好意の返報性とは?
好意の返報性は、返報性の原理によって引き起こされる現象です。返報性の原理の意味を理解し、上手に活用しましょう。
「返報性の原理」の意味
返報性の原理とは、人から何かをしてもらったときに、「何かお返しをしないと気が済まない、申し訳ない」と感じる心理のことです。
例えば、スーパーなどの試食コーナーで店員さんから試食を勧められたとき、「せっかく無料で食べさせてもらったから、買わないと申し訳ない」と感じて、商品を購入することがありますよね。これが返報性の原理の分かりやすい例えです。
返報性の原理は、人間に本来備わっている義理や人情などといった、ごく自然な心理といえるでしょう。ただし、相手との関係性や個人の感覚によって、感じ方が異なります。何か施しを受けてうれしいと感じたり感謝したりする人もいれば、何かでお返ししなければとプレッシャーを感じてしまったり、何もしないのはマナー違反であるように感じてしまったりする人もいるでしょう。
返報性の原理を表すことわざ
返報性の原理は、いくつかのことわざでも表現されます。「損して得取れ」ということわざは、一時的に損をしても、それをもとに将来的には利益になるようにするべきだということを表します。一見損に思えることでも、懸命にやっているうちに、周囲から認められて、ゆくゆくはよいことになって返ってくるという、まさに返報性の原理を示しているでしょう。
また、「情けは人のためならず」は、人には利害を考えることなく親切にしようという教えです。「情け」は人へ親切にすることを指します。何かをされてお返ししたくなる心理が働けば、親切にしてくれた相手やまた別の人に親切にしたいと思うでしょう。情けをかけることはその人のためになるだけでなく、巡り巡って自分によい報いとなって返ってくるということを表します。
そして「気は心」は、ほんの少しだけでも真心を込めることを指すことわざです。ちょっとしたサービスやさりげない思いやりなど、相手が喜ぶ「粋な計らい」をすることの積み重ねで、相手に誠意が伝わります。
これらのことわざは、先んじて自分から与えることで相手やほかのところから自分に返ってくる、まさに返報性の原理が行き着くところを表しています。
「一貫性の原理」との違い
似た言葉に、一貫性の原理という言葉があります。返報性の原理との違いを知り、正確な意味を理解しましょう。
そもそも「一貫性の原理」とは?
一貫性の原理とは、人が一度やると決めたり人に宣言したりしたことを、一貫性を持ってやり遂げたいと感じる心理のことです。多くの人が持つ心理的傾向で、無意識のうちに一貫性の原理に基づき行動を選択しています。
一貫性の原理には、「社会性」と「簡便性」の二つのメリットがあります。
社会性の観点からのメリットは、一貫性のある行動をすることで、所属するコミュニティで承認を得やすいことです。多くの社会で、一貫性を持って行動することはよいことであると捉えられています。中には、大切な価値規範の一つとして認識している人もいるでしょう。
また、簡便性の観点では、行動を決断する際のストレスが軽減することが挙げられます。一貫性を持って行動しようとすると、行動の選択が必要なシチュエーションで選択肢を広げずに済むため、どのような行動をするかが自然と決まります。結果として、多様な選択肢を考慮するという過程がなくなり、悩んだり考えたりするストレスから解放されるでしょう。
「フット イン ザ ドア テクニック」
一貫性の原理を用いた、「フット イン ザ ドア テクニック」と呼ばれる心理的手法があります。本来は「片足をドアに挟み、まずはお客様に話を聞いてもらう」という訪問販売の様子から派生した、営業などの場面でよく使われるテクニックです。
フット イン ザ ドア テクニックでは、まずお客様に対して小さなお願いをします。最初の小さなお願いの例として、「3分で済むので話だけでも聞いてください」や「特別に無料で〇〇しますが、一度使っていただけませんか」などの営業文句が代表的です。断られないような簡単な要求をし、相手に受け入れられたら徐々に要求を大きくしていきます。
一貫性の原理により、お客様は1回イエスと言ってしまうと、後からノーと断りにくくなってしまう心理が働きます。すると、最終的に本命の商品やサービスをセールスした際に、普段なら断るようなことでも承諾してしまうことがあるのです。
