【目次】
カンタくん(12歳)
都内のカフェレストランへ行くと、お母さんとカンタくんがテーブルに着いて待っていました。外は冷たい雨。秋を通り越して冬の始まりのような日でした。
まほ:(メニューを見ながら)わたしは……このボラボラってのにしようかな。カンタくんは?
カンタ:……うーん、ジンジャーエールで。
まほ:自家製とそうじゃないのあるけど、どうする? 自家製?
カンタ:いや、ふつうので。
母:わたし、自家製にしよ。
編集:わたしは“生搾りオレンジ3個”にします。
まほ:すみませーん。
店内はバーカウンターもある大人な雰囲気のレストランですが、お客さんはディナータイムの子連れ家族もチラホラ。英語で会話する親子もいて、客層は国際色豊かです。ちなみに、わたしの頼んだドリンク“ボラボラ”はマンゴージュースをジンジャーエールで割ったもの。“生搾りオレンジ3個” はその名の通りオレンジを3つ使った生搾りのジュースでした。
中学を目前にして今どんな気持ち?
まほ:カンタくんは、今何歳?
カンタ:12歳。
まほ:そっかー、来年中学生だ。緊張するね。
カンタ:(小声で)うん。
母:大きな声でネ。
カンタ:……(大きく頷いて)うん。
まほ:ふふふ……制服あるんだよね?
カンタ:いや? よくわかんない。
まほ:受験するのかな?
母:1校だけね、受けてみよかってね。
カンタ:うん。
まほ:じゃあ、塾行ってるんだ。
カンタ:うん。
まほ:どう? 塾は。
カンタ:難しい。
まほ:友達は?
カンタ:いない。
母:個人指導するようなところなんですよ。
まほ:ああ、1人1人の机をパーテーションで区切っているような。それじゃあ友達はなかなか作りづらいね。
母:お姉ちゃんと同じところ通ってるのよね。
カンタ:うん。
母:塾ではいつもお姉ちゃんの動向を気にしてるでしょ。
まほ:そうなの? やっぱり心細くて?
カンタ:ちがう。ちゃんと勉強してるかなーって思って。
まほ:親心(笑)。一緒に帰ったりするの?
カンタ:しない。
まほ:お姉ちゃんは今、何歳?
カンタ:中2。
母:ちょっと前まですごく仲良かったんですけど~。今はサッサと1人で帰ってきちゃったりして。
まほ:寂しいねえ。
カンタ:いや、寂しくはないけど。
母:音楽聴いたりしながら1人で帰りたい年頃みたいで。
まほ:そういうの、ありますよね。
カンタ:中学に入ってから、趣味がすごく変わった。
まほ:そうなの?
母:わたしとカンタと姉の3人でニュージーランドに2年間母子留学をしていて……向こうではお姉ちゃん、洋楽ばっかり聴いてたんですけど。帰ってきて、中学生になったらすっかりK-POP好きになって。
カンタ:LINEばっかり見てる。
まほ:そうなんだ(笑)。
母:みるみるうちに変わっていくから、わたしたち、ザワついてね(笑)。
まほ:そういう姉を見て、カンタくんはどう思う?
カンタ:仕方ないかな~って。
まほ:大人~。
カンタ:ボクの周りの女の子たちとかも、そういう感じだし。
まほ:そうなんだね。
カンタ:TWICEとか。
まほ:人気だねえ~。……カンタくんは何聴くの?
カンタ:MAROON5とか。
まほ:おっしゃれ~!
戻りたい! 思い出のニュージーランド。
カンタくんの通う小学校は公立校ながら、先生、生徒共に外国人がとても多いそう。授業も英語と日本語のバイリンガルなんだそうです。
まほ:ニュージーランドにはいくつの頃に行っていたの?
カンタ:年長から小2まで。
まほ:戻りたいって思ったりすることある?
カンタ:結構……ある。
まほ:どんなところが好きだった?
カンタ:自然が多いところ。日本は公園が小さい!
まほ:でも……行った当時は英語わからないから大変だったでしょう。
カンタ:最初は辛かった……。
母:毎日泣いてたね。
カンタ:英語わからないのに、本も読めって言われて……泣いた。
まほ:そっかあ。英語は、どれくらいで話せるようになった?
