激務による体重増加から一念発起し、40キロのダイエットに成功。医学部で学んだ経験、メディア業界で長く働いてきた経験、ダイエットの経験などを活かし、「医療記者」として活躍の場を広げている朽木誠一郎さんが、Domani読者からのお悩みに真摯に答える連載、2回目です。今回は「におい」について。
【悩み】
旦那さん、ニオっていることに気づいていないみたいです。夏場の汗臭さや、枕のニオイ……。正直、服や寝具カバーを「一緒に洗濯したくない」と思ってしまいます。どうすればいいでしょうか。
ニオイは科学的に対策できる
思わず寝室の枕カバーを嗅ぎに行きました……。こうしたニオイは自分では気づきにくいこともあって、指摘しようにもどうすればいいか、迷ってしまいますよね。
でも、こうしたニオイは、効果のある対策ができることが、科学的にもわかっています。それを知っているかどうかで、旦那さんへの態度も変わってしまうかも。まずは具体的な対策をチェックしてみましょう。
「汗臭さ」と「枕のニオイ」は、被るところもありますが、基本は別々の対策があります。前者は汗のニオイで、後者はいわゆる加齢臭と呼ばれるものが主だからです。
実は「汗自体は無臭」だった
ちょうど夏が本格化してきた折、汗のニオイのケアは誰もが悩んでいるところでしょう。意外と知られていないのは、気温が高いときにかく「汗」自体は無臭に近いことです。
一方で、汗が皮膚についたままだと、汗に含まれる皮脂や乳酸などの成分を、皮膚に住み着いている常在菌が分解することで、不快なニオイを放つ物質が作られてしまいます。
こうした物質には、イソ吉草酸(=蒸れた足裏のニオイの元)や、ジアセチル(=30~40代の男性特有の「ミドル脂臭」の元)などがあります。また、ニオイは食生活や環境、遺伝的な要因にも左右されます。
こうした「汗臭さ」を防ぐには、汗を拭き取ってしまえばOK。ただし、いくつか注意点もあります。一つは、乾いたタオルなどではニオイのもとになる成分を拭き残してしまうので、拭き取りには濡れたタオルやウエットシートなどが適していること。
制汗シートは効果的ですが、アルコールなどが含まれていると、皮脂を過剰に拭き取ってしまうことがあります。皮脂は乏しくなると、皮膚を守るためにより多く分泌されるため、逆効果になることも。使いすぎはNGです。
また、制汗スプレーは汗自体を止める効果が高いものの、その分、熱中症のリスクがあります。
さらに、「ニオイ消しに」と香水などを使うと、汗臭さと混ざり合って、かえって強烈なニオイになってしまうこともあり、これも使いすぎはNG。
前述したように、汗自体は無臭であるために、かえって汗をよくかくように運動などをしている方が、不純物の少ないサラサラの汗になると勧める専門家もいます。
加齢臭は変化した皮脂の問題
では、加齢臭はどうでしょうか。加齢臭とは、主に中年以降の男女に見られる特有の体臭のこと。体の部位で、後頭部や耳の後ろ、首の後ろ、背中、胸、脇などから出やすい傾向にあるとされます。
まさに、枕に代表される寝具に接しやすい部分。枕が臭くなりやすいことには、このような理由もあるのです。
年齢を重ねるにつれ、皮脂腺の中にあるパルミトレイン酸と呼ばれる脂肪酸が増加します。これが分解、酸化されて、ノネナールという物質が発生。このノネナールこそが加齢臭の原因だと言われています。体内から染み出したアンモニアなどのニオイと混じると、あのイヤなニオイになってしまいます。
こうしてみると、つまるところ、加齢臭は皮脂の問題だということがわかってきますよね。となると対策はシンプルで、シャワーや入浴により、余分な皮脂を洗い流して、肌を清潔に保つことになります。
このとき、特に加齢臭が発生しやすい部位を丁寧に洗います。あくまで優しく洗うのがポイントで、力を入れてゴシゴシ洗いすぎると、前述したように、かえって皮脂の分泌が盛んになってしまいます。
入浴やシャワーの時間がないときでも、濡れたタオルやウエットシートで、皮脂の出やすい部分を優しく拭き取るだけでも効果があります。
とすると、やはり、ニオイ対策には本人の対応が不可欠ということに。つまり、「ニオっている」と伝えるのを避けていては、この問題は永遠に解決できないことになります。
「ニオイくらいで」とためらわず
年齢を重ねるごとに体が変化していくのは仕方のないことで、ある意味ではパートナーシップの課題であるとも言えます。「ニオイのことくらいで」とためらわず、他の重要な議題と同様に、個人的には正面から向き合うのがいいのでは、と思います。
その際に大事なのが、これが個人の責任ではなく、生物として当たり前の変化であることを前提にしたコミュニケーション。もし、これまでそんなにニオイのケアが必要ではなかった男性でも、いずれは対策を講じなければいけないタイミングが来ることを理解してもらいましょう。
そのためにも、科学的な事実というのは大事だと、僕は思っています。ですので、この記事をもとにパートナー間で話し合いをしてもらえたら、それはみんなにとってハッピーなことです。
もう一つ、ニオイは洗濯の問題でもあります。汗をかいた衣服を長時間、放置してしまうと、雑菌が生じてしまい、衛生的にもよくないので、こまめに洗濯を。こうした理由でも、「一緒に洗濯したくない」と突き放してしまうと、旦那さんがどんどんニオってしまうこともあり得ます。
消臭の方法にはたくさんあって、今は高機能の洗剤も販売されていたり、昔ながらの「重曹を入れた40度前後のお湯に10〜15分間つける」といった方法もあったりします。
ただし、これだけさまざまな原因がある以上、ニオイは一つの方法ですっきり解決する、といった類の問題ではありません。最終的に必要なのは、夫婦間のコミュニケーションになり、そこからは逃れられないことは、腹を括る必要がありそうです。
プロフィール
朽木誠一郎(くちき・せいいちろう)
1986年生まれ。朝日新聞記者・同withnews副編集長。2014年に群馬大学医学部医学科を卒業後、メディア業界へ。医療記者としてBuzzFeed Japan Medicalの立ち上げに従事した後、朝日新聞社に入社。20年より現職。運動習慣をつけたい人に向けた書籍『健康診断で「運動してますか」と言われたら最初に読む本』(KADOKAWA)5/31発売。
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