「経緯報告書」とは
「経緯報告書」とは、業務上のトラブルについて経緯や経過を関係者へ報告するための書類のことです。未解決の段階のトラブル内容について社内で共有するために作成されます。経緯報告書には、「社内向け」と「社外向け」の2つの種類があります。トラブルが社内のみに影響する場合は「社内向け」、取引先など社外への影響がある場合は「社外向け」の報告書を作成し、それぞれ書き方が異なります。
「経緯報告書」と「顛末書」の違い
経緯報告書に似たものとして「顛末書(てんまつしょ)」があります。経緯報告書は今起きているトラブルについて報告するものですが、顛末書とはトラブルが解決したあと、原因や結果、改善策なども含めて作成する書類です。書くタイミングも提出するタイミングも、書く内容も違ったものとなります。
「経緯報告書」の基本的な書き方
経緯報告書の基本的な書き方について説明します。
発生した事実を正しくわかりやすく伝える
経緯報告書の書き方の大前提は、「発生した事実をありのままにわかりやすく書く」です。トラブル発生の当事者が書くので、どうしても主観的なものの見方になりがち。しかし、何が起こっているのかを伝えるためのものですから、事実を矮小化したり、都合よく事実を曲げたりしてはいけません。何が起こったか客観的に伝えるように意識しましょう。また、事実をわかりやすく伝えるには、発生した事柄を時系列に整理して書くことをおすすめします。
文章は5W1Hを意識して書く
文章作成の基本である5W1Hを意識して書きましょう。5W1Hとは、「When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)」です。
簡潔な文章で書く
文章内容には余計な装飾や形容などは不要です。シンプルに事実のみを伝える簡潔で平易な文章を心がけてください。
原因
原因とは、なぜトラブルが発生したのかです。ありのままに事実を書きます。複数の要因が絡んでいるケースが多いので、因果関係などを整理してわかりやすく書いてください。書類での記述が難しい詳細の部分は、口頭で補足します。
今後の対応と見通し
今後の対応と見通しについては、影響を受ける業務がわかる表現で記述してください。見通しには必ず「いつ」あるいは「いつ頃」という日付が必要です。
対策について
対策については、実現可能であること、再現性が高いことなど、信頼できるものである必要があります。筋が通らない内容や、やる気を感じられないものであれば、「またトラブルを起こすのでは?」という懸念が生まれてしまいます。
社内向けと社外向けの違い
トラブルがどこまで影響するかによって、「社内向け」なのか、「社外向け」なのかを切り分けます。この2つの種類の違いは、謝罪文があるかないかです。次のサンプルの説明で違いも含めて説明します。
経緯報告書の基本的フォーマット
経緯報告書の代表的なものをサンプルとして、それぞれ「社内向け」と「社外向け」にわけて説明します。
社内向けサンプル
トラブルの影響が社内だけで留まり、関係会社含めて社外に影響がない場合には、このサンプルを参考にしてください。内容はシンプルかつ明確に記載しましょう。
社内向けの経緯報告書サンプル
作成日:〇年〇月〇日
作成者:〇〇〇部〇〇課 〇〇〇〇
〇年〇月〇日に発生いたしました〇〇〇〇の件について、以下の通り経緯をご報告いたします。
タイトル:〇〇〇〇に関する経緯報告書
発生日時:〇年〇月〇日〇時〇分
発生場所:〇〇〇システムの出荷メニュー〇〇機能
内容(経緯):※時系列に発生内容の事実を記載する
・〇月〇日〇時〇分 出荷担当より連絡。出荷処理で障害発生検知。
・〇月〇日〇時〇分 一報を受けて、システム担当〇〇氏が調査を開始。
・〇月〇日〇時〇分 〇〇機能のプログラムにバグを確認。対応検討中。
原因:※トラブルが発生した原因を記述する。詳細は口頭での補足でもOK
案件〇〇〇(〇年〇月〇日)にて対応した例外処理において、(~以下詳細に記述)
今後の対応と見通し:※今後予定している対応とその完了見通しを記述する
上記修正プログラム改修を本日〇時までに完了予定。テスト後反映する予定です。(〇月〇日〇時頃予定)。対応完了までは、現状データの修正と今後発生時に確認するようにいたします。
対策について:※今後同じトラブルが発生しないために対策する内容を記述します。
プログラム修正後のテストケースに当該例外処理が漏れていたため、(~以下詳細に記述する)
