一任とは物事の処理・決定のすべてをまかせること
一任(いちにん)とは、物事の処理・決定のすべてをまかせることです。たとえば、次のように使います。
・今度のイベントに関する決定は、部長に一任します。
・彼女が一任されたからには、チーム一丸となって協力していきたい。
一任はすべてをまかせることのため、部分的あるいは特定の事柄に関してまかせるときには使えません。部分的にまかせるときには、単に「まかせる」「委ねる(ゆだねる)」と表現するほうが適切といえます。
【一任】いちにん
1.物事の処理・決定のすべてをまかせること。「動議の扱いを議長に―する」
2.律令制で、一人の官の限られた任期。
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
ビジネスシーンでの一任の使い方
物事の処理や決定が日常的に行われるビジネスにおいては、特定の人や団体に責任をまかせる「一任」の言葉はよく使われます。「一任」が使われる主なパターンとしては、次のものが挙げられます。
それぞれのパターンについて、例文を通して使い方を見ていきましょう。
自分が相手に「一任する」とき
自分が相手に「一任する」ときは、次のように使います。
・今度のプロジェクトの進行を君に一任したいと思っている。
・この企画については彼が適任だと思い一任しすることにした。
第三者が相手に「一任する」とき
第三者が相手に「一任する」ケースもあります。
・取引先から次回の会議の日程を一任されたが、日程調整は簡単ではない。
・彼はプロジェクトマネージャーとして管理を一任されているそうだ。
一任と類似する意味の言葉を例文でご紹介
一任と類似する意味の言葉としては、次のものが挙げられます。
それぞれの使い方やニュアンスの違いについて、例文を通してご紹介します。
まかせる
「まかせる(任せる、委せる)」とは、仕事などを他にゆだね、自由にさせることや、相手の好きなようにさせることです。
・家事の半分をパートナーにまかせることで、自由な時間が増えた。
・昨日の草野球の試合結果はご想像におまかせします。
「そのままにしておく」や「放っておく」という意味で、「まかせる」の言葉を使うこともあります。
・風が強く、セットした髪の毛が無茶苦茶になったが、乱れるにまかせておいた。
・成り行きにまかせることで物事がうまくいくこともある。
他力本願
「他力本願(たりきほんがん)」とは、自らの修行の功徳によって悟りを得るのでなく、阿弥陀仏の本願によって救済されることを指す仏教の言葉です。浄土思想による救済の考え方とされています。
また、自分の努力でするのではなく他人がしてくれることに期待をかけることや、人まかせにすることも他力本願と表現することがありますが、誤用が定着したものと考えられています。
・常に他力本願でいると、実力を身につけるには時間がかかるだろう。
・これまで他力本願の精神で乗り切れたことも多く、周囲の人間には感謝して生きていきたい。
他力本願は他人(阿弥陀仏)まかせの考え方であることから、努力とは対極にある思想として、ネガティブな意味で使われることも少なくありません。しかし、「積極的に他人を信じる」や「相手の力量を認める」といった点に注目すれば、ポジティブな意味合いで活用できます。
丸投げする
「丸投げする(まるなげする)」とは、本来なら担当すべき業務をそっくり他者にまかせることです。「一任する」のは自分自身がしなくてはいけないこととは限りませんが、「丸投げする」のは本来は自分ですべきことである点が異なります。
・制作の進行が遅れており、あとはアシスタントたちに丸投げしたい…。
・彼と協力して掃除をするようにといわれたが、歯医者の予約を忘れていたため彼に丸投げさせてもらった。
バトンタッチする
「バトンタッチ」とは、リレー競争で、走者が次の走者にバトンを手渡すことです。バトンパスともいいます。また、仕事や責任などを後任者に引き継ぐことも「バトンタッチ」と表現します。
・1月になったので、そろそろ2年生に部活の運営や管理をバトンタッチしようと思う。
・彼女からバトンタッチされた仕事は、思いのほか難しかった。
「バトンタッチする」は自分の仕事や役目を別の人に引き渡す意味で使う言葉のため、担当していなかった仕事や役目を他人にまかせるときにはふさわしくありません。「まかせる」や「一任する」などの言葉を使うようにしてください。
下駄を預ける
「下駄を預ける(げたをあずける)」は、相手に物事の処理の方法や責任などを一任することです。部分的にではなく全体をまかせるときに、使われる言葉です。
・大まかな方向性が決まったので、あとの処理は君に下駄を預けるよ。
・後任の担当者に下駄を預け、わたしはノータッチとしていた。
下駄を使ったことわざには、「下駄を履くまで」や「下駄を履かせる」などがあります。「下駄を履くまで」とは「最後の最後まで」や「物事が終わるまで」の意味で使われる言葉です。
・下駄を履くまで勝負はわからない。
・結果がどうなるかは、下駄を履くまでわからないものだ。
また、「下駄を履かせる」とは、価格を高く偽ることや、数量・点数などを水増しして実際よりも多く見せることを意味する表現です。
・点数に下駄を履かせたのではないか?と言われることもあるが、毎日欠かさず勉強してきた結果だ。
・及第点ではなかったが、今まで努力してきたことを考えて下駄を履かせよう。
ビジネスシーンで正しく使おう
「一任する」とは、すべてをまかせるときに使う言葉です。そのため、一部をまかせるときや特定の項目だけをまかせるときには、適切な言葉ではありません。正しいシチュエーションを選んで、使うようにしてください。
また、「下駄を預ける」や「丸投げする」は類似した表現です。状況に合っているか確認してから使いましょう。
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