カンタ:どうかなあ……。
まほ:1年くらいとか?
母:いや、半年くらいで。子どもは早いですよ。
まほ:半年は早い! いいなあ。ニュージーランドっていうと、鳥のキウイのイメージだけど。
カンタ:動物園で1回見ただけ。絶滅しそうらしい。
まほ:へー(笑)。友達できた?
カンタ:うん。この間まで、日本に来てた。
まほ:そうなんだ!
母:中学受験も、合格したらその友達の家に遊びに行っていいよって言っていて。
まほ:それがモチベーションになってるんだ。頑張れてるんだね。
カンタ:うん。
まほ:なんていう子?
カンタ:ソロモン。
まほ:同い年?
カンタ:うん。
まほ:どんな子なの?
カンタ:うーん……ちょっと甘えん坊で……。
まほ:うんうん。
カンタ:目が大きくて……頭がわりとデカい。
まほ:(笑)。向こうの子は、身体が大きそうだよねえ。
カンタ:学校の授業で、ラグビーとかトライアスロンやる。
まほ:ひえ~! すごいタックルしそう~。
まほ:学校はお弁当?
カンタ:うん。
まほ:ニュージーランドと日本じゃお弁当事情が違うだろうなあ。
母:向こうはりんごとシリアルバーをボンッ! てジップロックに入れただけとかで。
まほ:そうでしょうね~。
カンタ:巻き寿司が人気だった。
まほ:お母さんが作るんだ。
母:照り焼きチキン巻いたりして持って行くと……。
カンタ:みんな集まってきて見られた。交換して欲しいとか言われて。
まほ:ほほ~。
母:お弁当ない子は売店でポテトチップとか買ってたね。
まほ:それ、年長からですか?
母:カンタは5歳で留学して、その時はyear0(イヤーゼロ)という学年だったんですけど……やってたよね?
カンタ:うん。お金落ちたの拾ったりしてた。
まほ:年長なんてすぐお金落としそう……。
母:あと、みーんな裸足でしたね。日本に帰ってきても、近所の街をひとり裸足で歩いてたね。
カンタ:それから、みんなスポーツの服着てた。
まほ:なんか想像つくな~。
カンタ:友達の家に泊まりに行ったのが楽しかった。広い庭で遊んで……。
母:だいたいトランポリンがあって、ね。
まほ:開放感あるね~。
まほ:お気に入りのオヤツとか、あった?
カンタ:ヌテラをパンに塗るのにハマった。
まほ:ヌテラ?
カンタ:チョコみたいなやつ。
まほ:(画像を検索して)……ああ、見たことある。これか~これはハマるね。じゃあ、大人になったらまたニュージーランド住みたい?
カンタ:うーん……住みたいけど……ニュージーランドではあんまり稼げなそうだから……。
母:なにそれ~。
まほ:現実的だねえ。でも住みたい気持ちはあるんだ。
カンタ:うん。
まほ:じゃあ、日本でお金貯めて?
カンタ:うん。日本でとりあえず仕事して……。
まほ:貯金して、それからニュージーランドに渡る、と。
カンタ:うん。お父さんからそうやれって言われた。
母:えっ、そうなの!?
まほ:お父さんの助言なんだ(笑)。正しいと思ったんだね?
カンタ:うん。お母さんよりお父さんの方が信じられる。
まほ:えー! そうなんだ~。
カンタ:だって、お母さんはすぐ「あ、間違えちゃったー♪」とか言ってるし。
まほ:ははは。
母:お父さんだって間違えるよぉー。
カンタ:お父さんの方が知識あるし。
母:そんなことないでしょぉ!
カンタ:え、じゃあなんで社会とか全然できないの。
まほ:まあまあ(笑)。
カンタ:国語しかできないじゃん。
まほ:いいじゃん、国語できれば~。料理はお母さんの方がうまいんじゃない?
カンタ:まあ……あ、でもパスタは最近お父さんも上手になってきてる。
まほ:お母さんの良いところ、この際だから褒めようよ。なんかない?
カンタ:あ、ある。
母:なに!?
