「引導を渡す」の意味は?
どこか挑発的なニュアンスを感じ取れる「引導を渡す」という表現。しかしその言葉は、何もネガティブな意味ばかりを含む言葉ではありません。時には、世代交代として引導を渡すことが必要な場合もあります。本章では「引導を渡す」という表現について、その意味や語源、使い方を解説していくので、まずは正しい意味を確認してください。
■言葉の意味
「引導を渡す」とは、相手にこれが最後のチャンスであると伝えることを指した言葉です。相手にしっかりと諦めさせるという意味も持ちます。「引導を渡す」と同様の意味を表す言葉としては「観念させる」「お払い箱にする」などが挙げられます。
また言葉を使用する状況に応じて「引導をくれてやる」や「引導を突きつける」といった言い回しをすることもあるでしょう。「引導を渡す」という言葉を辞書で調べると、以下のように書かれています。
1.僧が死者に引導を授ける
2.相手の命がなくなることをわからせる
(あきらめるように最終的な宣告をする場合などにいう)
<小学館 デジタル大辞泉より>
■言葉の由来
「引導を渡す」という表現、その語源は仏教用語とされています。そもそも「引導」とは、人を悟りへと導くための真理や教えです。加えて、亡くなった人が問題なく仏の世界へと進むために、故人へ唱えられる法語のことでもあります。
仏教では亡くなった人が自身の死に気づかず、この世に止まることで亡霊となってしまうのを防ぐため、僧侶が法語を唱え、その死を伝えることが基本的な手法です。
本来は故人にあの世へ旅立つ時が来たことを理解させる行為=引導であったことから、現在の意味で用いられるようになりました。
■言葉の使い方
仏教用語に由来する「引導を渡す」という表現ですが、現代ではビジネスシーンをはじめ、さまざまな場面で使用されています。現代における「引導を渡す」の使い方は、以下の例文を参考にしてください。
・若手社員のエースとされる彼が、ついにベテラン社員に引導を渡した
・辛そうな彼を見て、我慢できず「無理して続けなくてもいいよ」と引導を渡した
・自分ももう年だから、後輩たちに引導が渡される日もそう遠くないかもしれない
「引導を渡す」の類義語
引導を渡すの類義語として知られているのは、以下3つの表現です。それぞれの言葉について、どのような点において「引導を渡す」と同様の意味を持つのか、またニュアンスが異なる点はあるのか、本章で解説していきます。引導を渡すと合わせて覚えておくことで、語彙力が一気に向上するでしょう。
■お払い箱にする
「お払い箱にする」というのは、基本的に雇用者が雇用関係の解消を指す言葉です。相手に諦めさせるといったニュアンスが、引導を渡すと共通しています。
しかしこの表現がやや俗語的であることや、物を捨てる際にも使用されることから、ビジネスシーンなど公の場ではあまり使われません。
■申し渡す
「申し渡す」は上位の立場にいる人が、命令や決定を伝える行為を指す表現です。何かを伝える「通告」という意味では「引導を渡す」と同様です。しかし「引導を渡す」のように、諦めさせるなどのニュアンスは含まれておらず、あくまでも決定権を持つ人が一方的に伝達する場合に使用されます。引導を渡すよりも、一方通行な意味合いが強いと覚えておきましょう。
■観念させる
「観念する」とは本来、仏教の用語でした。「諦める」や「諦めて状況を受け入れる」という意味を持つ言葉です。「観念しろ」という命令形で用いられると「諦めろ」といった意味になり、「観念させる」であれば「諦めさせる」や「断念させる」という意味になります。
「引導を渡す」の対義語
「引導を渡す」という言葉には、対となる表現もいくつか存在します。引導を渡すの対義語として代表的なものが、以下3つの言葉です。それぞれの表現において、どのようなニュアンスが「引導を渡す」と対になるのか、本章で1語ずつ解説していきます。こちらも類語と合わせてチェックしてください。
■白羽の矢が立つ
「白羽(しらは)の矢(や)が立(た)つ」とは、多くの人々の中から選ばれ、名誉あるポジションに就くことを表すものです。何かを諦めさせる「引導を渡す」と比較すると、なんらかの役割を与える言葉であるため、対義語と考えられます。
■往生際が悪い
「往生際(おうじょうぎわ)が悪(わる)い」もまた、引導を渡すと同じように、仏教用語に由来した言葉です。本来は亡くなったにもかかわらず、なかなかこの世からあの世へ旅立とうとしないことを指しています。この由来から現代では「諦めが悪い」といった意味で使われるようになりました。
■慰留する
辞職など、何かを辞めようとしている者の考えを、思いとどまらせることを指して「慰留(いりゅう)する」と表現します。辞めさせようといったニュアンスのある「引導を渡す」とは真逆の意味として使われる言葉です。
日常で使われる仏教用語は他にも!
「引導を渡す」と同様に、日常で使われるようになった仏教用語は、他にもいくつかあります。たとえば「有頂天」や「大丈夫」などです。どちらも日常的に耳にする言葉であることから、仏教用語であったことを知らない方も多くいらっしゃるでしょう。引導を渡すの意味を理解するのと同時に、豆知識として覚えておくと良いですよ。
■有頂天
「有頂天」とは、夢中になることや周囲を顧みないといった意味で使われます。浮かれるといったニュアンスを含む有頂天ですが、由来からは次のような意味も読み取れます。有頂天の「天」とは、仏教における六道の中でも、最高とされている「天道」のことです。
最高地とされている天道にはいるものの、あくまでも六道のなか。つまり転落して地獄へ落ちてしまわないよう、油断をしないといった意味も込められています。
■大丈夫
誰かに心配された時に返す「大丈夫」も、仏教用語に由来しています。「丈夫」とは、精神と肉体ともに優れた人物を指す言葉です。そこに「大」が加わることで、いつでも丈夫(な状態)であることを表しています。
「引導を渡す」を正しく使おう!
「引導を渡す」という表現について解説しました。この言葉は、相手に最後通告を伝え、何かを諦めさせるといった意味で用いられます。引導を渡された相手は、諦めなければならないため、ややネガティブな印象の言葉かもしれません。しかし前半でも解説したように、先輩から後輩で、能力や知識を引き継ぐうえでは必要なことでもあります。
▼あわせて読みたい