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EDUCATION 教育現場より

2023.03.19

青山学院初等部の考える〝ほんもの〟教育と、受験 の〝合格基準〟【お受験ママの相談室vol.9】

教育編集者・田口まさ美による教育分野に携わるスペシャリストへのインタビュー連載。「お受験」…それは都会に住む母親ならば、誰もが一度は思い悩むキーワードかもしれません。第9回目の今回は私立小学校の校長先生の生の声をお伝えしたいと思います。株式会社MPandC主催の新時代の教育を考えるセミナー「Let’s Study」にて登壇された青山学院初等部 中村貞雄部長にインタビュー。小学校受験・中学校受験でも毎年人気の「青学」ですが、初等部教育を担っている中村部長が今考える〝ほんもの〟教育についてお伺いしました。

Text:
田口まさ美
Tags:

第9回:青山学院初等部が大切にしているのは感謝と協働、子ども時代は人格教育を第一に

<お話を伺った方>

青山学院初等部 中村貞雄 部長

聞き手・原稿:教育エディター 田口まさ美
▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu

 

中村貞雄 先生 上半身

田口:今回は青山学院初等部 中村貞雄部長にインタビューしました。小学校受験・中学校受験でも毎年大人気の「青学」ですが、初等部教育を担っている中村部長が今考える〝ほんもの〟教育についてお伺いします。株式会社MPandC主催のセミナー「Let’s Study」の講演内容と共にお話しいただきます。中村部長よろしくお願いいたします。

中村:よろしくお願いします。みなさんはお子様にどのように育ってほしいと思っているでしょうか?小学校は、実は学校生活の中で一番長く過ごす場で、6年間ありますよね。我が校では「人格教育」を掲げています。例えばキリスト教の教えのもと「感謝と共生・協働的な学びへ」をモットーに、毎日礼拝でのお祈りがあります。礼拝以外にも、様々な場面でのお祈りの時間を大切にしています。これは、「自分一人では生きていけない」「神様から与えられた命を大切に生きる」という信条を育むものです。

こうした教育は、大人になってからでは遅いと思っています。心が柔らかく素直な子ども時代にこそ必要なことではないでしょうか。「親切にします」「正直にします」という気持ちは、人間として最も大切な、根幹となる部分なのです。

〈子どもたちのお祈りの言葉の例〉

「お祈りします。神様、今日ここに集えたことに感謝します」

「目の前にある給食を食べられることに感謝します」

「世界では多くの悲しいできごとが起きています。ウクライナでは大切な家族を亡くして悲しむ人がたくさんいます。どうかその人たちの悲しみを少しでも和らげ、安らぎをお与えください」

 

青山学院初等部で行っているのは、他人と比較をして競争したり、能力を競ったりする教育ではありません。ナンバーワンの教育ではなく、オンリーワンの教育を目指しています。その子の個性を伸ばしオンリーワンを育てるには、時間と根気と愛が必要です。でも、青学では昔からそういった一人ひとりの個性ある人格に対して行う教育を重んじる伝統がありました。これは、我が校の誇れることです。

私が現場の教員だったときも、(昔はクラス40人いましたから)「ボールを40人に、40球それぞれに投げなさい」と教えられたものです。そういった文化が今も息づいているんです。

田口:一斉教育から個別教育への流れは、今教育界全体に起こっていることですが、青学には元々そういった風土・文化が根付いているということですね。

中村:そうです。また子どもたちは、「人にしてほしいことは何でも、あなた方も人にしなさい」「受けるよりは与えるほうが幸いである」という聖書の教えから、毎月自分のお小遣いから献金を捧げたりもしています。他者を敬う心や、愛の奉仕の精神を育んでいるのです。最近ではウクライナやトルコ・シリアへの特別献金も行っています。

こうしたキリスト教の教えを経験することは、これからグローバル社会になっていく際に意味のあることだと私は思っています。キリスト教徒は、主要先進国を含めて世界の約1/3の人口を占めています。

学校だけが教場ではない、学校外で行う生きた教育

中村貞雄 先生 上半身

中村:これからの世界を見据えた外国語などのグローバル教育やICT活用などの新しい教育にも取り組んでいますが、私はだからこそ、その根底となる“〝ほんもの〟教育」にこそ力を入れたいと考えています。例えば、青学では宿泊行事が多く、6年間の宿泊日数は50日以上となります。学校だけが教場ではありません。以下のような宿泊学習等を通して、「渋谷キャンパスの学校外の世界へ出て〝ほんもの〟を見て感じて学んでください」と子どもたちには呼びかけています。

〈宿泊学習の例〉

■「海の生活」 
長崎県平戸、綺麗な海での2キロの遠泳などを体験する。年間を通して温水プールで1年生から5年生の間に2キロの遠泳をできるように練習を積み重ねていく。 

■「洋上小学校」
「海に囲まれた日本の子供として、母国を海から知る」というテーマで始めた8泊9日の行事。一人ひとりが小さな乗組員になり、船の上で楽しくも厳しく不便な生活を経験する。

■「雪の学校」
3年生から6年生が参加。雪国の生活を体験しながら、上級生は下級生を助け励まし、下級生は上級生に親愛の情を持つ。51年の歴史を持つ縦割りの宿泊行事。

 

中村:これらの行事を通して、対人、対自然との関わりを持つことで、神の存在を感じながら学ぶのです。また、我が校では「給食」にも力を入れています。食育の一環として加工品、冷凍食品はほとんど使わず、手作りを心がけています。食材も旬の季節感を大切にして提供しています。〝温かいものを温かいうちに〟との想いから、給食配膳のボランティアのお母様もたくさんいらっしゃいます。

