目上の人には使わない
「老婆心」は、語源からもわかるように、年長者から目下の者に対して忠告などをする言葉です。そのため、「老婆心ながら」を使うのは相手が目下の場合に限られます。へりくだる表現だからと、上司や取引先などに使わないように注意しましょう。
目上の人に助言などをする場合は、「僭越ながら」「失礼ながら」「恐縮ではございますが」といった表現を使います。
言い換えの例文
・僭越ながら、率直な意見を申し上げます。
・失礼ながら、今後同じことを繰り返さないよう忠告申し上げます。
・恐縮ではございますが、ひとつ提案をさせていただきたいと思います。
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【実際の体験談】ビジネスシーンでの「老婆心」の使い方
ここでは、実際にビジネスシーンで「老婆心」という言葉を使用した際の体験談を紹介していきます。
【episode1】相手によっては不快感を与えてしまうおそれもある
Sさん(管理職、43歳)
部下がクライアントへの提案資料で、明らかなミスをしていることに気づきました。私は彼に「老婆心ながら、その資料の数字は再確認した方がいいと思うよ」と伝えました。しかし、彼はなぜか顔を曇らせてしまい、「わかっています」とそっけない返事。後で彼に話を聞くと、「上司に『老婆心』と言われたことで、自分の能力を否定されたような気がした」と言われたのです。私は、親切心から使ったつもりが相手に不快感を与えてしまったことにショックを受けました。管理職として、相手の受け取り方を考慮した言葉を選ぶことの重要性を痛感しました。この件以来、部下への忠告は「念のため、確認しようか」や「もしよかったら、一緒に見てみようか」など、より柔らかく協力的な言い方に変えるように心がけています。
【episode2】「老婆心から」という言葉には真摯な気持ちが込められている
Iさん(主任、30歳)
以前、重要な経営会議で役員が「老婆心から申し上げますが、このままでは業界の変化に対応できません」と発言したのを聞きました。私はその言葉に、単なる批判ではなく、会社全体を心から心配されている親心のようなものを感じたのです。「老婆心ながら」と「老婆心から」…どちらも似ていますが、前者が「余計なおせっかい」という謙虚さを表すのに対し、後者には「心底からそう思っている」という真剣な思いを伝えるニュアンスがあります。役員は、自分個人の意見ではなく、会社全体の未来を案じる真摯な気持ちを込めて「老婆心から」という言葉を選んだのだと理解しました。言葉の重みを使い分けることで、伝えたいメッセージの真意がどれほど深く伝わるかを学ぶ貴重な体験でした。
ビジネスシーンで使える「老婆心」の例文
「老婆心」を使った例文をいくつかご紹介しましょう。文章にすることで、言葉の意味がより深く理解できます。
例文
・老婆心ながら、今回の企画にはいくつかの意見がある。
・老婆心ながら忠告するが、そのような態度だと不利な立場になってしまうよ。
・彼の無礼な振る舞いに対し、その婦人は老婆心からいくつかの苦言を述べた。
・彼女は新入社員に対して老婆心を隠すことができず、あれこれと世話を焼きすぎる。
・老婆心から言わせてもらうが、無理をせず少しは休暇を取ったほうがいい。
・上司は口やかましいが、老婆心から言ってくれているのだと思う。
・老婆心ながら、今後のキャリアを考えて早めに資格取得を検討してはいかがでしょうか。
・老婆心ながら、その新規事業は現在の経営資源だけでは難しいかもしれません。
・老婆心ながら、彼にはもう少し早くから準備を始めてほしかったな。
・老婆心ながら、あの人は少し頑張りすぎている。休むことも仕事のうちだと伝えたい。
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「老婆心」は男性が使っても問題なし
「老婆心」は「老婆」という言葉が使われ、高齢女性の気持ちを語源としていますが、男性が使っても問題はありません。一般的な慣用句となっており、性別関係なく使われる言葉です。特に「老婆心ながら」は定着したフレーズで、男女関係なくよく使います。
ちなみに、年取った男性のことを「老爺」と呼びますが、「老爺心」という言葉は存在しません。
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「老婆心」の類語
「老婆心」には「余計なお世話」「お節介」など、よく似た言葉もあります。どちらも、必要以上に世話を焼く「老婆心」に通じる言葉です。
よりネガティブな表現として、「親切の押し売り」「差し出がましい」といった言葉もあります。「老婆心」という言葉が使いにくい場合など、使う場面により使い分けるとよいでしょう。ここでは、「老婆心」の類語についてご紹介します。
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余計なお世話(よけいなおせわ)
「余計なお世話(よけいなおせわ)」は、必要のない親切心という意味です。人の助言や親切を拒絶するような場面で使います。「大きなお世話(おおきなおせわ)」も同じ意味です。
「老婆心」は「必要以上の」親切心であるのに対し、余計なお世話は「必要ではない」というニュアンスがあり、厳密には意味は異なります。よりネガティブな意味合いといえるでしょう。
また、「老婆心ながら」に変えて「余計なお世話かもしれないが」というへりくだった表現が使われることもあります。
例文
・親切で言っているのかもしれないが、どのようなアドバイスも余計なお世話だ。
(へりくだった表現で使う場合)
・余計なお世話かもしれないが、あの人とはあまり関わらない方がいいよ。
お節介
「お節介」とは、必要のない世話を焼くことです。「余計なお世話」と同じく、必要のない親切心という点が老婆心とは異なります。忠告や親切心を否定するネガティブな言葉といえるでしょう。
「お節介」も、「老婆心ながら」に変えてへりくだった表現として使えます。
例文
・あの人はいつもお節介な振る舞いをして、場の雰囲気を壊してしまう。