好意以外にもある三つの返報性
返報性には、好意以外にもさまざまなものがあります。色々な返報性について把握しておきましょう。
敵意の返報性
敵意の返報性とは、相手から向けられた敵意に対して、仕返ししたくなる心理のことです。
例えば、相手から悪口を言われると言い返したくなってしまったり、横柄な態度を取られると同じような態度で返したくなってしまったりというケースが挙げられます。
よく「悪いことをしたらバチが当たる」などといわれるように、相手に向けた敵意や悪意が、高確率で自分に跳ね返ってきてしまうことがあるものです。好意の返報性があるのと同じく、相手に対するネガティブな感情も自分に返ってきてしまうことを理解しましょう。
譲歩の返報性
譲歩の返報性は、相手が譲歩してくれたことに対して、次は自分が譲歩しなければと感じる心理のことです。
例えば、価格をあえて高めに提示しておき、その後値引きながら適正な金額で交渉をすることで、最終的に相手に承諾してもらえる確率が上がります。また、相手へ「値引きしてもらえた」という満足感を与えられるという、副次的な効果も期待できるでしょう。
自分から譲歩することで返報性の原理が働くため、交渉などの場面で活用されます。
自己開示の返報性
自己開示の返報性は、相手が自己開示をしてくれたときに、同じようなことを自分も打ち明けなければならないと感じる心理のことです。自分から自らの考え方や経験などの本音を伝えていくことで、相手からも本音を話してくれること可能性が高まります。
例えば、積極的に自己開示をする気さくな人の周りには、たくさんの人が集まってくることが多いものです。無意識に自己開示の返報性が働くことで、周りの人たちも自己開示するようになります。
ビジネスやプライベートな交友関係、恋愛などさまざまな場面に応用される返報性です。
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ビジネスにおける身近な例
ビジネスにおけるさまざまな場面で、返報性の原理が活用されています。いくつかの事例を見ていき、返報性の原理を理解しましょう。
スーパーなどの試食コーナー
スーパーなどで行われる試食コーナーで、親切な店員さんから試食を勧められると、つい食べてみたくなるもの。試食したものがおいしくて購入したいと感じたときはもちろんですが、そうでもないときでも「なんだか買わないと申し訳ない」という気持ちになることもあるでしょう。
好意の返報性が働き、「無料の試食をさせてもらったからには少しでも購入しなければ」という心理になることで、購入する人が増えます。買うつもりのない場合には、初めから試食をしないか、試食前に絶対に買わないと決めておく必要があるでしょう。
無料でのサンプル配布
多少のコストをかけてでも、初回無料・割引・サンプルの配布などをすることで、相手が先に得をした気分になったり、商品による感動体験を得られたりします。すると、返報性の原理が働くため、商品を購入してもらうという目的が達成しやすくなるのです。
お客様に喜んでもらえるよう、見返りを求めない姿勢でアプローチすることで、リピーターを生むビジネスになります。マーケティングの1手法として、広く活用されています。
コンビニのトイレ
トイレを無料で貸し出しすることで、利用者は「トイレを使わせてもらって助かった、ありがたい」という気持ちになります。好意の返報性が働き、お返しとして何か商品を購入したくなるものです。
中には、「トイレを借りたのに商品を買わないわけにはいかない」と感じる人もいます。コンビニのマーケティング上、非常に効果的な手段の一つであるといえるでしょう。
ファストフード店の無料コーヒー
お客様が無料のコーヒーをもらうことで好意の返報性が働き、何かお返しをしなければと感じて、予定はなかったのにほかの商品も注文してしまうケースも同様です。また、景気の悪化によって外食自体を控える人が増える状況下でも、「無料ならいいかな」と来店する人が増えるものです。
実際に、無料でコーヒーを配布するキャンペーンを行ったファストフード店では、キャンペーン期間全体で売り上げが伸びたという事例があるようです。
