。次にプレスリリースという形での公式文書の発表、さらにメディアを集めた記者会見の順になります。社外に対して発表することになるので、同時並行で関係者への説明準備も行います。
4 お詫びを伝えるべき相手の優先順位を確認
最も優先しなくてはいけないのは誰なのか。被害にあわれた方を筆頭に、一般のお客さまや監督官庁、メディア、取引先、株主等々すべての関係者を洗い出したうえで優先順位付けをしていきます。
忘れてしまいがちですが、社員も重要なステークホルダー(利害関係者)です。報道になれば少なからず動揺が広がるでしょうから、“○○の件で誠実な対応をするので協力してほしい”という呼びかけが必要になってきます。一致団結しなければならない場面ですので、社内は大切です。
これらを1〜2日ぐらいのスピードですべて整えます。SNSの拡散は速いので、刻一刻が勝負ですね。
5 記者会見を行う場合は、記者役を立て質疑応答の予行演習も行う
会見を行う際には想定質問をつくり、それに対する回答も準備します。関係部署の責任ある立場の者と協議をしながら進行し、場合によっては社長に決裁もとります。
こうした謝罪会見時に正直でなかったり何かを隠したり、保身や責任転嫁の姿勢が透けて見えてしまうと完全に逆効果です。また、身内のルールで世間一般の感覚と大きくズレたことを言ってしまうとさらに組織を窮地に陥れてしまうことになるので要注意。
一方で、ピンチはチャンスとも言われています。何か不適切なことを起こしてしまったときも、正直にお詫びをして真摯な態度で対応ができれば、評判を高めるチャンスに転じる場合だってあります。
これらの業務のために、何か特別に研修を受けたりされましたか。
私は大学院に通って学び直しをしました。広報や情報の専門大学院で危機管理を専攻し、企業の内部統制や予防的なリスク管理を研究してきたのですが、そこでの学びを今後もっと現場に活かしたいです。たとえばより盤石な危機管理のためには、広報が経営に近い立場で活動することも重要ではないかと考えています。
謝罪会見が必要となるような事態は、起こさないに限ります。私たちは万が一の事態を想定して、これからも常に万全の備えを準備していきます。
教えてくれたのは
プルデンシャル・ホールティング・オブ・ジャパン株式会社 広報マネージャー
林 文恵さん
はやし・ふみえ/1975年、東京都生まれ。上智大学大学院外国語研究科地域研究専攻博士前期課程修了。前職のIT企業を含め、広報歴は15年。勤務しながら社会人大学院生となり、今年社会情報大学院大学広報・情報研究科を修了。現在、風評リスク管理を含む対外広報を担当中。
取材・文
谷畑まゆみ
フリーエディター・ライター。『Domani』「女の時間割。」連載担当。パラサポWEBマガジン連載「パラアスリートを支える女性たち」では、スポーツ栄養士の内野美恵さんの記事が公開中。