ママパパの「知りたい!」でいちばん多いのが「プライベートゾーン」について
前回の記事では「きちんとした避妊の方法が浸透していない日本の現状」について、助産師SUNAこと、砂川梨沙さんに話を伺いました。
シリーズ第6回となる今回は、「プライベートゾーンを知ることの大切さ」と「被害者にも加害者にもならないためには」について。
▲ 助産師SUNAこと、砂川梨沙さん (トータルバースプランナー)
1982年鳥取県産まれ。鳥取看護専門学校・ベルランド看護助産大学校(助産学科)卒業。トータルバースプランナーとして、働く女性のための訪問型「にじいろ助産院」を開業し、産前産後に必要な知識と頼れる場所を提供し、心身ともに健康で自分らしく生きていくことをサポートしている。現在この活動と並行して、性教育についても全国各地で講演中。プライベートでは3児の母。
プライベートゾーンについて繰り返し教えることで「いい・わるい」を理解してもらう
有田千幸 (以下、有田): 性教育クラスを開催されている中で、よく受けるリクエストというのはありますか。
助産師SUNA (以下、SUNA): ママパパからいちばん多く聞かれることのひとつは「プライベートゾーン」についてです。プライベートゾーンとは、命や健康、そして未来に関わる大切な場所のことを指します。具体的には、水着で隠れるところと口のことですね。
SUNA: プライベートゾーンは自分だけの大切な場所です。だから無闇に他人に見せたり触らせたりしてはいけないし、逆に見せられたり触られたりするのもよくありません。たとえば、子ども同士でふざけて遊んでいるときに友だちのプライベートゾーンを触ってしまっていたら「そこはお友だちの大切なところだからやめようね」と、やっていいこととだめなことを伝えましょう。そして触られたときには「イヤだ」といっていいんだよ、イヤなことは「やめて」はっきりといおうね、ということも教えておきたいですね。そうやって繰り返し教えていくことで、他人との正しい距離感を学ぶことができます。
有田: 最近だとカメラ付きの携帯をもつ子も増えてきていますし、写真を撮ったり撮られたりということにも気をつけたいですよね。
SUNA: はい。近ごろの子どもたちは写真を撮られ慣れています。カメラを向けたら自然にポーズを取れるし、知らない人のカメラでも抵抗がないという子どもたちだっています。そんな中、「可愛いから写真撮らせて?」と寄ってくる悪い大人だっているかもしれません。そういう人たちには十分気をつけなければいけないことを日ごろから伝えたいですね。繰り返しになってしまいますが、プライベートゾーンについてはやはり何度もコツコツと伝え続けることが防犯に繋がると思っています。まずは、犯罪・おかしい行為だと気づけること、「イヤ」という意思表示ができること、危険と思ったら逃げることができること、そして両親、祖父母、保育園・幼稚園・学校の先生など信頼できる大人にその出来事を話せること、これが基本になります。
有田: なるほど。それは、子どもが万が一性被害に遭ったときに、まずは自分自身で「これはいけないことだ」と認識できるということが大切」ということですね。
SUNA: はい、その通りです。子どもの性被害の特徴は、自分のされていることの意味がわからないがために被害として認識できず、数年後〜十数年後の思春期、またはそれ以降に自覚し生きづらさを抱えてしまうことにも繋がっているというところ。そしてそのような子どもの場合は、身近な人が加害者であることが多いため、事件が発覚しづらく、被害が長期的になることもあります。いけないことだとわかったら、「NO」→「GO」→「TELL」、すなわち、「イヤだという意思表示」 → 「逃げる」 → 「大人に話す」ということが実行できるよう、ここをベースに子どもたちに説明をし理解を深めたいところです。
自分の体は自分だけの大切なものという認識に
SUNA: プライベートゾーンの話をするときに大切なのは、ネガティブな表現を避けるということ。たとえば「汚いから触らないの」とか「恥ずかしいから隠してね」というような注意の仕方をしてしまうと、体を大切にするということのメッセージが歪んで伝わってしまいます。自分の体は自分のもの。プライベートゾーンだって自分の体の一部ですし、触っちゃいけない見ちゃいけないということはないんです。プライベートゾーンのことを伝える目的は、「プライベートゾーンを含め自分の体はすべて大切で自分だけの尊いものなんだよ」という性の健康の基本を理解するため。それは、適切にセルフケアを行えたり、性犯罪に巻き込まれないように心がけられたりと、人生そのもを豊かにする第一歩でもあるのです。
有田: 「そんなところ触らないの」とか、思わずいってしまいそうなひと言ですよね。このようなプライベートゾーンについての話は、どんなタイミングで教えてあげればよいのでしょう。
SUNA: 私たち親がいちばん自然に話題にできるのは、トイレトレーニングやお風呂のときかもしれませんね。たとえば、まだ自分でお尻を拭いたり洗ったりできない小さい子のサポートをするときにも、「お尻拭かせてもらうね」や「まだ自分ではきれいにできないから手伝うね」というスタンスでいき、トイレや入浴が徐々に自立していく過程で、拭き方や洗い方を教えていくのがいいと思います。
被害者だけではなく加害者にもなる可能性が…
性犯罪を防ぐために知っておくべきことは?
SUNA: 私たち親はどうしても被害者になることを心配しがちですが、加害者になることだって十分にあり得ます。プライベートゾーンの感覚がまだない子どもたちのことです。たとえば、友だちのスカートをめくったり、パンツをズラしたり、カンチョウ遊びをしたり。また、保育園の先生の体を面白半分に触る、ということもあるかもしれません。いってみれば授乳期をすぎ、プライベートゾーンについて伝え始めている年齢になっていれば、ママのおっぱいも「楽しいから」といって触るのはプライベートゾーン的に好ましくない行為にあたりますね。
有田: どれだけ親しくても、他人の体は他人の大切なもの、ということですよね。
SUNA: そう、「そこはお友だちのプライベートゾーンだよね。だから触るべきではないよね、見ようとすべきではないよね」という認識を共有し、それと同時に「だから自分もそういうことをされるべきではないよね」ということも伝えておくことで、不審者や性犯罪者が万が一近づいてくるようなことがあっても、子どもが自分で「おかしいな」と気づくことにも繋がります。
有田: プライベートゾーンの定義を知っていることで、伝えられる幅が広がりますね。加害者にも被害者にもならないためには、そうやって体を大切にすることの意味を繰り返し学んでいくことが鍵となるといえそうですね。
次回の話は、「子どもにも知って欲しいジェンダーアイデンティティー」について。
イラスト/Mai Kaneya
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ライター
有田 千幸
外資系航空会社のCA、建築設計事務所の秘書・広報を経て美容ライターに。ニュージーランド・台湾在住経験がある日・英・中の トリリンガル。環境を意識したシンプルな暮らしを心がけている。プライベートでは一児の母。ワインエキスパート。薬膳コーディネーター。@chiyuki_arita_official