「鎧袖一触」は簡単に相手を打ち負かすこと
見たとたん読むのを放棄したくなりそうな、「鎧袖一触」という言葉。いったいなんと読むのでしょうか。特に最初の二文字が「鎧(よろい)」と「袖(そで)」という漢字であることはわかっても、まさか「よろいそで」とは読まないだろうし……いったいどう読むの?と、ギブアップしてしまう人が多そうです。
それでは、ヒントです。「鎧」と「袖」はそれぞれ音読みで「がいしゅう」と読みます!さぁ、読めましたか?
正解は……【がいしゅういっしょく】でした!
【鎧袖一触:がいしゅういっしょく】
鎧の袖が一度触れたぐらいで、簡単に敵を打ち負かすこと。
「鎧袖一触」は、鎧の袖が触れた程度で相手を打ち負かすことができることのたとえです。圧倒的な力の差があるという意味でも使われます。
語源は日本の歴史書『日本外史』の記述
「鎧袖一触」の由来は日本の歴史書である『日本外史』の記述にあります。
保元の乱の際、平安時代の武将であった源為朝は上皇に対し、「平清盛輩の如きに至りては、臣の鎧袖一たび触るれば、皆自ら倒れんのみ」と主張しました。
「平清盛の軍は、私の鎧の袖がちょっと触れるだけで皆勝手に倒れるだろう」という内容です。つまり、「自分にとって平清盛は簡単に打ち勝つことができる相手だから、心配は無用ですよ」と豪語したわけです。
ここから、「鎧袖一触」は「圧倒的な差を見せつけて相手を打ち負かす」という意味で使われるようになりました。
ちなみにこの話には続きがあります。「勝負にもならない」と豪語した源為朝ですが、清盛陣営に大打撃を与えたものの軍としては敗れてしまい、伊豆へ流されるという皮肉な結末を迎えています。
「鎧袖一触」の使い方
「鎧袖一触」は、「相手を簡単に打ち負かす」「圧倒的な力の差がある」という意味をもつため、スポーツやビジネスなど、勝負を決める要素がある場面で使用されることが多いです。また、圧倒的な力の差があることを意味することから、「相手にされない」というニュアンスで使われることもあります。
以下では「鎧袖一触」の使い方のポイントを解説します。また、「鎧袖一触」を使った例文もご紹介しますので、使い方の参考にしてください。
スポーツやビジネスの勝敗について表現する
「鎧袖一触」はスポーツにおいて、チームや選手の強さ、勝敗の様子の比喩として使われます。スポーツ新聞の見出しやスポーツの実況などで見聞きしたことがあるという人もいるかもしれません。たとえば「勝負は明らかで、鎧袖一触の強さを見せつけられた」のように使います。
また、ビジネスシーンでも、競合他社との売上競争やライバル社員との出世競争などの場面で使用されることがあります。
相手にされないという意味での使い方も
「鎧袖一触」は、「相手にされない」「話を聞いてもらえない」という意味での使い方もあります。「鎧袖一触」がもつ「圧倒的な強さ」という意味から、このような使い方に転じたと考えられます。
具体的には、「部長に改善案を提案したが、鎧袖一触された」といった使い方です。相手との立場の違いが大きく、「聞いてさえももらえない」というようなニュアンスが込められています。
「鎧袖一触」を使った例文6つ
「鎧袖一触」の使い方のポイントを確認したところで、実際に「鎧袖一触」を用いた例文を見てみましょう。日常的に使われる言葉でないだけに、適切でない場面で使うと空回りしてしまう危険がありますので注意してください。
【例文】
・それまでは無名の選手だったが、強豪揃いの相手に【鎧袖一触】の強さを見せつけ、一気に有名になった。
・史上まれに見る6連勝を果たしたその圧倒的な強さは、スポーツ新聞で【鎧袖一触】と報じられた。
・A社の圧倒的な売上シェアは今年も変わらず、【鎧袖一触】の状況である。
・零細企業であるB社が業界最大手の会社に勝負を挑んたところで、【鎧袖一触】ですぐに自滅するだろう。
・部長に新企画のプレゼンをしたが、【鎧袖一触】された。
・自分に自信があるのは良いことだけど、過信しすぎていると【鎧袖一触】の目にあうよ。
「鎧袖一触」の類語と対義語
「鎧袖一触」にはいくつかの類語や対義語があります。類語としては「楽勝」「瞬殺」「赤子の手をひねる」など、また対義語には「悪戦苦闘」などが挙げられます。いずれもスポーツやビジネスにおいて勝負や競争をする場面で使う言葉ばかりで、「鎧袖一触」と言い換えることができます。
ここからは、「鎧袖一触」の類語と対義語について解説します。
類語は「楽勝」「瞬殺」「赤子の手をひねる」など
「鎧袖一触」の類語の一つである「楽勝」は、楽に勝つことを意味します。一瞬で相手を倒す意味の「瞬殺」も、「鎧袖一触」との置き換えが可能な言葉です。
カジュアルな日常会話においては、相手が誰であっても意味が通じる、これらの言葉を使うことがほとんどでしょう。「楽勝だったので拍子抜けしてしまった」「相手に瞬殺された」などと表すことができます。
また、「鎧袖一触」の類似の慣用表現としては、「赤子の手をひねる」が当てはまります。力が弱く抵抗しない赤子の手は簡単に捻ることができるように、力のない者を簡単に負かしたり、物事を容易におこなうことができるという意味です。「赤子の手をひねるくらい簡単だったよ」という使い方をします。
【楽勝:らくしょう】
1 楽に勝つこと。「大差で―する」→辛勝2 たやすく行えること。簡単なこと。「木登りなんて―だ」【瞬殺:しゅんさつ】
一瞬で相手を倒すこと。多く、格闘技の試合などについていう。【赤子の手を捻る:あかごのてをひねる】力が弱くて抵抗しない者はやすやすと扱うことができる。物事がきわめて容易にできることのたとえ。赤子の腕を捩る。
対義語は「悪戦苦闘」
一方、「鎧袖一触」の対義語としては「悪戦苦闘」が挙げられます。強い敵に対して苦しい戦いをするという意味から、困難な状況の中でなんとか努力をするといった、戦い以外の一般的な状況についても使われるようになりました。文脈の中では「悪戦苦闘する」「悪戦苦闘が続き」というように使い、不利な状況下で必死に努力する様子をあらわします。
【悪戦苦闘:あくせんくとう】
1 強敵に対して非常に苦しい戦いをすること。2 困難な状況の中で、苦しみながら努力すること。「少ない予算で―する」
ビジネスやスポーツで使える「鎧袖一触」をマスターしよう
「鎧袖一触」は、相手を簡単に打ち負かすことのたとえです。圧倒的な力の差があるという意味から「相手にされない」「話を聞いてもらえない」というニュアンスで使われることもあります。
スポーツやビジネスの場面などでいつもの表現に換えて使うことで、会話を引き締めることができます。「鎧袖一触」の意味を正しく理解して、使い方をマスターしましょう。
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(引用すべて〈小学館 デジタル大辞泉〉より)