「鳴かず飛ばず」とは故事成語の1つ
「鳴かず飛ばず」という表現は、一般的によく使用される故事成語の1つです。もともとは「近い将来活躍する機会に備えて行動を控えておき、活躍の機会を待っている様子」を表す言葉です。転じて、現在では「何の活躍もできないでいる様子」という意味合いが強くなっています。
なお故事成語には、他にも以下のようなものが挙げられます。
・五十歩百歩
・矛盾
・烏合の衆
・温故知新
・臥薪嘗胆
故事成語とは?ことわざとの違いは?
「故事」とは昔にあった出来事という意味で、特に古代中国の出来事を指します。故事成語は、古代中国の逸話をもとにできた慣用句です。
ことわざと慣用句にははっきりとした区別があるわけではないものの、多少の違いがあります。ことわざは、昔から言い伝えられてきた教訓や風刺を含んだ簡潔な言葉を指します。一方、慣用句は複数の単語を組み合わせて、一個の定型的な表現として使われる言い回しです。
また、慣用句には教訓や風刺などは含みません。さらに、故事成語が古代中国の出来事に由来するのに対し、ことわざやには出典が明らかでない点も特徴といえます。
「鳴かず飛ばず」の由来や語源
ここでは、故事成語の中でもよく使われる「鳴かず飛ばず」について、さらに詳しくみていきましょう。
語源は、中国の歴史書「史記-楚世家」に記された、紀元前七世紀頃の故事だと言われています。
「楚」という国の君主であった荘王は、即位してから3年間、まともに政治を行いません。「荘王を注意をする者は全員処刑する」と公言し、自分は夜遊びをしていました。そんな時に、伍挙という家臣は「丘の上で3年間鳴くことも飛ぶこともない鳥は、一体どんな鳥だと思われますか」と荘王に対して謎かけをしたそうです。すると荘王は「3年も飛ばない鳥はひとたび飛んだら天を突くかのように高く飛び、鳴いたら人を驚かすほどの勢いだろう」と答えました。
このやり取りが語源となり「将来の活躍に備えて行いを控えつつ、活躍の機会を待つ様子」という意味になったといわれています。
「三年鳴かず飛ばず」との違い
「三年鳴かず飛ばず」という言葉もありますが、こちらの由来も同様です。意味も「鳴かず飛ばず」と同様で、同じシーンで使うことができます。ぜひ覚えておきましょう。
「鳴かず飛ばず」を使用した例文
【例文】
・彼だけが出世できず鳴かず飛ばずの状態であったが、やっとチャンスがやってきた。
・彼女は人見知りで話すことが苦手にも関わらず営業に配属されて鳴かず飛ばずの状態であったが、ようやく大きな契約を取れた。
・独立してからは鳴かず飛ばずで赤字ギリギリの状態が続いたが、最近ようやく軌道に乗ってきた。
・あの歌手は鳴かず飛ばずの状態で25年間も下積み時代を過ごしたが、ようやくグランプリで優勝をしたそうだ。
・彼は去年三冠王を獲得したが、今年は鳴かず飛ばずの状態が続いている。
これらの例文からも分かるように、ようやく芽が出た場合や実力が発揮できていない時に多く使用されます。
「鳴かず飛ばず」における3つの類語表現
「鳴かず飛ばず」の類語表現として、次の3つが挙げられます。
・万年前座
・うだつが上がらない
・伸び悩んでいる
「鳴かず飛ばず」を「何の活躍もできないでいる様子」という意味で使用する際は、似た意味を持つ言葉がいくつかあります。「鳴かず飛ばず」についてさらに理解が深まるよう、ここでは類語表現の意味と例文を紹介します。
1. 万年前座
「万年前座」の意味は「評価が低く、活動が注目されない様子」です。
「鳴かず飛ばず」の代わりとしてそのまま使うことはできないものの、同じような状況で使われる類語といえます。
【例文】
・あの俳優は20年も下積みが続き万年前座といわれていたが、ようやく主役に選ばれた。
・彼は数年前、賞レースで優勝を飾ったものの、近頃では万年前座の状態が続いている。
言葉の意味が異なるため使い方に違いはあるものの、同じような状況で使用できる言葉として覚えておきましょう。
2. うだつが上がらない
「うだつが上がらない」には、以下のような意味があります。
・出世がなかなかできない
・なかなか稼げない
・成績が上がらない
「うだつ」とは江戸時代の家屋で隣家からの延焼防止のために造られた防火壁のこと。やがてこのうだつを高い位置に上げ、立派に設ることが富の象徴となったことから、収入がなかなか上がらないことを「うだつが上がらない」と表現するようになったようです。「鳴かず飛ばず」の本来の意味とはニュアンスが若干異なりますが、同じような状況で使用されます。
【例文】
・同期入団で彼だけがうだつが上がらない状態が続いていたが、ようやくチャンスが回ってきた。
・独立してからはなかなかうだつが上がらず、赤字ギリギリの状態が続いたが、最近ようやく軌道に乗ってきた。
似た意味を持つ表現ですが若干ニュアンスが異なるため、使用する際は注意しましょう。
3. 伸び悩んでいる
「伸び悩んでいる」の意味は次のとおりです。
・周りの評価が低く、活動が注目されない様子
・うまくいかずにスキルが停滞している様子
「鳴かず飛ばず」よりも少しネガティブな表現であるものの、似た意味で使用されます。「伸び悩んでいる」を使用した例文は次のとおりです。
【例文】
・彼女は人見知りで人と話すのが苦手だ。そのため、営業に配属されてから伸び悩んでいたが、ようやく大きな契約を取れた。
・彼女は実力不足と囁かれ伸び悩んでいたが、次の舞台で主役に抜擢されて真の実力を世に示した。
「伸び悩んでいる」は日常的にも使用されるため、正しい意味を理解しておきましょう。
「鳴かず飛ばず」の正しい意味も理解して使おう
「鳴かず飛ばず」は、何の活躍もしないでいる様子を指して使用されるケースが多い言葉です。しかし「将来の活躍に備えて行いを控えつつ、活躍の機会を待つ様子」としてポジティブな意味に捉えるのが本来の意味です。
ただし、人に対して使用する場合は前者の意味で使用するケースが多く、一般的にはネガティブな意味で捉えられることがあるので注意しましょう。
また、同じような意味を持つ故事成語や慣用句も多く、一緒に覚えておくことをおすすめします。「鳴かず飛ばず」の使い方に自信がなかった方は、この記事を参考にぜひ活用してみてください。