「漱石枕流」とは負け惜しみやこじつけのこと
漱石枕流(読み方:そうせきちんりゅう)とは、負け惜しみが強いことやこじつけを示す言葉です。頻繁に使う言葉ではありませんが、日本を代表する文豪・夏目漱石の名前の由来としても知られています。
なお、「漱」とは、口をすすいだり、うがいをすることを指す言葉です。漱石枕流を読み下すと、「石(いし)に漱(くちすす)ぎ、流(なが)れに枕(まくら)す」となり、石でうがいをし、川の流れを枕にして眠るという意味になります。
【漱石枕流】そうせきちんりゅう
負け惜しみの強いことのたとえ。また、屁(へ)理屈をつけて言い逃れることのたとえ。晋(しん)の孫楚(そんそ)が「石に枕し流れに漱ぐ」というべきところを「石に漱ぎ流れに枕す」と誤り、「石に漱ぐ」とは歯を磨くこと、「流れに枕す」とは耳を洗うことだとこじつけたという、「晋書」孫楚伝の故事による。石(いし)に漱(くちすす)ぎ流(なが)れに枕(まくら)す。
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
『晋書』で紹介された孫楚のエピソードを由来とする
漱石枕流とは、古代中国の・晋(しん)の国の歴史書『晋書(しんじょ)』に書かれたエピソードに由来する言葉です。昔、孫楚(そんそ)という人物は優秀な武将として活躍していましたが、少し引退してゆっくりと過ごしたいと考えました。
そして、ある人に「石を枕に眠り、川の流れで口をすすぐような自然に融け込んだ生活をしたい」と話すつもりが、間違えて「石で口をすすいで、川の流れを枕にして眠りたい」と言ってしまったのです。
相手は孫楚が言い間違えていることを指摘しましたが、孫楚は負けず嫌いな性格で、自分が間違えたことを認めません。「歯をしっかりと磨くためには石が必要で、世間の噂話で汚れた耳を洗うためには川の流れが必要だということを言ったんだ」と無理やりこじつけました。
このことから漱石枕流という言葉が、負けず嫌い、こじつけの意味で使われるようになったとされています。
夏目漱石のペンネームの元にもなっている
夏目漱石の本名は、夏目金之助(きんのすけ)といいます。最初に漱石というペンネームを使ったのは、正岡子規が作成した和漢詩文集に対して批評文を書いたときとされています。漱石が22歳のときのことで、それ以降は自筆の文章に漱石と署名することが増えました。
なお、漱石はその後、自分のペンネームについて「今から考えると、陳腐で、俗気のあるものです」と評価しています。しかし、改名するのも面倒なので、そのまま使い続けたようです。
漱石枕流は流石(さすが)の語源でもある
漱石枕流という言葉にも使われている漢字二文字「流石」は、「さすが」と読めます。これは「素晴らしい」や「評判や期待通りの実力がある」「なるほど」などの意味で使う言葉です。
孫楚のように無茶苦茶な理屈でも言い返せるのは、評判に違わず頭の良さを感じさせ、“さすが”といえるでしょう。ゆえに「漱石枕流」から文字ととって「流石」を〈さすが〉と読むようになったと言われています。
いくつか例文をご紹介します。
例文
・素晴らしい文章だと思ったら、やはり彼女が書いたものでしたか。流石です。
・この問題が簡単に解けるとは、流石の頭の良さだ。
また、相手の実力は認めるものの、反発する気持ちがあるという意味で流石を使うことがあります。この場合は、「それはそうだが」「そうはいうものの」と言い換えると意味が理解しやすくなるかもしれません。いくつか例文を見ていきましょう。
例文
・本当においしいお菓子だが、流石に毎日は食べられない。
・私が悪かったのは事実だが、そこまで責められると流石に腹が立ってきた。