田口:アナログな五感教育を大切にしてらっしゃるのですね。ICT教育では、1人一台端末(タブレット)の使い方にもその特徴が表れていますよね。

中村:そうですね。タブレットの使用は、3年生からとしています。中学年でその使い方を学び、5,6年生は道具としてそれを使いこなせるようにしています。1,2年生は逆にアナログな感性を大切にしたいとの意味であえて使っていません。

5,6年生ではどちらでも選べる形にしています。タブレットはあくまで学びの〝道具〟との位置付けです。ですから、使いたい人は使い、使いたくない人は従来の紙の教科書やノートなどを使用して構いません。多様性を認め、本人の意志を尊重しているのです。

通知表はありません。子どもの能力や成長は数値では測れない、測らない。

田口:御校では、通知表がないと聞きました。

中村:はい。学期毎にお渡しするのは「成長の記録」というもので通知表はありません。「成長の記録」は文字通り成長を記録するもので、評価するものではありません。数字や記号で一人ひとりの大切な子どもを評価することはおかしいという考えから、通知表を廃止しているのです。P D C Aサイクルに基づいた子どもと保護者と先生の三者面談による自己評価のみです。

今期、自分は何が成長できたのか努力したのか、今後の目標はどうするか。一人ひとりと話し合いながら決めていきます。事前に自分が成長した点、努力した点を10項目挙げてシートを作成するのですが、この行為を通して自己肯定感を上げる意味も持たせています。

低学年のうちは簡単に書けますよね。「縄跳び○○回跳べるようになった」などのたくさんの目に見える成長があります。しかし高学年になってくると自分の成長が見えにくくなります。これは大人にとっても同様で、なかなか難しいことです。それでもまずは、自分ができたことを10個必ず挙げるんです。家でのことでも、プライベートなことでも、どんな小さなことでも、なんでもよいのです。

こっそり教える青山学院初等部の合格基準、最も重要視していることは?

田口:青山学院初等部でのお受験での合格基準を少しだけ教えてくださいますか。

中村貞雄 先生 上半身

中村:お子様のテストが個別検査・グループ行動と2つあり、もう1つは保護者様との面接です。入学定員があるものですから、3つそれぞれ成績をつけて評価の高い方から順に、という形になっています。この中で一番重きを置いているのは保護者様との面接です。お子様のテストは当日の体調なども影響しますので。

そのご家庭が、青山学院初等部の教育をどのように理解して、どのようなお子様に育てていきたいのか?というところを質問をしながら聞かせていただいて、〝いかに青山学院と共にやっていけるかどうか〟を見させていただいています。1組10分程度でそれを見極めるのは、とても大変なことですが、そこは私自身頑張って見極めなければならないと思っている所でもあります。

これからの〝ほんもの〟教育と、ご家庭でお母様にお願いしたいこと

田口:中村部長の考える、未来に必要な〝ほんもの〟教育とはどんなものでしょう。

中村貞雄 先生 上半身

中村:お子様を「感じて、考えて、行動でき、思いやりを持ち、感謝することのできる人」に育てることだと思います。「今までは学力、これからは学習力」とも言われます。暗記の量や与えられた問題の正解に最短で辿り着く力よりも、正解のない問いにどれだけ多くの考え方を提示できるか。どんな問いを立て、どのように自分なりの答えを出していけるのか。このような学習力は、今後さらに重要になってくるのではないでしょうか。自ら判断し行動できることが大切です。

私自身も、今の社会にとって学校は小さな存在である、と感じざるを得なかったコロナ禍でした。しかし子どもこそ、未来の社会を作る力そのものです。その真実は変わりませんし、これからもその思いを強く持ち、子どもたちを見守っていきたいと思います。

田口:最後にお母様方に一言お願いします。

田口まさ美さんと中村貞雄 さん

中村:子どもの育ちは時間がかかるものです。お子様には、できるだけ「待つ」ことをしてあげてください。忙しい中、それはとても難しいことです。つい「早くしなさい!」などと言ってしまいますよね。教育現場でも同様に、それは大変難しいことなのですが、私は先生たちにも、できるだけ「待って」とお願いしています。「待つ」時間が子どもを育てるのです。

そして、叱ってばかりではなく小さなことでも褒めてあげてください。子どもに声をかけられたら、一瞬でもいいのでできるだけ手を止めて聞いてあげてください。子どもでいる時間は、短く過ぎてしまえばあっという間です。ぜひ楽しんでくださいね。私も子どもの育ちに関われるこの仕事を楽しみたいと思っています。大変なこともあると思いますが、ぜひ共に今を楽しみましょう!

田口:ありがとうございました! 

中村部長の教育者として、人として、温かい愛情に溢れた目線が印象的でした。教育の根底に、愛あり。愛とは、子どもを信じてゆったりとその成長を待つ姿なのかもしれません。

教えてくれたのは…

中村貞雄 部長

2012年度より青山学院初等部部長に就任。東京私立初等学校協会副会長。日本私立小学校連合会副会長。

 

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Interview& Writing

田口まさ美

<教育エディター>
株式会社小学館で編集者として初等教育教員向けコンテンツ中心に教育、学習、子供の心の育ち、非認知能力などの取材・記事制作を経験。ファッション誌編集含め23年以上同社で編集に携わり2021年独立。現在Creative director、Brand producerとして活躍する傍ら教育編集者として本連載を担う。私立中学校に通う一人娘の母。Starflower inc.代表。▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu

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