「沙羅双樹」の基本知識
『平家物語』の冒頭に出てくることで有名な「沙羅双樹」は、淡い黄色の花を咲かせる樹木のことです。ジャスミンのような爽やかな香りを漂わせながら、3~7月ごろに花を咲かせます。
しかし「沙羅双樹」は寒さに弱いため、日本では滋賀県にある植物園でしか見られません。仏教において大変重要な意味を持つため、寺院などに植えられる「沙羅双樹」ですが、そのため日本では夏椿を代用しています。夏椿は一日花であり、儚い様子が「沙羅双樹」に似ているといわれています。タイやベトナムでは、サーモンピンクの花をつけるホウガンノキで代用されています。まずは「沙羅双樹」の基本知識を確認しましょう。
インド原産、寒さに弱い常緑樹
沙羅双樹(さらそうじゅ)
1.フタバガキ科の常緑高木。高さ約30メートルに及び、葉は光沢のある大きな卵形。花は淡黄色で小さい。材は堅く、建築・器具用。樹脂は瀝青(れきせい)(チャン)の代用となり、種子から油をとる。インドの原産。さらのき。さらじゅ。しゃらそうじゅ。
2.釈迦がインドのクシナガラ城外のバッダイ河畔で涅槃(ねはん)に入った時、四方にあったという同根の2本ずつの娑羅樹。入滅の際には、一双につき1本ずつ枯れたという。しゃらそうじゅ。
3.ナツツバキの俗称。
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
「沙羅双樹」は、淡くて黄色の小さな花を咲かせる樹木のことです。開花時期は3~7月ごろで、4月が見ごろとされています。花の香りはオレンジやジャスミンが合わさったような爽やかな香りが特徴です。
【沙羅双樹の基本情報】
科:フタバガキ科
属:コディアウエム属
原産国:インド
分類:常緑高木
開花時期:3~7月
別名:沙羅の木
「沙羅双樹」はインドの中北部からヒマラヤの暑い地域に分布しており、日本では温室環境のある植物園でしか見られません。日本で唯一見られるのが、滋賀県にある「水生植物公園 みずの森」です。「沙羅双樹」を見てみたい人は、ぜひ訪れてみてください。
日本の寺院などでは夏椿が代用されている
寒さに弱い「沙羅双樹」は、日本の気候に適していません。そのため、日本では見た目の似ている夏椿を「沙羅双樹」の代用として寺院などに植えています。
夏椿とは5~7月頃に白の花を咲かせ、秋には紅葉を楽しめる樹木のことです。朝に花を咲かせ、夕方には散ってしまう一日花であることから、儚さを表現している「沙羅双樹」に似ているといわれています。
【夏椿の基本情報】
科:ツバキ科
属:ナツツバキ属
原産国:日本
分類:落葉広葉、小高木
開花時期:5~7月
別名:沙羅双樹、沙羅の木、沙羅
地域によっては、すべすべとした木肌からサルスベリとも呼ばれている植物です。またタイやベトナム、ミャンマーといった国では、ホウガンノキを沙羅双樹の代わりにしています。
【ホウガンノキの基本情報】
科:サガリバナ科
属:ホウガンノキ属
原産国:南アメリカ
分類:常緑高木
開花時期:3~5月
別名:ホウガンボク
ホウガンノキは、サーモンピンクの色をした花を咲かせることが特徴です。花が咲いた後に10~20cmほどの砲丸のような実を実らせることから、ホウガンノキと呼ばれています。
花言葉は付けられていない
「沙羅双樹」には、花言葉がありません。ときおり「沙羅双樹」の花言葉が「愛らしい」といわれることがありますが、これは夏椿の花言葉です。夏椿にはほかにも「はかない美しさ」「愛らしい人」「哀愁」といった花言葉があります。
正確には「沙羅双樹」と夏椿は別の樹木であるため、同じ花言葉を持つわけではありません。混同しないように注意しましょう。
「沙羅双樹」の由来や歴史
「沙羅双樹」の由来は、お釈迦様の入滅が関係しています。お釈迦様が入滅した際に、2本の対になった「沙羅双樹」が生えていたことが由来といわれています。
また「沙羅双樹」は、三大聖木のひとつといわれており、仏教において重要な樹木です。どの木もお釈迦様と深い関わりを持っており、仏教において欠かせない樹木とされています。ここでは、「沙羅双樹」の由来や歴史について詳しく解説します。
お釈迦様が入滅した場所に成育していた
「沙羅双樹」の由来は、お釈迦様が入滅した場所に成育していたことだといわれています。お釈迦様が旅の途中で最期を迎える場所に選んだところに、2本の対になった「沙羅双樹」が成育していたのです。
またお釈迦様が亡くなる際に、「沙羅双樹」は花を咲かせており、良い香りが周囲に漂っていました。その後、一度は枯れたものの、お釈迦様の入滅を悲しんで、再度花を咲かせ、お釈迦様の周囲を埋め付くすかのように、花びらが舞い散ったといわれています。
「沙羅双樹」の由来は諸説あるものの、沙羅の木が2本生えていた様子を指して「沙羅双樹」と呼ばれるようになったのです。
「沙羅双樹」は三大聖木のひとつ
「沙羅双樹」は、仏教において重要な役割を持つ三大聖木のひとつです。三大聖木とは、「沙羅双樹」「無憂樹(むゆうじゅ)」「菩提樹(ぼだいじゅ)」の3本の樹木のことを指し、それぞれお釈迦様と関連の深いエピソードを持っています。
「沙羅双樹」以外の樹木に関するエピソードは、以下のとおりです。
<無憂樹>
お釈迦様は、「無憂樹」の木の下で生まれたといわれています。「無憂樹」はマメ科の植物で、だいだい色から黄色の花を咲かせることが特徴です。インドでは、結婚や出産、誕生に関わる幸福の木として愛されています。なお、別名は「阿輸迦の木(あそかのき)」です。
<菩提樹>
お釈迦様が35歳のときに、「菩提樹」の下で悟りを開かれたといわれています。「菩提樹」は、葉っぱの先が長く伸びているのが特徴で、インドの国樹でもあります。サンスクリット語で完全に理解する、覚醒するといった意味を持つ「ボーディー」という言葉が由来です。
三大聖木のそれぞれがお釈迦様と深い関りがあることから、仏教の世界では大切にされている樹木です。ちなみに、滋賀県にある「水生植物公園 みずの森」では「沙羅双樹」のみならず、「無憂樹」と「菩提樹」も鑑賞できます。
『平家物語』にも登場する
「沙羅双樹」は、『平家物語』に登場する樹木としても有名です。『平家物語』とは、鎌倉時代にできたとされている軍記物語のことです。平安時代に活躍した琵琶法師によって広められました。
『平家物語』の冒頭には「祗園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり、沙羅双樹の花の色、盛者必滅の理をあらはす」と記載されており、学校で学んだ人も多いでしょう。この世の移り変わりを、「沙羅双樹」の花の色に例えて表現しています。
「沙羅双樹」に詳しくなろう
「沙羅双樹」は、淡くて黄色の花を咲かせる樹木のことです。3~7月ごろに開花し、4月ごろに見ごろを迎えます。しかし「沙羅双樹」は寒い気候に適さないため、日本では滋賀県にある植物園でしか見ることができません。
そのため日本では、夏椿を代用しています。また「沙羅双樹」は、お釈迦様が亡くなった場所に成育したことが由来とされています。三大聖木のひとつといわれており、仏教において重要な樹木です。
写真・イラスト/(C) shutterstock.com
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