「拍車をかける」とはスピードを速めること
「拍車をかける(読み方:はくしゃをかける)」とは、スピードを速めることを指す言葉です。すでにスピードが出ている状態が、さらに速度を増した様子を表します。
そのため、現時点でスピードがほとんどない状態、あるいは止まっている状態のときは、「拍車をかける」とは表現しません。
【拍車をかける】はくしゃをかける
《馬の腹に拍車を当てて速く走らせる意から》物事の進行を一段とはやめる。拍車を加える。「政治の混乱が不況に―・ける」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
語源となった「拍車」とは、乗馬で使う金具のこと
「拍車」とは馬具の一種で、乗馬靴のかかと部分に装着して使う金具です。馬が走るスピードを上げたいときに拍車を馬の腹に当てると、刺激を受けた馬は通常以上に急ぐようになるので、速度を上げることが可能です。
拍車の歴史は古く、紀元前4世紀にはケルト人が使用していたといわれています。時代は下って現代では、馬体保護の観点から競走中の拍車の使用を認めない国も多いです。日本でも2010年ごろから、JRAが使用を禁じています。
とはいえ過度に刺激を与えて速度を上げるためではなく、馬への指示を補助する道具として、乗馬などでは今も使用されています。この場合も、正しい使用法を守り馬体への刺激を適切にコントロールすることが大切です。
「拍車をかける」を例文で解説
いい意味でも悪い意味でも用いる
「拍車をかける」という言葉は、いい意味でも悪い意味でも用いることが可能です。もともとは何かをしているときにスピードを上げるという意味なので、良いことをしていれば良いことの、悪いことをしていれば悪いことのスピードが上がることを表現します。
例えば、次のように使うときは、いい意味で拍車がかかっているといえるでしょう。
例文
・新商品の売れ行きが良いようだ。店全体の売上が上り調子のうえ、新商品の人気でますます拍車がかかっている。
・彼は最近おしゃれになってきた。格好良さにも拍車がかかった。
また、次のように使うときは、良くない状態がさらに良くない方向へ動いていると考えられます。
例文
・レジは3つあるが、すべてが新人スタッフのようだ。ただでさえ会計に時間がかかるのに、今日は特に拍車がかかっている。
・幼いころから手の付けられない暴れん坊だったが、成長とともにさらに拍車がかかったようだ。
「拍車を加える」という言い方をすることも
「拍車をかける」ではなく「拍車を加える」ということもあります。意味は同じで、スピードをさらに増すことです。例文を紹介するので、使い方をマスターしましょう。
例文
・優勝を目指して熾烈な争いが続いていたが、優勝賞金が100万円に増えたというニュースが、争いの激しさに拍車を加えた。
・受験に失敗し、彼女の落ち込みぶりは目も当てられなかった。滑り止めも不合格との報告が、彼女の嘆きに拍車を加えた。
・皆のやる気に拍車を加えるために、心を込めておにぎりを握った。
自然とスピードが増した場合は「拍車がかかる」と表現
何かが起こったことで、自然にスピードが速まることを「拍車がかかる」と表現することもあります。
例文
・毎日忙しいが、最近はさらに拍車がかかっている。
・彼女の集中力には舌を巻くばかりだ。以前も素晴らしい集中力で走り切ったが、今回のランはより拍車がかかっている。
・拍車がかかったかのように、急に彼の仕事のスピードが上がった。
「拍車をかける」の類語・対義語をご紹介
「拍車をかける」のように、スピードが増す意味で使われる言葉としては、次の2つが挙げられます。
・火に油を注ぐ
・促進する
また、反対語としては、次の言葉が挙げられるでしょう。
・水を差す
それぞれどのようなシチュエーションで使用するのか、また、「拍車をかける」とのニュアンスや使い方の違いについて見ていきましょう。
類語1:火に油を注ぐ(ひにあぶらをそそぐ)
状況を進めるという意味では、「拍車をかける」と「火に油を注ぐ」は同じです。しかし、前者はいい意味でも悪い意味でも使えますが、後者は悪いときのみに使います。
好ましくない状況をさらに悪化させるときなどに「火に油を注ぐ」という言葉を使ってみましょう。いくつか例文を紹介します。
例文
・父親は彼女のしたことに対して怒っていたが、彼女の言葉遣いが火に油を注いだ。
・言わなくてもよいことばかり言ったので、許しを得るどころか、火に油を注ぐ結果となった。
類語2:促進する(そくしんする)
「促進する」も「拍車をかける」と同じくスピードを速めるときに用いる言葉です。また、特にポジティブ・ネガティブのニュアンスはないので、いい意味でも悪い意味でも使用できます。
例文
・母親は勉強を教えるスピードを促進した。少しでも娘に賢くなってほしいようだ。
・円高ではあるが、あえて輸入を促進している。
対義語:水を差す(みずをさす)
スピードがある状態を止める意味で「水を差す」という表現を使うことがあります。例えば次のように使ってみましょう。
例文
・彼女の喜びに水を差すように、彼は不快な発言ばかり繰り返した。
・水を差すようで申し訳ないのですが、実際には彼は合格していません。
「拍車をかける」を正しく理解して使おう
「拍車をかける」とはスピードを増すときに使う表現です。勢いを増すときや、良い状況や好ましくない状況がさらに進行するときにも使えます。正しく意味を理解して「拍車をかける」や「拍車がかかる」を使いこなしましょう。
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