(へりくだった表現で使う場合)
・お節介かもしれませんが、その服装はTPOにふさわしくないかと思います。
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思いやり
「思いやり」とは、相手の気持ちや立場を想像し、相手がどうしてほしいかを考えて心を配ることです。「必要以上の親切心」である老婆心に対して、「相手のためになる適度な親切心」を思いやりと表現します。
例文
・彼女の行動には、いつも周りの人への深い思いやりが感じられる。
・言葉にしなくても伝わる温かい思いやりが、このチームにはある。
親切の押し売り
「親切の押し売り」とは「相手が求めていない」にも関わらず、一方的に親切をすることです。相手のためを思っているつもりでも、実際には相手に負担をかけたり、迷惑をかけたりしている状況を揶揄する際に使われます。
例文
・上司が良かれと思って定時後に長々と仕事の進め方を教えてくれるが、部下にとっては親切の押し売りでしかない。
・「おせっかいだと思われたくない」という気持ちがあり、親切の押し売りにならないよう気を付けた。
差し出がましい
「差し出がましい」とは、自分の立場や身の程をわきまえずに出すぎたことをする様子を表現した言葉です。主に、目上の人や自分よりも専門的な知識を持つ人に対して、意見を述べたり助言をしたりする際に、謙虚な気持ちを表すクッション言葉として使われます。
例文
・差し出がましいとは存じますが、今回の企画には再検討が必要かと思われます。
・差し出がましいお願いで恐縮ですが、この件についてご協力いただけますと幸いです。
「老婆心」の英語表現
「老婆心」を直訳する英語表現はありませんが、文脈によっていくつかの言い方があります。
相手を思う気持ちから、余計なおせっかいかもしれないと謙遜して助言するニュアンスを伝えるには、以下のような表現が使えるでしょう。
例文
・For what it’s worth(私の意見にどれほどの価値があるかわかりませんが)
・I know it’s not my place to say, but…(私が言うべきことではないかもしれませんが..)
「老婆心」に関するよくある質問
「老婆心」という言葉に関して、よくある質問とその回答を紹介します。
Q. 「老婆心ながら」と「老婆心から」はどう違いますか?
「老婆心ながら」は、「老婆心で、余計なおせっかいだとは思いますが」というへりくだった気持ちを表現する際に使います。相手に助言や忠告をする際の前置きとして、自分の意見がでしゃばっているかもしれないという謙虚さを示すクッション言葉です。
一方、「老婆心から」は「老婆心という気持ちが理由で」という意味になり、純粋に相手を思う気持ちが動機であることを説明する際に使います。謙譲のニュアンスよりも、「あなたのことを心から心配しているので言っています」という真摯な気持ちを強調します。
例文
・老婆心ながら、念のため、この件は再度ご確認いただいた方がよろしいかと存じます。
・これは老婆心から申し上げているのですが、あなたの健康を第一に考えてください。
Q. 「老婆心ですみません」は失礼ですか?
「老婆心ですみません」という表現は、使い方によっては失礼にあたる可能性があります。
「老婆心」という言葉自体が「余計なお世話かもしれませんが」というへりくだったニュアンスを含んでいるため、それに加えて「すみません」と言うとへりくだりすぎている印象を与えます。「老婆心ですみません」というニュアンスを伝えたいのであれば、下記の表現がおすすめです。
例文
・老婆心ながら、~させていただいてよろしいでしょうか。
・老婆心ながら、~ではないかと思いまして。
Q. 「老婆心」を使わない柔らかい言い回しは?
「老婆心」を使わない柔らかい言い回しとしては、下記の例が挙げられます。
「老婆心」を使わない柔らかい言い回し
・念のため
・ご参考までに
・差し出がましいようですが
・もしよろしければ
・僭越ながら
・何かお困りのことはございませんか?
「老婆心」は使う相手に注意しよう
- 老婆心は主に目下の人や同じ立場の人に使う言葉であり、目上の人にはあまり使わない
- 老婆心の言い換え表現には余計なお世話・お節介・差し出がましいなどがある
- 「老婆心ながら」と「老婆心から」は似た表現だが含まれるニュアンスが異なる
「老婆心」は、必要以上に親切にしたり世話を焼いたりすることです。「老婆心ながら」というフレーズで、目下の人に忠告やアドバイスをするときによく使われます。目上の人に使う言葉ではないため、使い方には注意しましょう。
類語には「余計なお世話」「お節介」などがあり、どちらも「老婆心ながら」と同じようにへりくだった表現で使われます。例文も参考にしながら、「老婆心」の正しい使い方を確認しておきましょう。
また、相手に助言や忠告をする際に謙虚さを伝える前置きとしては「老婆心ながら」という表現が使われることが多いです。一方、純粋に相手を思う気持ちが動機であることを説明する際には「老婆心から」を使うなど、状況によって使い分けてみましょう。
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Domani編集部
Domaniは1997年に小学館から創刊された30代・40代キャリア女性に向けたファッション雑誌。タイトルはイタリア語で「明日」を意味し、同じくイタリア語で「今日」を表す姉妹誌『Oggi』とともに働く女性を応援するコンテンツを発信している。現在 Domaniはデジタルメディアに特化し、「働くママ」に向けた「明日」も楽しむライフスタイルをWEBサイトとSNSで展開。働く自分、家族と過ごす自分、その境目がないほどに忙しい毎日を送るワーキングマザーたちが、効率良くおしゃれも美容も仕事も楽しみ、子供との時間をハッピーに過ごすための多様な情報を、発信力のある個性豊かな人気ママモデルや読者モデル、ファッションのみならずライフスタイルやビジネス・デジタルスキルにも関心が高いエディターたちを通して発信中。https://domani.shogakukan.co.jp/