カンタ:しりあいが多い。
母:(涙)
苦手なものは、人混みと嘘つき。
まほ:苦手なものってなに?
カンタ:人混み。原宿とか、満員電車とか。
まほ:でもさ、ニュージーランド行くために貯金するなら、満員電車のって会社行かないといけないかもしれないよ?
カンタ:うーん……そこはガマンする。
母:目的があると我慢できるタイプだもんね。
まほ:そうなんだ!
母:欲しい漫画がある時は、毎日のオヤツを我慢してお小遣い貯めたり……。
まほ:ゲゲ! それはすごい。わたしにはできない。
母:塾も最初週1だったのが、お姉ちゃんの中学での苦労を見て、自分から日数増やして頑張ることにしたんだよね。
まほ:え! なんで!?
母:高校受験が大変そうだから、今のうちに頑張って一貫校を目指すって……。
まほ:そして、ソロモンにも会えるから……。すごい。わたしは無理。
母:わたしも無理です。お姉ちゃんも、無理。オヤツ我慢できない。
カンタ:苦手なのは、あと、嘘つき。
まほ:嫌なんだ。
カンタ:あと、カッコつけとぶりっこ。話盛ったりするのも嫌い。
まほ:おお~なんだか真っ直ぐだ。
母:わたしとお姉ちゃんは、そういうのもアリなんだよ~って言ったりするんですけどね。カンタは注意したりする。
まほ:本人に!?
カンタ:うん。そうすると、倍返しされる。
まほ:(笑)。どんな風に?
カンタ:「チッ」って言われたり、集団でやってくる。
まほ:おお、怖いね。
カンタ:殴られたり。
まほ:え!
カンタ:女子に。
まほ:女子か~。こわいな~都心の女子。
カンタ:でも、仕返しできないから。
母:お父さんに、普段から言われてるからね。女の子はぶっちゃいけないって。
まほ:守ってるんだ。
カンタ:うん。だから……。
まほ:だから?
カンタ:ドMみたいな感じなんだよね。
まほ:ドMか~(笑)! ところで、スポーツは何かやってる?
カンタ:ラグビー。
まほ:おお!
カンタ:ニュージーランドで好きになった。
母:日本でタックルまでちゃんと教える教室がそんなになくて。最初のうちはサッカーを習っていたんですけど、あまりハマらなかったみたいで。そのうちにタックルもやる教室を見つけて。通ってます。
まほ:小学生でラグビーをやっている子、珍しいですよね。
カンタ:教室探してる間に、ラグビー忘れちゃった。
母:なかなか見つからなかったんだよね。
まほ:来年ラグビーW杯だね。
カンタ:うん! (嬉しそうに)ニュージーランド戦のチケットとった。
まほ:今から楽しみだね。
明るくて奔放なお母さんとお姉ちゃんを静かに見守る(そしてダメ出しする)、まるで父のようなカンタくんでした。
ソロモンとの友情を話す時の照れながらも嬉しそうな表情といったら……! ニュージーランドでの経験は、カンタくんにとって宝物なんだなって思いました。
お金を貯めて、ニュージランドに住めるといいねー!
つづく
『しまおまほのおしえてコドモNOW!』書籍発売中!
2017年の連載スタートから5年間、子どもの〝今〟を探った大人気ルポエッセイが、ついに単行本になりました!連載を読んでいた人も、必見の内容となっています。
『しまおまほのおしえてコドモNOW!』
著:しまおまほ 発行:小学館
定価:1760円 (税込) 体裁:四六判 176頁
発売日:2021年10月29日
文・絵:しまおまほ 編集:小川知子 デザイン:根本真路
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プロフィール
しまおまほ
漫画家・エッセイスト。1978年生まれ、多摩美術大学美術学部二部芸術学科卒業。1997年、高校生の時に描いた漫画『女子高生ゴリコ』でデビュー。雑誌や文芸誌でエッセイや小説を発表するほか、ラジオのパーソナリティとしても活躍。2015年に第一子を出産。著書に『まほちゃんの家』『マイ・リトル・世田谷』『ガールフレンド』『スーベニア』『家族って』などがある。写真は本書にちなみ、6歳当時のまほちゃん。