「十分イクメンしてると思いますけど、何が間違ってるんですかね?」
Aさん(36歳 メーカー勤務)
2年前に息子が生まれて、去年の4月から妻が職場復帰。子どもはかわいいですよ。生まれたばかりの頃は一目散に家に帰ってお風呂に入れたりあやしたりして、僕も頑張りました。でも、オトコは授乳もできないですし、僕が抱っこすると泣くし。子どもってやっぱお母さんが一番なんじゃないですかね?今も遊ぶのは僕がいいみたいだけど、いざっていう時にはやっぱりカミさんのところに行きますよ。
カミさんは復帰してからというもの忙しそうで、家の中では子どもに夢中。とは言え疲れてるのか、出かける時に子どものものを忘れたりして、まあ僕も怒りはしないけど、そこまでして頑張る必要あるのかなって。夫婦の会話もないし、なんか居場所がないんですよ。食事もね、子どもに合わせてるから味も薄いし、食べた気がしない。夕食まで僕の分を作るのも大変だろうし、自然と外食の回数と酒量が増えました。カミさんと行くんじゃないですよ、会社の仲間内でね。周りの話を聞いてると、みんな同じような境遇で。
もちろん浮気はしてないです。コンプライアンスが厳しくなって、不倫がバレると一巻の終わりっていう空気もありますから、女性とは二人きりにならないように気をつけてます。
週末はみんなで遊園地に行ったりして家族サービスもしてるし、まあそんなに危機感があるわけじゃないんですよ。ただふたり目も欲しいし、カミさんとこのままでいいのかなぁって、まあ悩みというほどじゃないかもしれませんが。
「無意識のうちに植え付けられた男女の役割、見直してみませんか?」
前々回、前回と、Aさんに育児に参加する気持ちがないこと、パートナーへの関心の低さ、そして根底にある無意識の男女差別の3つのポイントを指摘して、どうしたら育児に参加してると言えるのか、というお話をしました。女性からは「その通り!」と賛同の声が多かったものの、男性からは「保育園でも会社でもイクメンって呼ばれてるのに」「ケの育児、見えない育児というけれど、細々としたことはやっぱり女性の方が得意ではないか」「手伝うのではなくて参加しろというけど、参加させてもらえない」という声が多数。
パートナーへの関心の低さについては、「確かに逆の立場だったら困るけど、上司や同僚の手前もあるし育児のために残業を断ることはできない」「妻に関心がないわけではないけど、もう家族だし」と言う男性からの声が多かったんです。これが令和の現実なのでしょうか…。
今回は3つ目のポイント、反響にも見え隠れする無意識の男女差別についてお話ししたいと思います。
そもそも、Aさんのご家族は共働き。奥様が産休をとるのは当然として、育児休暇も会社の育児時短制度も奥様が活用しています。そういうご家庭、多いですよね。なぜ女性が育児休暇をとって育児時短制度を活用することが多いのでしょう?育児時短と時短制度をどちらが使うか、と言う話し合いを出産前にしましたか?なぜか、と言うことさえも考えていない人、多いのではないでしょうか。無意識のうちに「女性は家庭に入るのが基本。その上で、仕事で自己実現したい人や、金銭的に仕事をする必要があればするもの」と考えてはいませんか?
これは男性に限ったことではなく、女性の中にもある考え方かも知れません。私自身も悩みましたし、取材の中で多くの女性が「結婚したいし子どもも欲しい。でも仕事もしたい」と言っているのも聞きました。男性は、社会人として仕事を持ちながら、仕事と家庭のどちらかを選ぶことなく結婚し、子どもを授かれば父親になります。でも、結婚するのも子どもを持つのも「二人」で行うことですよね?なぜ女性だけがどちらかを優先することを前提に悩まなければいけないのでしょう。不思議だと思ったことはありませんか?
男性の方が、社会的地位が高いから?収入が多いから? 確かに日本は2019年の世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ指数」のランキングでも調査対象153カ国のうち121位と下から数えた方が早い、歴然とした男女格差のある国。先進国の中でも最下位ですし、2018年の110位からも順位を落としています。収入の格差も、正社員男性に比べて75%と言う厚生労働省のデータもあり、現実的に考えれば一般的に社会的地位が高く収入が多いのは男性であることは間違いなさそうですね
ただ、2019年5月の会見でトヨタ自動車の豊田章男社長や経団連の中西宏明会長が終身雇用の限界を訴えた通り、日本の新卒一括採用、年功序列、終身雇用制度はすでに崩れようとしていて、今後雇用形態は大きく変わっていくと予想されています。少子化による労働力減少も深刻な問題で、政府は女性の労働力に期待をし、女性活躍推進を標榜しています。また、女性が活躍していない会社は革新性が低いと言われていることから、すでにゴールドマンサックスは女性役員候補が一人もいない企業とはIPOの取引をしないと発表しました(ただし2020年3月現在は欧米に限る)。つまり、新卒で採用された男性が年功序列によって出世し、定年まで働ける時代は終焉を迎え、企業も女性を登用しなければならない時代がやってくるのです。今、奥様より収入が高い男性でも、いつか逆転するかもしれません。
Aさんの息子さんが18歳で成人する頃には、社会も大きく変わっているでしょう。思い出してください。あなたがスマートフォンを持ったのはいつでしたか?日本でiPhoneが発売されたのは2008年。たったの12年前です。2040年には団塊の世代ジュニアも65歳を超えます。その時、息子さんはどんな仕事の仕方をしているでしょう。女性に対する無意識の差別が、彼のキャリアの邪魔をしないことを祈ります。
ご両親に全く自覚がなくても、男性は仕事だけをし、女性が仕事と家事の両立に苦心している光景は、きっとお子さんに影響を与えるでしょう。雇用も安定せず、収入の格差も縮まりそうな今、家庭内の役割を見直した方が将来幸せになれる気がしますが、いかがでしょうか。
いきなり態度が変わると奥様も不審に思うかも知れませんし、慣れない家事・育児にウンザリすることもあるかも知れません。もちろん残業をしなければならない業務についていれば会社の目も気になるでしょう。
でも、きっと家庭での疎外感はなくなるはずですし、奥様の笑顔がたくさん見られるようになりますよ。それこそがAさんが望んでいることではないでしょうか。
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Domani編集部
下河辺さやこ
雑誌Domani&WebDomani副編集長。AneCan、Oggi、Domani、Preciousなど仕事をする女性のためのファッション&美容編集者として女ゴコロを深掘りすること四半世紀。Amazonもなかった時代に入社3年目で出産後、連載「産みたい、でも…」などワーキングマザー向けのコンテンツの立ち上げにも携わる。instagram @sayako_shimokobe