新入社員の頃は、一寸のひまも惜しんで、がむしゃらに仕事をした
わずかな時間も惜しんで取り組む様子を「一寸のひまも惜しむ」とした使い方です。懸命に物事に向き合っていることがよく伝わる表現といえます。
家を新築した途端、地震で大きな被害を受けたので、一寸先は闇だと思った
予測できない災害や事故、突発的で好ましくない出来事が、常に起きるかもしれない可能性を、「闇」という言葉を使った表現です。未来が予測できないからこそ、万が一に備えて事前準備をしておく。戒めや注意喚起の言葉として受けとめるとよいでしょう。
弱いチームと戦う時も、「一寸の虫にも五分の魂」というように気を抜いてはいけない
立場が弱い人や、力がない人に対して、つい横柄な態度をとってしまうのは珍しいことではないかもしれません。弱小なものに対しても、ばかにすることなく向き合うことが大切であるということを、忘れないための言葉となりそうです。
類語や言い換え表現とは?
「一寸」を使った「一寸先は闇」の類語、言い換え表現をみていきましょう。
禍福は糾える縄の如し
中国の「史記」南越伝からの故事成語です。「禍」は「わざわい」で「福」は「幸福」のこと。「糾える」は「あざなえる」と読み、紐や縄などがより合わさった状態を指し、「幸福と不幸は、より合わせた縄のように交互にやってくること」をたとえています。人生は先が見えないことが多いですが、良いことも悪いことも同じようにやってくると思えば、心構えとして安心できそうです。
例:禍福は糾える縄の如しというように、厳しいことがあっても、前向きにやっていこう
塞翁が馬(さいおうがうま)
中国の故事「淮南子(えなんじ)」の人間訓からの言葉で、「人生の禍福は、転々として予測できないこと」のたとえです。塞は「とりで」で「翁」は老人の意味を持ちます。
老人は馬をとりでから逃してしまうのですが、数か月後、逃げた馬が駿馬を連れ帰ります。老人の子がその馬に乗ると、落馬して骨折してしまうことに。しかし、そのおかげで兵役を免れ、子は命が助かるのです。この話は、人生は予測ができず、禍福が巡っていることを伝えています。
例:大変な失敗をしてお詫びに言った取引先の社長に気に入られて、新たな事業を受注した。人間万事塞翁が馬ですね。
沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり
川の浅瀬というように、「瀬」とは歩いて渡れる浅い場所のこと。そして、川には深い場所もあります。「沈む瀬」「浮かぶ瀬」のように、「長い人生のうちには、悪い時もあればよい時もある。悪いことばかりが続くものではない」ということ。浮き沈みはあっても、人生をゆったり構えていけそうな気がしますね。
例:ライバルに負けて辛い思いをしているけれど、沈む瀬あれば浮かぶ瀬あり。目の前のことを大事に乗り越えていこう
英語表現は?
日本の昔の長さの単位「一寸」を表す英単語はありません。しかし、「一寸先は闇」「一寸の虫にも五分の魂」のことわざに似た英語の慣用表現があります。一緒に見てみましょう。
一寸先は闇
「一寸先は闇」を「未来は予測できない」という意味から考えてみると、英語でも良く似た慣用表現があります。
・We don’t know what’s around the corner(角を曲がった先には何が待っているかなど誰も分からない)
「一寸先」のことを英語で「around the corner(曲がった角)」として、「道の角を曲がった先」とした表現。これも、先が見えない、未来が予測できないイメージが湧きますね。
・No one knows what the future holds.(未来のことは誰にもわからない)
「No one knows〜」は「誰も〜を知らない」「〜は誰にもわからない」という意味。「hold」は「待ち受けている」というニュアンスなので「どんな未来が待ち受けているか、誰にもわからない」という意味合いになります。
一寸の虫にも五分の魂
・Even a worm will turn.(いっぴきの虫でさえも反撃してくる)
直訳すると「いっぴきの虫でさえ方向を変えようとする(向かってくる)」です。転じて、「いっぴきの虫でさえも反撃してくる」、つまり「一寸の虫にも五分の魂」とよく似た表現といえそうです。
「worm」は芋虫のことで、蝶や蛾などの幼虫を指します。「一寸の虫」と同じように、小さな幼虫が登場する慣用句が英語にもあるのが興味深いところです。
ちなみに蛾の幼虫「尺取り虫」の「尺」も、尺貫法の単位「尺」からきています。親指の先から中指の先をV字に広げて、長さを測っていたことが由来です。人が指を拾げて「尺を取る」手の動きと「尺取り虫」の歩き方が似ていますね。
最後に
「一寸」は、昔は日本人の生活になくてはならない言葉でした。よく考えてみると、「一升瓶」「お米一合」「一反木綿」など、尺貫法の単位にちなんだ言葉は今も身近に使われています。
また、元々は、長さや重さを表す単位だったものが、「わずかな様子」「小ささ」をも表現したり、気楽に人に声をかける時の言葉としても活用されたり、何げなく見聞きしている言葉から、昔の人の生活も垣間見えてくるのが興味深いところ。この機会に、長さの単位としても、例える言葉としても、「一寸」を使いこなしてみてください。