「顰蹙を買う」の読み方と意味
「顰蹙を買う」とは、良識のない言動で相手を不快にさせることです。日常的にも使いやすい表現ですが、漢字の表記が難しく読み間違いも多いのが特徴です。
また、一見変わった組み合わせに思える「顰蹙」を「買う」と表現するのは、周囲の人の不快感を手に入れることを意味します。
「顰蹙を買う」という表現の正しい読み方と漢字表記、意味を分かりやすくご紹介します。
「顰蹙を買う」の正しい読み方
「顰蹙を買う」の正しい読み方は……「ひんしゅくをかう」です!
読みの難易度が高いのは、「顰蹙」という言葉を耳で聞くことは多くても実際に書く機会が少ないからでしょう。
「顰蹙」は不快で顔をしかめること、不快感を示すことを意味します。この機会に正しく読めるようにしておくと安心です。
「顰蹙」の読み方はズワイガニではない
「顰蹙」を間違えて「ズワイガニ」と読んでしまわないように気を付けましょう。ズワイガニの正しい表記は「楚蟹」です。
よく見れば間違えようもない2つの言葉ですが、両者とも漢字の部首が冠と脚で構成されているため、勘違いしてしまう人がいるようです。
なんとなく見た目が似ている「顰蹙」と「楚蟹」の違いを認識しておきましょう。
意味は良心に反する言動で嫌われること
「顰蹙を買う」は、良識外れの言動で周りから嫌われ、さげすまれることを意味します。デジタル大辞泉での解説も確認しておきましょう。
【顰蹙を買う】ひんしゅくをかう
良識に反する言動をして人から嫌われ、さげすまれる。「世間の—・う」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
不快感や嫌悪感を示す「顰蹙を買う」とは、人々の悪感情を自ら招くことを意味します。
「顰蹙を買う」という表現における「買う」は「反感を買う」「恨みを買う」などと同じ使われ方で、自分の行動がきっかけになり好ましくない事柄を招いてしまうことを指します。
「顰蹙を買う」は『荘子』の逸話からできた言葉
「顰蹙」は『荘子』の天運篇に記された、下記の逸話に由来をもっています。
風邪をひいた絶世の美女である西施(せいし)は、痛みに耐えながら顔をしかめる姿でさえ美しいものでした。そこで、同じように醜女が顔をしかめると、美女の時とは違い村の男たちは逃げ出してしまいました。
女性の見た目の違いで、大きく周りの反応が異なるという話です。美女の真似をした醜女の行動が周囲の不快感を招いたことが、「顰蹙」の語源です。
周囲を不快にするという意味の「顰蹙」に、自分の行動が良くないことを招くという意味の「買う」が組み合わさって、「顰蹙を買う」の形で使われるようになりました。
「顰蹙を買う」の類義語
「顰蹙を買う」の類義語としては、次の2つの表現が挙げられます。
・反感を買う
・不興(ふきょう)を買う
どちらの表現にも、自分の行動が好ましくない出来事を招くことを意味する、買うが使われています。
類似表現との微妙なニュアンスの違いを把握すれば、より表現力をアップできるでしょう。「顰蹙を買う」の類似表現をご紹介します。
【類語1】反感を買う(はんかんをかう)
「反感を買う」とは、相手に反抗心や反発心を抱かせることを意味します。ビジネスシーンでも「部長はいつも自分の利益ばかりを考えているから、周りの社員から反感を買ってしまう」のように使える表現です。
ただし、自分が誰かに対して反抗したり、反発したりする様子を指して「反感を買う」という言葉は使わないため注意しましょう。
【類語2】不興を買う(ふきょうをかう)
「不興を買う」は、自分の言動のせいで相手の機嫌を損ねてしまうことを意味する言葉です。特に目上の人の機嫌を損ねてしまった場合に使われることが多い表現でもあります。
「大切な取引先への納品日を間違えていて、不興を買う結果となってしまった」のように日常会話でも利用しやすいでしょう。
「不興」のみでの意味は、興味がないこと、機嫌が悪いことです。
「顰蹙を買う」の使い方と例文
「顰蹙を買う」という表現を利用できるのは、相手に不快感を与えてしまった行動を説明する時です。自分や他人の相応しくない言動を指して使えます。
また、「顰蹙を買われる」と受け身にするのは正しくない表現であるため気を付けましょう。
「顰蹙を買う」の使い方のポイントや例文をご紹介します。学んだ表現を実際に使いこなすためには、多くの例文に出会うことも大切です。
1.相手に不快な思いをさせた様子を指して使う
「顰蹙を買う」は、自分や他人の言動で周囲の人々が不快な思いをした状況を指して使うのがポイントです。
誰かの社会的に正しくない言動を非難する場合に使える一方で、自分の適切ではない言動で周りを不快にさせてしまったシーンを反省するシーンでも使えるでしょう。
表現の意味を強める目的で「大顰蹙(だいひんしゅく)を買う」という形で用いることもあります。
2.「顰蹙を買われる」は誤用
「顰蹙を買われる」と受け身の形で使うことはできないため、この機会にしっかりと覚えておきましょう。
「顰蹙を買われる」が誤用である理由は、「買う」が自分の行動が原因で良くないことを招くという意味であるからです。
また、「買う」の代わりに「売る」を使った「顰蹙を売る」も間違いです。言葉の成り立ちをしっかりと理解しておけば、これらの誤用も防げるでしょう。
「顰蹙を買う」を使った例文
「顰蹙を買う」を正しく使いこなすために、いくつかの例文をご紹介します。
【例文】
・みんなで時間をかけて用意したサプライズパーティーが彼のミスで失敗に終わり、友人らの【顰蹙を買った】。
・映画の感動的なシーンで、切り忘れたスマートフォンが鳴ってしまい【大顰蹙を買って】しまった。
・スポーツ選手の不祥事が発覚し、ファンはおろか世間の【顰蹙を買った】。
・彼女は式典に相応しくない服装で出席してしまい、関係者の【顰蹙を買う】結果となった。
まとめ
「顰蹙を買う」とは、社会的な良識から外れた言動で周囲の人々を不快にさせてしまうことを意味します。同じような意味をもった言葉としては、「反感を買う」や「不興を買う」などが挙げられます。
「顰蹙を買われる」のように受け身にしてしまうのは誤用にあたるため、注意しましょう。「顰蹙を買う」を正しく使いこなせば、表現力をアップできるはずです。
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