「お鉢が回る」とは?
お鉢が回る(おはちがまわる)とは、順番が回ってくることを意味する言葉です。江戸時代には、一人ひとりにお膳が準備されていない食事の席では、飯びつ(お鉢)を回して順にご飯をよそっていたようです。
自分のところに飯びつが回ってきたことを「お鉢が回る」といい、順番が回ってきたことを表現します。
【御鉢が回る】おはちがまわる
《人の多い食事の席で、飯びつが回って自分の所へやってくる意から》順番が回ってくる。「とうとう世話役の―・ってきた」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
■「お鉢が回る」の語源
お鉢が回るとは、飯びつが自分のところに回ってきたことから生まれた表現です。飯びつとは、炊いたご飯を入れておく蓋付きの木製の容器のことで、現代でも旅館や和食店などで使われています。
飯びつは「飯鉢(めしばち)」や「お鉢」とも呼ばれたことから、「お鉢が回る」と表現するようになったと考えられています。
なお、ご飯をそのまま炊飯器に入れておいても、とくに問題はありません。しかし、飯びつに移すことで、飯びつが適度に水分を吸収し、時間が経ってもべたべたとしたご飯にならずにおいしく食べられます。
また、昔は炊飯器がなく釜でご飯を炊いたため、そのまま食事の席に持ってくるのは難しく、飯びつに移すことが普通だったと考えられます。
■「お鉢が回る」の使い方を例文でご紹介
お鉢が回るは、次のように使います。
・今年はとうとう町内会長のお鉢が回ってきた。引っ越してきたばかりなのに会長なんて、気が重い。
・夏祭りの役員のお鉢が回ってきた。これから土日は打ち合わせで忙しくなりそうだ。
■「お鉢が回る」を“悪い意味”で使うこともある
お鉢が回るは、よい意味で使われることもあります。
・プロジェクトメンバーの1人が転職したため、わたしにお鉢が回ってきた。ぜひ参加したいと思っていたプロジェクトなので、大変嬉しい。
・新しい営業所への異動を希望していたら、上司の推薦もあり、来月からいけることになった。
偶然や本人の希望などにより、願いどおりの立場に就けたときにも、お鉢が回ると表現することもあります。しかし、お鉢が回るは常によい意味で使われるとは限りません。たとえば、次のようなときは悪い意味で順番が回ってきたと考えられます。
・まったく気乗りはしないが、お鉢が回ってきたので役員を引き受けた。
・とうとうPTAの役員のお鉢が回ってきた。仕事で忙しいが、ほかの役員も皆働いているので断りづらい。
「お鉢が回る」の言い換えの表現
お鉢が回ると同じく、順番が回ってくることを表現する言葉はいくつかあります。たとえば、次の表現は、順番が回ってくることを指して使われます。
それぞれの使い方や使い分けについて見ていきましょう。
「順繰りに」
順繰り(じゅんぐり)とは、順序を追っていくことや、順番に従って次々に行うことを意味する言葉です。次のように使います。
・参加者が多いため、順繰りに席を詰めて座ってください。
・順繰りにカードを配ったら、5枚残った。
また、順を追っていくことを「順順(じゅんじゅん)」と表現することもあります。
・順順に説明するため、質問は後でまとめてお願いします。
・どこから手を付けてよいかわからなかったが、とりあえず依頼されたものから順順に仕事をしました。
「順次(じゅんじ)」も、類似する表現です。順序に従って物事をする様子を指して使います。
・一番から順次、面接をする。
・順次、隣の部屋に入ってください。
「順番が来る」
順番が回るのではなく、「順番が来る」と表現することもあります。
・30分待って、ようやく順番が来た。この様子では会計のときにも時間がかかりそうだ。
・順番が来ないうちは、この席で待っていてください。お名前は順にお呼びしております。
「出番が来る」
舞台に上がる順番が来ることを、「出番(でばん)が来る」と表現することもあります。また、仕事においても、自分の順番が回ってきたときに「出番が来た」と表現できます。
・前の発表者が予想よりも長く、いつ出番が来るのかとやきもきした。
・ようやく名探偵の出番が来ましたね。今回は、助手だけで問題を解決するのかと思っていました。
「お鉢が回る」とは異なる意味で使う表現
お鉢が回るは、順番が回ってくるときに使う言い回しです。そのため、指名されたときや、順番とは関係なく選ばれたときには使いません。順番ではなく決まる様子を指す言葉としては、次のものが挙げられます。
「白羽の矢が立つ」や「貧乏くじを引く」の、それぞれの使い方やシチュエーションについて解説します。
「白羽の矢が立つ」
白羽の矢が立つ(しらはのやがたつ)とは、多くの中からとくに選び出されるときに使われる表現です。
・社長候補として、白羽の矢が立った。
・市民文化センターの候補地として、駅前の空き地に白羽の矢が立った。
なお、もともと白羽の矢が立つという表現は、人身御供(ひとみごくう)を求める神が、その望む少女の家の屋根に人知れずしるしの白羽の矢を立てるという俗説から生まれました。そのため、多くの中から犠牲者として選び出される意味もあります。
「貧乏くじを引く」
貧乏くじ(びんぼうくじ)とは、ほかと比べてひどく不利益なくじや、最も損な役まわりのことです。「貧乏くじを引く」という言い回しで使い、ひどく損をすることを表現します。
・どの役でもよいですよといったら、会長職を押し付けられた。貧乏くじを引いたようだ。
・A町には口うるさい顧客が多く、対応も大変だ。どうやら貧乏くじを引いたらしい。
ニュアンスを正しく表現しよう
お鉢が回るは順番が回ってくるという意味の言い回しですが、「嫌な役が回ってきた」といったニュアンスでも使うことがあります。そのため、使うシチュエーションによっては失礼な表現になってしまうかもしれません。
嬉しいときであれば、「ようやく」や「やっと」というように、待ち望んでいるニュアンスを出すほうがよいでしょう。相手に誤解を与えることがないよう、状況に応じた表現を選ぶことが大切です。
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