「三々五々」の基礎知識
「三々五々」は「さんさんごご」と読み、「三三五五」と表記することもあります。「三々五々」を省略した言葉として、同じ意味で「三五」と書くこともありますが、相手に意味が伝わりにくいため、略さずに使用したほうがよいでしょう。
それでは、意味や由来、三と五が使われる理由、例文などの「三々五々」の基礎知識をチェックしましょう。
「三々五々」とは小人数ごとにそれぞれ行動するさま
【三三五五(さんさん‐ごご)】
(副)三人、五人というような小人数のまとまりになって、それぞれ行動するさま。三三両両。「生徒が―帰っていく」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
「三々五々」とは、あっちに三人こっちに五人など小人数ごとにかたまりながら、それぞれで行動するさまを意味する言葉です。あまりはっきりとした時間は決めていない状態で、少人数ごとに集まってくるときなどに使われています。
スマートフォンなどの連絡手段や時計がないような時代から使われていた表現であり、暗黙の了解でなんとなく皆が動くという昔ながらの日本の言葉です。
そのほかにも、人や家などが少しずつあちこちに散らばる様子としても使われます。
「三々五々」の由来
「三々五々」の由来となったものは、七言古詩のなかにある「採蓮曲(さんれんきょく)」の一節だといわれています。これは盛唐期の中国の詩人である李白が記した漢詩です。
「採蓮曲」とは、もともと秋に蓮の根を採る作業の際に歌う曲のことです。李白はそれを蓮に関連する中国の美女・西施(せいし)にたとえてアレンジを加えました。
その採蓮曲のなかに「三三五五垂楊(すいよう)に映ず」という一節があります。意味は「あちらに三人、こちらに五人が楊の木(枝垂れ柳)の影に見え隠れしている」です。この漢詩が日本に入り、「三々五々」という熟語として定着したといわれています。
また、もう1つの語源の説が漢語表現の「三五」です。三五とは「あちらこちらに散らばること」を指し、万葉集や夏目漱石の小説などでも使われています。
「三々五々」に三と五が使われる理由
「三々五々」はどうして三と五が使われるのか、理由をチェックしていきましょう。
そもそも、日本では古くから「三」という数字が神聖な数字として使われてきました。「三種の神器」や「三々九度」などがその例です。また、平安時代に広まった陰陽思想でも、キリが良く縁起がいい数であるとされました。
「三個一組の概念」「五個一組の概念」という考え方もあり、「三」と「五」はともに1つのまとまりを表すものとしてよく使われています。これらの経緯から、三と五が使われるようになったようです。
集まるときと解散するときの「三々五々」の例文
「三々五々」は人が集まるときや解散するときなどによく使われる言葉です。それぞれのケースでの「三々五々」の例文は、以下のとおりです。
<人々が集まるときの三々五々の例文>
・今日の飲み会の参加者たちが、【三々五々】集まってきた。
・始業時間が近づき、皆が【三々五々】仕事を始めた。
<人々が解散するときの三々五々の例文>
・定時を過ぎたため、会社から社員が【三々五々】帰っていった。
・イベントが終わり、観客たちが会場から駅に向かって【三々五々】歩いていく。
なお、「三々五々集まる」や「三々五々帰る」など、「三々五々」のすぐ後には漢字表記の動詞が来ることが多いです。読みやすさを重視するニュースサイトなどで使う場合には、よく「三々五々」のすぐ後に「、」を付けて表記されます。
もう1つの「三々五々」の意味である「人や家などが少しずつあちこちに散らばっている様子」は、あまり使われていない表現です。
使用する際に気を付けたいポイントとして、「三々五々」は副詞であって四字熟語ではないことが挙げられます。「三々五々帰る」のように漢字が連続すると読みにくいため、「三々五々に帰る」と書きたくなるものです。しかし、副詞のため厳密には「三々五々に」と用いるのは誤りであることに注意しましょう。
「三々五々」の類語や対義語と、「三」や「五」を使う四字熟語
「三々五々」と言い換えがしやすいのは「三々両々(さんさんりょうりょう)」です。対義語には「一同に」「一斉に」「一丸となって」などがあります。
また、「三々五々」と漢字表記した際の見た目が似ている、「三」や「五」を使う「三令五申」などの言葉と意味も解説します。それでは、三々五々の類語や対義語、「三」や「五」を使う四字熟語をチェックしましょう。
「三々五々」の類語
「三々五々」と言い換えができる類語には、「三々両々」「ちらほら」「まちまち」「ぽつぽつ」「ぱらぱら」「ばらばら」「てんでばらばら/てんでんばらばら」などがあります。
たくさんある類語のなかでも、とくに似ているものは「三々両々」だといわれています。「三々両々」の意味は「少人数のまとまりで行動するさま」と、「あちこちに散在する様子」です。意味はほとんど同義であるものの、「三々五々」のほうが使用頻度が高く、「三々両々」はあまり使われていません。
そのほかの類語の意味は、以下のとおりです。
・「ちらほら」まばらにあるさま
・「まちまち」それぞれが異なること
・「ぽつぽつ」あちこちに少しずつあるさま
・「ぱらぱら」まばらに散らばるさま
・「てんでばらばら/てんでんばらばら」まとまりがないさま
類語も確認して、使える言葉のバリエーションを増やしましょう。
「三々五々」の対義語
「三々五々」の対義語として使われている表現は、「一同に」「一斉に」「一様に」「一丸となって」「どっと」「勢ぞろいして」などがあります。対義語となる言葉の意味は、以下のとおりです。
・「一同に」一緒に、いっせいに
・「一斉に/いっせいに」同時にそろって何かをすること
・「一様に」すべて同じ様子であること
・「一丸となって」ひとまとまりになること
・「どっと」多くの人や物が一時に移動する、押し寄せるさま
・「勢ぞろいして」ある目的のため一カ所に集まること
「三」「五」を使った四字熟語
「三々五々」のように「三」や「五」を使った言葉には、「三令五申(さんれいごしん)」「三老五更(さんろうごこう)」「五障三従(ごしょうさんじゅう)」などがあります。それぞれの簡単な意味は以下のとおりです。
・「三令五申」三度命令し、五度重ねて伝えること。丁寧に繰り返し命令すること
・「三老五更」天子が父兄の礼をもち養った長老のこと。高い徳を積んだ長老のこと
・「五障三従」女性に与えられた宿命である五種の障りと三種の忍従のこと
「三々五々」の意味を理解して正しく使おう
「三々五々」とは少しずつのまとまりとなって行動するさまを意味する言葉です。また、少しずつあちこちに散らばる様子という意味もありますが、こちらはあまり使われていません。
「三々五々」が使われるケースで多いのは、集まってくる場面と離れていく場面です。厳密に決められた時間にしたがって全員が動くというよりも、暗黙の了解でなんとなく動く場面で使われる傾向にあります。「三々五々」の意味を知り、正しく使用しましょう。
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