「人事を尽くして天命を待つ」の意味と語源
「人事を尽くして天命を待つ」は、座右の銘として挙げられることも多く、比較的耳にしたことがある方がいらっしゃるかもしれません。「人事を尽くして天命を待つ」は、精一杯のことをしてあとは天命を待つという意味です。
本章では「人事」と「天命」の意味についても詳しく解説します。「人事を尽くして天命を待つ」の読みの難易度は高くなく、「じんじをつくしててんめいをまつ」と読みます。
意味は「力の限りを尽くして天命に任せること」
「人事を尽くして天命を待つ」の意味を、デジタル大辞泉で確認してみましょう。
【人事を尽くして天命を待つ】じんじをつくしててんめいをまつ
力のあらん限りを尽くして、あとは静かに天命に任せる。
(引用〈小学舘 デジタル大辞泉〉より)
つまり、「人事を尽くして天命を待つ」とは、自分ができるすべての努力をしたら、あとは大人しく天命に任せて、事の成り行きを見守るという意味です。
例えば、試験のために夜も眠らず精一杯勉強して、いざ試験を終えたら、あとは悪あがきをせず結果を受け入れようという時の心境が「人事を尽くして天命を待つ」です。やれるだけのことはやったから、後悔はないという意味も含まれています。
「人事」の意味
「人事を尽くして天命を待つ」の「人事」とは、「人間が行う事柄、人間の力でできること」という意味です。「人事を尽くす」という表現は、「その人ができることをすべてやり尽くすこと」を表します。
「人事を尽くす」という表現を使うことで、力の限りやれることはやりきったというニュアンスが伝わりますね。
また、ビジネスの場でよく使われる、採用活動を行う人事とは意味が異なるのでしっかりと意味を押さえておきましょう。
「天命」の意味
「人事を尽くして天命を待つ」の「天命」とは「天の命令、天が人に与えた使命」を意味します。「天命を待つ」は、自分ではどうしようもできない、天からの命令を受け入れようという心の状態です。
また、「天命」には「人の力で変えられない運命、宿命」といった意味もあります。どちらにせよ、「人事を尽くして天命を待つ」の「天命」は、人間を超越した抗えない力に従うとのニュアンスが含まれています。
「天命」と間違えられやすい「運命」は人間の意思を超越してもたらされる、幸せや不幸を意味する「天命」の類語です。
四字熟語で表現すると「人事天命」
「人事を尽くして天命を待つ」は、四字熟語として「人事天命」の形で使われる場合があります。「人事天命」は、人事を尽くして天命を待つを省略した表現であるため、使われるシーンはさほど変わりがありません。
例えば、友人との気兼ねない会話の中では「今回の論文を書くのに10冊以上の書籍を読んだよ。ここまで来たら人事天命だ」のように、「人事を尽くして天命を待つ」を省略して使っても問題ありません。
由来は中国の書物『読史管見』
「人事を尽くして天命を待つ」という言葉は、中国で南宋初期に活躍した儒学者である胡寅(こいん)が残した『読史管見(とくしかんけん)』という書物に由来しています。読史管見の中で、「人事を尽くして天命に聴(まか)す」との文章が登場しますが、これこそが人事を尽くして天命を待つの語源となった文章です。
聴すという表現は、任せるという意味も含んでいるため、のちに「聴す」が「待つ」に変わっていったものとされます。
「人事を尽くして天命を待つ」の類語表現
「人事を尽くして天命を待つ」と似た表現として、次の3つの言葉をご紹介します。
・天は自ら助くる者を助く
・運を天に任せる
・能事畢る
「人事を尽くして天命を待つ」の類語を知っておくことで、いざという時の言い換えが可能になり、表現の幅が広がります。類語表現3つについて、それぞれの表現を詳しくご紹介します。
【類語1】天は自ら助くる者を助く
「天は自ら助くる者を助く」の読み方は、「てんはみずからたすくるものをたすく」です。「天は自ら助くる者を助く」は、英国の作家サミュエル・スマイルズが『自助論(SELF HELP)』の冒頭で引用した言葉として広く知られています。
天は自分で努力した者に救いを与えて幸福をもたらすという意味です。超越的な力によって運命が決定される、「人事を尽くして天命を待つ」と通ずる部分がありますね。
【類語2】運を天に任せる
「運を天に任せる」は、事の成り行きを天に任せるという点で、「天命を待つ」という表現と類似しているといえます。しかし、「人事を尽くして天命を待つ」の表現に含まれている、「人事を尽くす」という部分が、「運を天に任せる」では含まれていません。
「運を天に任せる」は、努力をしたかどうかに関わらず、どうなるかは運次第というニュアンスで使われます。