目上の人の動作は、「お借りになる」を使うのが適切ですよ。
「お手を拝借いたします」
掛け声に合わせてみんなで一斉に手を叩く一本締めは、会合の締めのテッパン。「お手を拝借」は、一本締めをする合図として使われる表現です。社会人として、ぜひ覚えておきたい表現のひとつです。
【目次】
ビジネス等で「拝借」を使う際の注意点
「拝借」は相手に敬意を示す丁寧な言葉ですが、誤った使い方をするとかえって不自然になったり、失礼にあたったりする場合があります。特にキャリアを重ねたビジネスパーソンとしては、その言葉が持つ本来の意味や使用範囲を理解し、何を借りるのか、そしてどんな場面で使うのかを意識することが重要です。
ここでは、「拝借」をビジネスシーンで適切に使うための具体的な注意点を確認していきましょう。
目上の人に対して使う
「拝借」は目上の人に対して使う謙譲語なので、自分より年下の人や後輩には使いません。会話の中では、「〜を借りてもいいいですか?」「教えてもらってもいい?」などと表現するのが自然でしょう。
相手の動作に対して使わない
間違って、「拝借される」「どうぞ拝借ください」といった使い方はしていませんか?「拝借」は自分の動作をへりくだっていう言葉なので、相手の動作に対して使うと失礼な表現になります。

返せないものに対しては使わない
また、「拝借」は返すことが前提の言葉です。時間や名前のように、借りても返せないものに対して使うと違和感を覚える人もいますので注意しましょう。

ただし、「お知恵を拝借」「お耳を拝借」「お手を拝借」など、もの以外に「拝借」を使った言い回しもあります。
「拝借させていただきます」は二重敬語
「拝借させていただきます」が二重敬語にあたるのは、「借りる」の謙譲語である「拝借」という語に、さらに謙譲表現である「させていただく」を重ねてしまっているためです。「拝借」という言葉自体が既に最高の敬意を示しているため、そこに「〜させていただく」を加えると過剰な表現になってしまいます。
具体的には、「させていただく」の「する」の部分をへりくだった「いたす」に変え、さらに許可を求める「ていただく」を組み合わせることで、一つの動作(借りる)に対して二重にへりくだっていることになります。そのため、「拝借いたします」や「お借りいたします」のように、どちらか一つの謙譲表現を用いるのが正しい使い方です。
前置きを付け丁寧なコミュニケーションを
また、「拝借」は丁寧な言葉ではありますが、何の前置きもなしに「資料を拝借します」といって行動に移すとやや自分勝手な印象が。「お忙しいところ恐縮ですが、資料を拝借してもよろしいですか?」「〇〇さん、プレゼンの資料を拝借してもよろしいですか?」などと、前置きを付け加えると丁寧な印象になりますよ。
【実際のエピソード】「拝借」に関する成功談・失敗談
「拝借」の体験談には、どのようなものがあるのでしょうか?ビジネスシーンにおいて、「拝借」に関して何かしらの気づきや学びを得た実際のエピソードを紹介していきます。
【episode1】言葉の重みを意識させる部下への指導
Fさん(管理職、45)
私の部下が、クライアントから提供されたブランドロゴのデータについて問い合わせるメールを作成していました。その文面には「ロゴデータをお借りしたい」と書いてあったため、私はすぐに修正を指示しました。企業にとってロゴは非常に重要な知的財産であり、安易な表現は失礼にあたります。「データは一時的にお借りするのではなく、使用許可を得て拝借するもの。相手の著作物という意識を持って、『データを拝借できますでしょうか』と書きなさい」と指導しました。単なる「借りる」ではなく、「丁重にお預かりする」というニュアンスを込めることで、文書のプロフェッショナルな印象と、相手の成果物への敬意を両立させることができました。
【episode2】私物の傘を借りる際の不適切な使用
Eさん(管理職、37)
ある雨の日、私は部下に「折り畳み傘を拝借できますでしょうか?」と尋ねられました。一見丁寧ですが、私物である傘を借りるという日常的な行為に、そこまで固い謙譲語を使う必要はありません。また、相手が上司であっても、傘のような私物の貸し借りに「拝借」を使うと、かえって距離感がありすぎる、堅苦しい印象を与えがちです。私は「『傘をお借りできますか』で十分よ。『拝借』はもう少しフォーマルな場面で、書類やアイデアなど、仕事上のものを借りる時に使ってみて」とアドバイスしました。丁寧さの度合いと、言葉が持つ本来の用途を見極める大切さを感じた出来事です。
「拝借」の類語や言い換え表現にはどのようなものがある?
「拝借」は、丁寧な言葉ですが、日常会話などで使うにはやや堅い表現です。類語や言い換え表現と使い分けることで、より自然なコミュニケーションをとることができますよ。

借り
「借り」の意味は以下の通りです。
1 借りること。また、借りたもの。特に、借金・借財・負債など。「―を返済する」⇔貸し。
2 人から恩義・援助・恥辱などを受けて、その報いをしていない状態。「この―はいつかきっと返す」⇔貸し。
3 簿記で、「借り方」の略。⇔貸し。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「借り」は文字通り、借りることを意味する言葉です。特に、借金や負債のように「資金などを得る」という意味合いを強く持ち、「借りを返す」のように使います。

「借り」は謙譲語の意味は含まず、「拝借」と比べると、丁寧さに欠ける表現といえるかもしれませんね。
借用
「借用」の意味は以下の通りです。
[名](スル)借りて使うこと。使うために借りること。「資料を―する」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「借用」は、何かを借りて、使うことを意味します。「借用」も「拝借」とは違い、謙譲語ではありません。

