「モラトリアム」とはどういう意味?
「モラトリアム」は、文脈によって使い方が変化する言葉です。由来を知れば共通のニュアンスが分かり、なぜその使い方になったのかを理解しやすくなるでしょう。日本語と英語の「モラトリアム」の基本的な意味を解説します。
「一時停止・猶予」などの意味を持つ言葉
モラトリアム(moratorium)の意味は、「一時停止」「猶予を与える」「猶予期間」です。政治・経済の用語では、金銭債務の支払いに関して「一定期間猶予すること」「支払猶予」という意味合いになります。
法律・科学の分野においては「一時停止」「一定期間の停止」「凍結」を意味し、核実験や原子力発電所設置について述べるときに用いられる言葉です。
モラトリアムを理解するには、何に対して使われているのか、分野に注意するのがポイントといえます。
モラトリアム(moratorium)
1 支払猶予。法令により、金銭債務の支払いを一定期間猶予させること。戦争・天災・恐慌などの非常事態に際して信用制度の崩壊を防ぎ、経済的混乱を避ける目的で行われる。
2 製造・使用・実施などの一時停止。多く、核実験や原子力発電所設置などにいう。
3 肉体的には成人しているが、社会的義務や責任を課せられない猶予の期間。また、そこにとどまっている心理状態。
(引用:小学館 デジタル大辞泉)
語源は英単語の「moratory」とされる
モラトリアムの由来は「支払い延期の」「支払い猶予の」という意味を持つ英語「moratory(モラトリー)」だとされています。moratoryは名詞を修飾する形容詞ですが、語尾の“y”が変化して名詞のmoratorium(モラトリアム)になったようです。
語源が支払いに関する用語なので、モラトリアムが本来は金融系の分野で使われていたのも自然な流れといえるでしょう。
moratorium とは
[名](複-ri・a /-riə/,~s)C
1《金融》モラトリアム(◇金融危機などの際における預金その他債務の一時的支払猶予(期間))
2〔通例a [the] ~〕(活動などの)一時停止;(危険物の)一時製造[使用]禁止≪on≫
(引用:小学館 プログレッシブ英和中辞典)
「モラトリアム」の関連用語・派生語
モラトリアムの派生語には、個人の成長・心理に関わる言葉が多いので、金融よりもなじみがあるかもしれません。本来の意味から派生した「モラトリアム人間」「モラトリアム期間」などを挙げて紹介します。
精神的に未熟な大人「モラトリアム人間」
モラトリアムに関連する用語として「モラトリアム人間」があります。モラトリアム人間とは、肉体的には大人の段階でも、精神的には社会的責任を負う準備ができていない人のことです。
モラトリアム‐にんげん【モラトリアム人間】
年齢では大人の仲間入りをするべき時に達していながら、精神的にはまだ自己形成の途上にあり、大人社会に同化できずにいる人間。
(引用:小学館 デジタル大辞泉)
日本では「モラトリアム人間の時代」という本がきっかけで広まったといわれています。「モラトリアム人間の時代」の著者は、精神科医の小此木啓吾氏です。
モラトリアム人間は、必ずしも年齢が若い人を指す言葉ではありません。たとえば、親の収入を当てにして、真剣に自分の将来を考えない大人もモラトリアム人間と呼ばれる傾向にあります。社会の責任を負わない心理・行動がモラトリアム人間の特徴の一つといえるでしょう。
大人になるための準備期間「モラトリアム期間」
「モラトリアム期間」は、「大人になることへの猶予」を意味します。もともとは、社会に出る前の青年が自由を許された期間のことをいいます。
職業選択やアイデンティティー確立を準備する時期であり、「モラトリアム期間」という言葉自体にネガティブな意味はありません。
現在では年齢を問わず使われ、社会に出て就職したり結婚したりした後でも、自分のやりたいことや価値観が分からず迷っている時期をモラトリアム期間と呼ぶことがあります。
働く意味や目的を見失った状態「モラトリアム傾向」
「モラトリアム傾向」は、自分が納得できる目標や、やりがいを感じられる事柄を見つけられない心理状態を表します。就職活動などで受ける適性検査で、耳にすることの多い言葉です。
モラトリアム傾向が高くなると、周囲の物事に意味を見いだせず、無関心や不満が表れやすくなるといわれています。自分の生き方や方向性に自信が持てないため、向上心が低くなり、ひどいときには無気力になってしまうケースもあるようです。
モラトリアムの使い方は分野ごとに異なる
モラトリアムの意味は、使用される分野によって、ニュアンスが変わります。心理学分野と金融業界、それぞれのジャンルで見られるモラトリアムを、簡単な例文を交えつつ解説します。
心理学分野におけるモラトリアム
心理学や教育関係で使われる「モラトリアム」は、ほとんどの場合、青年がアイデンティティーを確立するための準備期間のことを指します。発達心理学者のエリクソンが用いたことで広まったといわれています。
アイデンティティーとは、自分が自分であることを意味する言葉です。青年期は、自分の価値を認めてほしいものの、まだ社会的評価が低いことに葛藤しやすい時期でもあります。その課題を乗り越えることが、アイデンティティーの確立とされます。
心理学分野におけるモラトリアムを使った例文は、以下の通りです。
・日本では大学を卒業してすぐに就職するのが一般的で、モラトリアム期間を持たない人が多いといわれている
・モラトリアムは人間の発達に必要な段階の一つであり、もともとは責任回避といった意味ではない
金融業界におけるモラトリアム
金融関連で使われるモラトリアムは、「支払いや返済の猶予」という意味合いになります。大規模な天災や戦争といった非常事態において、通常通りに債権を回収すると、多くの事業者が破綻しかねない場合に実施される制度です。
金融業界におけるモラトリアムを使った例文は、以下の通りです。
・モラトリアムのおかげで、震災後も住宅ローンを無事に返済できた
・アメリカでリーマンショックが起きたときには、「中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための臨時措置に関する法律」、いわゆるモラトリアム法が制定された
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