秋の野山で、青紫色の花を見かけたことはありませんか? もしかしたらその植物は、竜胆(りんどう)かもしれませんよ。竜胆は、フラワーアレンジメントに使われるほか、薬草として使われています。本記事では、竜胆の特徴や花言葉、薬草としての役割を紹介します。
竜胆は秋を代表する花
竜胆は、秋を代表する花の1つ。野山では9月頃から可憐に咲く姿が見られます。野生種は青紫色の花をつけますが、現在は品種開発によりさまざまな色の花が流通しています。
草丈20〜60センチのリンドウ科の多年草で、釣り鐘のような形の青紫色の花を上向きに、複数並べてつけます。大きな群落はつくらずに、1株〜数株ずつひっそりと咲くのが特徴です。
品種開発により出荷期間が延び、切り花では6月頃から11月頃まで楽しめるそう。青や紫だけでなくピンクや白なども育種され、花束やフラワーアレンジメントなどにも用いられています。
辞書に記載されている意味も確認しましょう。
【竜胆:りんどう】
1 リンドウ科の多年草。山野に生え、高さ20~60センチ。葉は先のとがった楕円形で3本の脈が目立ち、対生する。秋、青紫色の鐘状の花を数個上向きに開く。根・根茎に苦味成分を含み、漢方では干したものを竜胆といい薬用。同科にはハルリンドウ・ミヤマリンドウやセンブリなども含まれる。えやみぐさ。にがな。ささりんどう。りゅうたん。りゅうどう。《季 秋》「―の日を失ひし濃紫/誓子」
2 襲の色目の名。表は蘇芳、裏は青。秋に用いる。
3 紋所の名。1の花や葉を図案化したもの。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
名前の由来は?
竜胆の名前の由来には諸説ありますが、熊の胆汁を乾燥させた生薬「熊胆(ゆうたん)」に引けを取らないことから、中国で最上級の意味をあらわす「竜」の文字を冠して竜胆と名付けられたという説が有力です。竜胆の根は胆汁のように苦く、その苦さで笑いも止まってしまうため「笑止草(えやみぐさ、えやみそう)」という別名もあります。
また竜胆の音読みの「りゅうたん」がなまって、リンドウと呼ばれるようになったといわれています。
竜胆の花言葉
竜胆の代表的な花言葉は、次のとおりです。
・悲しんでいるあなたを愛する
・正義
・誠実
印象的な「悲しんでいるあなたを愛する」という花言葉は、秋になると群生せずひっそりと咲く凛とした姿や、悲しみをイメージさせる青紫の花色に由来するといわれています。
竜胆は昔から薬草として利用されてきたため、病に打ち克つという意味から「正義」という花言葉も生まれたという説があります。また、曇りや雨の日、夜には花を閉じ、光が差し込むときにだけ花を開く姿から「誠実」という言葉が連想されたそうです。
竜胆の種類
竜胆の仲間にはたくさんの種類があり、リンドウ属は世界に約400種類があります。そのうち日本で自生するのは、20種類程度。また園芸品種として人気があるため、現在でも改良され新しい品種が生まれているそうです。日本で見られる主な竜胆には、以下のような種類があります。
・エゾリンドウ
・ハルリンドウ
・タテヤマリンドウ
・ササリンドウ
エゾリンドウは、切り花としても数多く流通する種類。高さ50センチ前後に育ち、8月〜10月頃に青紫色の花を筒状に咲かせます。ハルリンドウは、その名のとおり3月〜5月の春に花を咲かせ、他の種類と比べて背が低いのが特徴です。
タテヤマリンドウはハルリンドウの変種であり、斑点模様が入った花を5月〜7月に咲かせます。また、秋に青紫色の花を咲かせるササリンドウは、笹のような細い葉と大きく開く花弁が特徴です。
竜胆の歴史
ここからは、竜胆の歴史を見ていきましょう。栽培種が始まったのは昭和初期〜中期といわれ、その後さまざまな竜胆が品種開発されたと考えられています。栽培種が開発される前と後にわけて、解説していきましょう。
大正時代に流通したのは茎の短い野生種
竜胆の栽培種が市場に出回る以前に流通していたのは、野山で足元に咲く小ぶりの野生種であったと推測されます。
昭和初期から盛んになった栽培種開発
竜胆の栽培種開発が中部、東北地方を中心に盛んになっていったのは昭和初期からです。野生種であったエゾリンドウが各地域の竜胆と交配され、品種開発されていきました。
これらの栽培種は、長く伸びた茎に多くの花をつけます。昭和時代中頃からは、生け花だけでなく仏花としての需要が高まり、生産量が増えていきました。
薬草としても利用される竜胆
根が胆汁のように苦いことから、中国で最上級の意味を示す「竜」の文字を冠したという竜胆の名前の由来は前述のとおりです。この苦い竜胆の根は、昔から薬草として用いられてきました。
主に健胃薬として用いられる
竜胆の根の苦味成分が舌先を刺激し、反射によって胃液の分泌が盛んになるほか、直接胃液の分泌を促進する効果もあり、消化不良や食欲不振時に飲む健胃薬として用いられてきました。
西洋では、ヨーロッパ中南部のリンドウ科の多年草「ゲンチアナ・ルテア」の根を乾燥、発酵させたものが健胃薬「ゲンチアナ」として利用されています。
「竜胆瀉肝湯」は下腹部の熱感や痛みをおさえる薬
竜胆は胃のほかにも、身体のさまざまな箇所の炎症を鎮めるために使用されてきました。竜胆を配合した漢方「竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)」は、膀胱や尿道・子宮などの炎症を取り除く働きに優れ、下腹部の熱感や痛みをおさえる薬として活用されています。
竜胆を育てる際の注意点
竜胆を育てる時に、気をつけたいポイントを一緒に確認していきましょう。
暑さに弱い
竜胆は暑さに弱いため、夏場の直射日光を避けて栽培してください。特に猛暑が続くと、植物が弱る可能性があるため、半日陰の涼しい場所で育てるのが理想的です。また、土壌の温度が上がりすぎないように、水はけがいい土を使用し、湿度管理をしっかり行いましょう。
水はけのいい土を使用する
竜胆は根腐れしやすいので、湿気が多い環境を避け、水はけのいい土を選びましょう。鉢植えの場合は、底に石や軽石を敷いて通気性を高め、余分な水分を排出しやすくする工夫をしてください。水やりは控えめに行い、土が乾燥しすぎないように適度な湿度を保つことが大切です。
冬場の凍結対策
寒さに強い竜胆ですが、冬の乾燥や凍結には注意が必要です。冬場は、特に極端に寒い地域ではわらやマルチングを使用して、根元を保護するのが効果的です。また、乾燥が進むと春の花つきに影響が出るため、適度な水分を保ち、乾燥しすぎないようにしてくださいね。
最後に
竜胆は、昔から薬草としても親しまれていた植物だったのですね。花言葉である「悲しんでいるあなたを愛する」や「誠実」を思い浮かべながら、竜胆を庭に植えたり、お部屋に飾ってみてはいかがでしょうか?
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