以上
サンプルはここまで。
内容はシンプルに記載します。相手がわかるように専門用語などは平易な表現にしましょう。
社外向けサンプル
トラブルが取引先や顧客など社外にまで影響が及ぶ場合は、社外向けの経緯報告書を作成しなければなりません。基本的には社内向けと変わりませんが、冒頭にあいさつ文や謝罪文が必要となります。あまり長くならないよう簡潔に述べるようにしましょう。対策については丁寧に記載し、今後の再発防止に努める旨を伝えます。
また、社内では事実を一切隠さずに伝えるようにしますが、社外向けでは一部を伏せておく必要がある場合も考えられます。必ず上長の確認をあおぎ作成してください。
社外向けの経緯報告書サンプル
〇〇株式会社御中
作成日:〇年〇月〇日
作成者:株式会社〇〇 〇〇部 〇〇〇〇
タイトル:〇〇〇〇に関する経緯報告書
拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。平素より格別のご高配を賜り、誠にありがとうございます。このたびは弊社の不手際により貴社に多大なるご迷惑をおかけいたしましたことを、深くお詫び申し上げます。今回の件に関して、以下のように経緯をご報告申し上げます。 敬具
発生場所:弊社出荷プログラム
内容:
〇年〇月〇日分、弊社より出荷した商品の一部間違いがあり納品されております。
経緯:
・〇年〇月〇日15:00過ぎに出荷担当より連絡。
・〇年〇月〇日16:20頃、一報を受けて確認したところ弊社出荷プログラムにおいてバグを確認し対応を検討。
・〇年〇月〇日17:10に修正着手。
原因:
弊社別事案により、〇年〇月〇日に修正反映した出荷プログラムにおいて(~以下簡潔に記述)
今後の対応と見通し;
・現在修正中のプログラム完了見込み(22:00予定)
・テスト実施(翌朝8:00予定)
・本番反映(翌朝9:00予定)
対策について:
プログラムのテストケースを見直し(~以下対策について丁寧に記述)
この度はご迷惑をおかけいたしまして大変申し訳ございませんでした。深くお詫び申し上げます。今後とも引き続き変わらぬご愛顧のほど何卒宜しくお願い申し上げます。
以上
サンプルはここまで。
「経緯報告書」の送信について
トラブルが発生したら、迅速に経緯報告書を作成し提出しましょう。提出が遅れると関係が悪化する恐れがあります。
「経緯報告書」を送信する前に
経緯報告書の内容は、自部門の関係メンバーと情報共有を図り上長とも連携を取りしっかりとした対応方針を決めます。提出した後に間違いや方針が大幅に変わることがないように、送信するタイミングも見極めましょう。
メールで送信する場合の注意事項
迅速に報告するためにメールを使って送信する場合もあります。その場合気をつけるべきは、会社によっては経緯報告書に会社のトラブルが記載されているため、「機密情報」として取り扱われるケースがあること。その場合は情報漏洩の危険を配慮し、取引先や上長にメール送信の可否を確認する、またはメール送信の際にパスワード付の添付ファイルとして送信するなどの工夫が必要に。
またメールのタイトルは「〇〇に関する経緯報告書」と、一目見て何が記載されているかを分かりやすくすることも大切です。
社内の場合は、共有フォルダーへの格納や、文書管理ツールを使って情報連携される場合も。
最後に
トラブルが発生したら必ず経緯報告書は必要となります。目的は、情報連携と業務における今後の対応方針などの明確化、そして同じ過ちを繰り返さないためです。
人は必ずミスをするもの。ミスをどうリカバリーするかによって、その後の信頼関係が大きく変わってきます。ミスによりどんな影響があるのか、なぜそのミスが起こったのか、今後どうすれば二度と発生しないようにできるのかなど、経緯報告書は当事者にとって客観的・大局的に見るよい機会にもなります。
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監修
社会保険労務士 小田啓子(おだ・けいこ)
大学卒業後、外食チェーン本部総務部および建設コンサルタント企業の管理部を経て、2022年に「小田社会保険労務士事務所」を開業。現在人事・労務コンサルタントとして企業のサポートをする傍ら、「年金とライフプランの相談」や「ハラスメント研修」などを実施し、 「働く人を支援する社労士」として活動中。趣味は美術鑑賞。
ライター所属:京都メディアライン