無料で配ることにコストは発生しますが、最終的な売り上げ総量が増えることで、何もしなかったときと比べて収益がアップすることがあります。
服の試着
服の試着も、返報性の原理が働きやすいケースです。店員に時間をかけて接客してもらったり、購入する前の商品を試着させてもらったりすることが「借り」になります。
特に、丁寧な接客を受けたり、サイズ違いの服を持ってきてもらったりと、借りが大きくなるほど断りづらくなるものです。勧められるがまま試着し、「本当は買う気がない服まで買ってしまった」という経験をしたことがある人も多いでしょう。
結果として、「せっかく着せてもらったのだから購入しよう」という気持ちになるのです。
返報性の原理の使い方
返報性の原理は、さまざまな場面で活用されます。返報性の原理を日常で応用する際の、具体的な使い方を見ていきましょう。
返報性の原理を使った実験
返報性の原理を用いた実験は、アメリカの心理学者「デニス・リーガン博士」によって行われました。
実験では、仕掛け人が飲み物を買いに行った後で、被験者に有料チケットの購入をもちかけます。被験者は「仕掛け人が、自身の飲み物だけを買ってくる」グループAと、「仕掛け人が、自身と被験者の2人分の飲み物を買ってくる」グループBの、二つのグループに分けられます。結果として、仕掛け人が2人分の飲み物を買ってきたグループBでは、グループAの2倍も有料チケットの購入をしたという結果になりました。
「自分の分も飲み物を買ってくれた」という仕掛け人の行動が好意の返報性を働かせ、被験者が有料チケットを購入するという形でお返ししようとしたことが考えられます。
相手の負担にならない「貸し」をつくる
返報性の原理を使う際には、相手の負担になり過ぎない程度の「貸し」をつくるのがポイントです。
例えば、無料で商品やサービスを体験してもらうという「貸し」をつくることによって、返報性の原理が働き相手が購入したくなります。また、ネットショッピングなどでよく見かける「全額返金保証」も「貸し」をつくる手法の一つです。お客様が商品に満足できなかった場合には返金に応じるという形で、商品の無料提供に近い返報性の原理が働きます。
日常生活でも日頃から友人や同僚に親切にすることで、相手から信頼を獲得できたり、いざというとき助けてもらえたりします。しかし、相手のキャパシティを超えるような「貸し」になってしまうと、プレッシャーを与えてしまい逆効果です。相手の負担にならない、ほどよい「貸し」をつくることを心掛けましょう。
好意の返報性のNGな使い方
好意の返報性を活用する際に、NGな使い方があります。よかれと思ってした行動が思わぬ結果にならないよう、注意点を理解しましょう。
見返りを求める
好意の返報性を使う際には、見返りを求めすぎないようにしましょう。いくら相手へ「貸し」をつくっても、見返りを求めすぎては相手に下心を感じ取られてしまいます。
例えば、無料のサンプルをもらったメーカーから勧誘の電話が何本もかかってきては、不快な気持ちになってしまい、お返しをしたいという気持ちが薄れてしまうものです。下心が見え見えで受け取る相手が善意を感じなければ、返報性の原理は働きにくくなってしまいます。
「貸し」をつくる際には見返りを期待しすぎず、相手に喜んでもらおうという純粋な気持ちを大切にしましょう。
関係性に見合わないものをあげる
相手との関係性に見合わないものをあげてしまうのも、相手への負担になってしまう一因です。
例えば、最近取引が始まったばかりのお客様から、いきなり高級品のバッグなどをもらったとしたら、「相手から次に何か大きな要求をされるのでは」と勘繰ってしまうものです。関係性に見合わないものをもらうことで、相手を急に警戒したり不安になったりするでしょう。
また、何をしても「貸し」が返ってこない相手に対して与え続けてしまうと、自分だけが損をすることになってしまいます。相手に「貸し」をつくる場合は、相手との関係性を考慮し、もしお返しがなくても問題ないか、相手とのバランスは取れているかなどに注意しながら行動しましょう。
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