「感謝しております」は丁重語で、継続的な感謝を丁寧に伝える正しい敬語表現です。
Summary
- 「感謝しております」は丁重語に分類される正しい敬語表現です。
- 継続的な感謝を伝える際に適しており、長い付き合いや日頃の支援へのお礼に効果的です。
- 「感謝いたします」「感謝申し上げます」などとの使い分けで気持ちがより伝わります。
ビジネスメールや日常業務で「感謝しております」という表現を見かける機会は多いでしょう。丁寧で好印象な表現として認識される一方で、「本当に正しい敬語なのか?」「どのような場面で使うべきか?」と悩む人も多いのではないでしょうか。この記事では「感謝しております」の意味や正しい使い方、適切な場面での使い分けを実例とともに詳しく解説いたします。
「感謝しております」の意味とは? 敬語として正しい?
まずは、「感謝しております」という言葉の構造と、敬語としての位置づけを正しく理解することから始めましょう。
「感謝しております」の成り立ちと敬語の種類
「感謝しております」は、以下の3つの要素から成り立っています。
・感謝(名詞)
・し(動詞「する」の連用形)
・ております(補助動詞)
ポイントは「ております」の部分です。これは「〜ている」を丁寧に、そして改まった響きにするための言葉で、文化庁の『敬語の指針』では「丁重語(ていちょうご)」に分類されます。丁重語とは、自分の言動を、聞き手に対して丁寧に述べることで敬意を表す言葉です。
自分をへりくだる「謙譲語」と少し似ていますが、丁重語は聞き手への配慮に重点が置かれている、と考えると分かりやすいでしょう。つまり、「感謝しております」は、「感謝している」という自分の状態を、相手に対して丁寧に伝えている敬語表現であり、文法的に正しい言葉です。

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「感謝いたします」と「感謝申し上げます」との違い
では、似た表現である「感謝いたします」「感謝申し上げます」とは、どう使い分ければいいのでしょうか? 違いは、感謝の気持ちが「状態」か「行為」かにあります。
感謝しております
感謝している「状態」が継続しているニュアンス。「いつも気にかけていただき、感謝しております」のように、継続的な関係性の中での感謝を伝えたいときに最適です。
感謝いたします
「感謝する」という「行為」をその場で行う、一度きりの感謝。「迅速にご対応いただき、感謝いたします」のように、特定の行為に対して、区切りをつけて感謝を伝える場面で使うと効果的です。
感謝申し上げます
「言う」の謙譲語である「申し上げる」を使った、最も丁寧で改まった表現です。こちらも「行為」の感謝ですが、より強い敬意を示します。社長や役員、非常に重要な取引先など、最大限の敬意を払うべき相手に使いましょう。
感謝の気持ちが「今も続いている」なら「〜しております」、相手の行動に対して「今、感謝を伝える」なら「〜いたします」と覚えておくと便利です。

「感謝しております」は失礼? 使っていい場面・避けたい場面
「感謝しております」は基本的に丁寧な表現ですが、場面を選んで使う配慮が必要です。不適切な場面で使うと、違和感や過剰な形式感を与えてしまう場合もあります。

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「感謝しております」が効果的な場面
継続的なニュアンスを持つ「感謝しております」は、長期的なお付き合いのある相手に最適です。
例
・長期プロジェクトの担当者へ
「〇〇様にはプロジェクト発足当初からご尽力いただき、心より感謝しております」
・日頃お世話になっている取引先へ
「平素は格別のご高配を賜り、深く感謝しております」
・恩師へ
「先生からいただいた教えは、今も私の支えです。感謝しております」
このように、過去から現在に至るまでの継続的な支援や関係性に対して使うと、気持ちが深く伝わります。
「感謝しております」を避けるべき場面
一方で、以下のような場面で使うと、意図せず失礼な印象を与えかねません。
1:初対面の相手や、単発の依頼
まだ関係性が築けていない相手に「継続」を意味する「〜しております」を使うと、「何に対して?」と違和感を与えかねません。簡潔に「ありがとうございます」や「感謝いたします」を使いましょう。
2:何かをしてもらった直後の、具体的なお礼
資料作成を手伝ってもらった直後に「感謝しております」では、少し他人行儀で大げさに聞こえます。「〇〇さん、本当に助かりました! ありがとうございます!」のように、具体的な言葉で伝えた方が、感謝の気持ちはストレートに伝わります。
3:謝罪の場面
こちらに非がある場面で「ご指摘いただき感謝しております」と言うと、「指摘はありがたいけど、まずは謝罪では?」と相手の感情を逆なでする危険性があります。まずは「大変申し訳ございませんでした」と真摯に謝罪し、その上で「ご指摘いただき、ありがとうございます」と感謝を伝えるのが誠実な対応です。

継続的な関係性には最適ですが、初対面や単発の場面では避けましょう。
もう迷わない!「感謝しております」の言い換え表現
実際のシーンや相手に合わせて感謝の表現を使い分けることで、気持ちがより伝わりやすくなります。

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フォーマルな言い換え(目上・取引先向け)
改まった場面では、漢語表現を使うとより格調高い印象になります。
・心より御礼申し上げます
最も丁寧な感謝の表現の一つ。式典や挨拶状などに。
・深く感謝申し上げます
こちらも非常に丁寧。「心より〜」と同様に使えます。
・拝謝(はいしゃ)申し上げます
「拝」がつくことで、敬意がさらに高まります。書き言葉で使うと知的な印象に。
カジュアルな言い換え(同僚・社内メール向け)
親しい間柄では、ストレートで温かみのある言葉が心に響きます。
・本当にありがとうございます
「本当に」と一言添えるだけで、気持ちがぐっと伝わります。
・〇〇さんのおかげです
相手の貢献を具体的に認める、最高の褒め言葉です。
・とても助かりました
感謝と同時に、相手の行動が自分にとって有益だったことを伝えられます。
・感謝しかありません
感謝の気持ちが溢れる様子を表現できます。
避けたほうがいい不自然な表現
よかれと思って使っても、相手を困惑させてしまう表現もあります。
・感謝の念に堪えません
「堪えない(たえない)」は感情が抑えきれないほど強いことを示す語ですが、現代のビジネスメールでは少し硬く、芝居がかって聞こえることも…。
・感謝しておりまする
「〜まする」は現代では使われない、時代劇のような言葉遣いです。避けましょう。
・厚く厚く御礼申し上げます
冗長な重ね言葉は、過度な印象を与えてしまう場合があるため注意が必要です。
最後に
- 「感謝しております」は、継続的な気持ちを丁寧に伝える敬語表現です。
- 相手や場面に応じて、「感謝いたします」や「ありがとうございます」も使い分けましょう。
- 目上や取引先には、より丁寧な言い換え表現を選ぶのが好印象です。
「感謝しております」は、継続的な関係性の中で感謝を伝える丁寧な言葉です。言葉の成り立ちやニュアンスを正しく理解し、相手や場面に合わせて「ありがとうございます」や「感謝いたします」と使い分けることができれば、あなたのコミュニケーションはより洗練され、相手との信頼関係も一層深まるはずです。
大切なのは、形式や言い回しにとらわれ過ぎず、「なぜ感謝しているのか」「どんな気持ちでいるのか」を具体的に伝えること。自分の感謝の気持ちが相手にしっかり届くよう、状況に応じて適切な表現を選びましょう。
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執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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