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LIFESTYLE 夫婦

2022.07.30

不妊治療、保険適用で何が変わった?【専門医インタビュー】

 

5.5組に1組のカップルが不妊治療もしくは検査を受けている時代。今や不妊治療は特別なことではなくなった一方で、「辛い」「大変」といった声もまだまだ多く聞かれます。そんな不妊治療の痛みに寄り添い、解決しようと今年の4月に不妊治療クリニック「torch clinic」を開業した市山さんにお話を聞きました。

不妊は今や誰もが抱えうる時代

「不妊は65%が女性に原因、48%が男性に原因があると言われています。男性に原因があっても、実際の治療に通うのは女性が主体。治療を進めていくうちにカップルの間でモチベーションや知識に差が開いてしまうことも多いです。また、長時間拘束され、診療のスケジュールも立てづらい不妊治療は仕事との両立が非常に大変。働く女性の17%近くが不妊治療を理由に離職するというデータもあります」

晩婚化と情報格差による治療開始の遅れ

日本は体外受精をはじめとした高度生殖医療の件数が年間およそ45万件と、先進国の中でもトップクラスの件数にもかかわらず、1回あたりの妊娠率は低いというデータがあります。これは晩婚化や不十分な性教育など、さまざまな要因により、40歳を超えてから不妊治療に取り組む人が多いことによるものです。年齢が高くなるほど女性の卵子の数は減少し、卵質も低下していくため、妊孕性(にんようせい/妊娠のしやすさや能力)は徐々に低下し、流産率が高くなるんだそう。

「日本では性教育が十分でなく、妊孕性に対するリテラシーも海外に比べると低いと言われています。結婚した当初は、『子どもはあと数年経ったら』と考えていたものの、なかなか自然妊娠ができず、気づいたときには妊孕性が低下してなお選択肢が狭まっているケースも少なくありません。晩婚化にともなって、不妊治療患者は今後も増え続けることが予想されます。学校や企業での性教育をもっと充実させ、結婚時など適切なタイミングで自分の身体に向き合うような仕組みをつくることでこの現状を変えたいと思っています」

保険適用化により治療方針はパラレルに選択可能に

経済的な負担も不妊治療においては大きな障壁となります。これまで1回の高度生殖医療にかかる費用は一般的に30万から100万円程度と言われ、治療が長期化すればそれだけ経済負担も大きくなります。今年の4月に不妊治療の大部分が保険適用されることになり、経済的な負担が大幅に軽減されると期待が高まります。

「これまでの不妊治療の選択はステップアップ法といい、自然妊娠しなければタイミング法、タイミング法でできなければ人工授精、それでも妊娠しなければ顕微授精や体外受精に進む、といった形で段階的により高度な治療法に進める方法を主にとっていました。特に若年層にとっては経済的な理由で治療を途中段階で諦めることも多かったのが現状です。今回の保険適用化により経済的な負担が減り、患者さんごとの年齢や身体の状態、将来の家族計画に合わせ、パラレルに治療方針を選択することができるようになります。

不妊治療は手段でしかなく、二人にとっての幸せな家族計画を実現することがゴール。そのために、いつまでに何人子どもが欲しいのか?なぜ子どもが欲しいのか?いつまで不妊治療に取り組むのか?といった内容を丁寧にヒアリングします。お二人が不妊治療についてきちんと理解した上で、与えられた選択肢と向き合い、決めることが重要です。」

保険適用にはデメリットとなる側面も

保険適用化によって治療の選択肢が増える反面、今後起こりうる弊害についても市山さんは指摘しています。

「これまでの不妊治療は自由診療がゆえに治療が標準化されにくく、クリニックごとに研究が行われ、独自の技術が磨かれ発展してきた側面があります。保険が適用されるということは、治療が保険に合わせて標準化されるわけですから、新しい治療法の確立は却って難しくなる可能性があります。人によって身体の状況も違うため、標準化によってかえって治療の選択肢が狭まってしまう人もいるのです。また保険点数の上限が決まることにより、これまで行っていた治療内容によっては採算が合わず、医院の経営を圧迫してしまうことも。保険適用化は一概にメリットだけがあるとは言えないのが現状ですね。

とはいえ、治療が標準化されることでどの医院に行っても同じ金額で治療が受けられるようになります。これまで不妊治療のデータは各クリニックや病院内に蓄積され、年に数回行われる学会や論文で共有されることが一般的でした。保険適用にともなってデータが共有・蓄積されやすくなることで、治療方法や技術が進歩する可能性はあります。何より今回の保険適用化によって、多くの人が不妊治療に関心をもち、制度や教育が今後変わっていくきっかけになることを願っています」

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教えてくれたのは

市山 卓彦さん

トーチクリニック 院長/日本産科婦人科学会 専門医・指導医 / 日本生殖医学会 専門医
トーチクリニック恵比寿   https://torch.clinic/


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