目上の人から何か借りる際は「借用」よりも「拝借」を使うのが無難ですよ。
お貸しいただく
ビジネスでは、「〇〇様のお力をお貸しいただきたく存じます」のように使われます。目上の人に意見を求める際に、柔らかく丁寧にお願いすることができる表現です。
「貸し」の意味は以下の通りです。
貸すこと。また、貸した金品。「君には一万円の—がある」⇔借り。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「拝借」の対義語
「拝借」は簡潔にいうと「借りること」なので、対義語としては「貸すこと」を表す「貸す」「貸与」。また、借りたものを戻す「返却」などが挙げられます。

貸す
「貸す」の意味を改めて確認してみましょう。
[動サ五(四)]
1 自分の金や物などを、ある期間だけ他人に使わせる。「友人にお金を―・す」「本を一日―・す」「タバコの火を―・す」⇔借りる。
2 使用料をとって、ある期間他人に利用させる。「アパートを―・す」「土地を―・している」⇔借りる。
3 能力・労力などを他人に提供する。「手を―・す」「肩を―・す」「耳を―・そうともしない」「お力を―・して下さい」⇔借りる。
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
自分が持っているものを、一時的に相手に渡すことを「貸す」と言います。目に見える物品だけではなく、「力を貸す」「知恵を貸す」なども当てはまります。
貸与
「貸与(たいよ)」の意味は以下の通りです。
[名](スル)金や物を貸し与えること。返すことを条件として金品の使用を許すこと。「住居および制服を―する」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
「貸与」も、お金や物を貸し与えること。募集要項の貸与欄に、「制服の貸与」と記されているのを目にすることも多いでしょう。そのほかにも、「奨学金の貸与」など企業や教育機関が個人に対して、貸し与える場合に使われる傾向のある言葉です。
▼あわせて読みたい
返却
「返却」の意味は以下の通りです。
[名](スル)借りたものや預かったものを持ち主に返すこと。「借用した資料を―する」
『デジタル大辞泉』(小学館)より引用
所有者に、借りていた物や、一度受け取った物を返すことを「返却」と言います。「図書館に本を返却する」「資料を返却する」と言った使い方が一般的ですね。

「借りたものを返す」という点で、「拝借」の対義語と捉えることができるでしょう。
「拝借」の英語表現とは?
「拝借」という意味を持つ英単語には、“borrow” と“borrowing” があります。“borrow” は「借りる」や「借入する」を意味する動詞で、その現在分詞および名詞が“borrowing”です。
ものを借りても良いか確認する際の英語表現としては、“Could you possibly lend me your~?” (~を拝借できますか?)があります。もう少しカジュアルな表現として、“May I please use your ~?” や“Can I please use your~?” なども覚えておくと便利です。
例文
“I’d like to borrow this book.” (この本を拝借したいです)
“Could you possibly lend me your money?” (お金を拝借できますか)
“May I please use your pen?” (ペンを拝借できますか)
よくある質問
ここからは、「拝借」に関する、ビジネスシーンでよくある疑問について簡潔に解説します。
Q. 「拝借する」はどういう意味ですか?
「拝借(はいしゃく)する」は、「借りる」の謙譲語で、相手に敬意を表してへりくだり、物やアイデアなどを丁重に借りるという意味です。借りる対象が物だけでなく、知恵や力を一時的に借り受ける際にも使われます。
Q. 「拝借」と「借用」の違いは何ですか?
「拝借」は、「借りる」の謙譲語であり、相手への敬意や丁寧さを示す言葉です。一方、「借用(しゃくよう)」は「借りること」という動作そのものを指す、事務的・客観的な言葉であり、ビジネス文書や法律的な文脈で使われますが、敬意は含まれません。
Q. 「お借りする」の言い換え表現は?
「お借りする」は「借りる」の謙譲語ですが、より丁寧で固い表現は「拝借する」です。また、相手への感謝を強調したい場合は、「ご提供いただく」や「ご提供を賜る」といった表現も状況に応じて適切です。
最後に
- 「拝借」は「借りる」の謙譲語であり、目上の人や取引先に対して敬意を示し、丁重に物や知恵を借りる際に使用する。
- 「拝借させていただきます」は二重敬語にあたるため、「拝借いたします」や「お借りいたします」のように、一つの謙譲表現を用いるのが正しい使い方。
- 「拝借」は返すことが前提のため、時間や名前など返せないものには使わない。
目上の人からものを借りる際、「貸してください」ではなく、「拝借できますか」と言うことでより丁寧で知的な印象になります。ぜひ、目上の人との会話やメールなどに取り入れてみてください。その際、二重敬語などにならないよう、くれぐれも注意してくださいね。
TOP画像/(c) Adobe Stock
Domani編集部
Domaniは1997年に小学館から創刊された30代・40代キャリア女性に向けたファッション雑誌。タイトルはイタリア語で「明日」を意味し、同じくイタリア語で「今日」を表す姉妹誌『Oggi』とともに働く女性を応援するコンテンツを発信している。現在 Domaniはデジタルメディアに特化し、「働くママ」に向けた「明日」も楽しむライフスタイルをWEBサイトとSNSで展開。働く自分、家族と過ごす自分、その境目がないほどに忙しい毎日を送るワーキングマザーたちが、効率良くおしゃれも美容も仕事も楽しみ、子供との時間をハッピーに過ごすための多様な情報を、発信力のある個性豊かな人気ママモデルや読者モデル、ファッションのみならずライフスタイルやビジネス・デジタルスキルにも関心が高いエディターたちを通して発信中。https://domani.shogakukan.co.jp/
▼あわせて読みたい



