異口同音とは
「異口同音」という字面を見て、「日常生活やビジネスシーンで聞いたことはあるけれど、漢字で書けない」、はたまた「見たことはあるけれど、なんと読むのかわからない」という人も多いかもしれません。
異口同音は、「いくどうおん」と読みます。「いこうどうおん」と読む場合もありますが、一般的には「いくどうおん」です。また、「異句同音」と表記するのは誤りですので気を付けましょう。
文字通り「異なる口から同じ音が出る」という意味で、さまざまな人が口をそろえて同じことを言う様子を表す四字熟語です。つまり、多くの人が一致した意見を持っている状態を表しています。
異口同音の由来
異口同音の由来は、諸説あります。ここではその一部を紹介します。
『抱朴子』(ほうぼくし)
中国、晋(しん)の葛洪(かっこう)が著した歴史書です。神仙術について書かれた『道意』(どうい)の中に、異口同音と同様の意味の「異口同声」(いくどうせい)という語が見られます。声がひとつになることで、団結や共感が感じられる状況を端的に表していますね。これが元になり、異口同音という言葉が生まれたといわれています。
『宋書』(そうしょ)
その後時代を経て、南北朝時代、沈約によって編纂された中国の書物『宋書』に以下のように出てきます。
昨出伏復深思 祇有愚滯 今之事蹟 異口同音 便是彰著 政未測得物之數耳。
(昨日のことだが、本当にくだらない会議だった。言葉は違えども、みんな同じ意見ばかりで時間の無駄だったよ。)
ここでは「異口同音」として使われています。「口々に同じことを言う」という意味ですが、ここでは、聞こえる音は違っても、言っている意味は同じ、というニュアンスです。
異口同音の使い方
ではどんな使い方をするのか、例をあげて紹介します。
1:会議でのプレゼンテーション後、出席者全員が異口同音で彼女の提案を褒めた。
2:社員たちは異口同音で、新しいマネージャーのリーダーシップを高く評価している。
3:クラスの生徒たちは異口同音で、その授業が非常に楽しかったと言っている。
このように、ある事象や人物に対する評価が一致している場合によく使われる表現です。
異口同音の類義語
異口同音にはどんな類義語、言い換え表現があるのか、紹介します。
衆議一決(しゅうぎいっけつ)
「衆議」とは多くの人の意見や議論を指し、「一決」とはひとつの結論や決定を意味します。したがって「衆議一決」とは、多数の人々の議論や議決を経て、ひとつの決定に至ることです。
〈例文〉
1:彼らはオフィスの場所選びについて何日も会議を重ね、衆議一決でこの地区に決めた。
2:研究テーマの選定は容易な作業ではなかったが、チームは衆議一決でA案を採択した。
3:会議では、多様な提案がなされたが、衆議一決で経費削減に向けた具体策が決定された。
集団内で幅広い意見交換を行った上で、共通の決意や結論に達するプロセスやその結果を指す言葉です。
衆口一致(しゅうこういっち)
「衆口」とは多くの人の言葉や評判を指し、「一致」はひとつにまとまることです。つまり、多くの人々が口をそろえて同じ意見を述べることを意味します。
〈例文〉
1:彼の新作小説に対する評価は衆口一致で高く、ベストセラーリストの常連となった。
2:退職する部長の功績については、社内外を問わず衆口一致で讃えられた。
3:昨夜のコンサートでは、観客の間で、演奏が素晴らしかったと衆口一致の声があがった。
満場一致(まんじょういっち)
「満場」はその場所全体、「一致」は食い違いがなくひとつにまとまることです。したがって、会議や集まりなどで、議題に対して出席している全員の意見がひとつにまとまることを意味します。
〈例文〉
1:社長の提案は非常に魅力的で、取締役会での承認は満場一致で行われた。
2:新規プロジェクトへの投資に関する投票は満場一致で、全員がその潜在的利益を認めた。
3:年間最優秀社員の表彰者に彼女を推すことは、選考委員の間では満場一致だった。
一般的には、何らかの提案や決定に際して、反対意見が一切ない状況を示します。
異口同音の対義語
では、異口同音の対義語にはどんなものがあるのか見ていきましょう。
賛否両論(さんぴりょうろん)
文字通り、賛成の意見と反対の意見が両方ある、という意味です。ひとつのトピックに対して、支持者と反対者がいることを示します。
〈例文〉
1:政府の税制改革案には賛否両論あり、支持する声と批判する声がメディアで交錯している。
2:彼の革新的なアイデアは、業界内で賛否両論を呼んでおり、一部では先駆的と評価される一方で、実現不可能とする声もあった。
3:社内のドレスコード変更に関するアンケート結果は賛否両論で、決定に至るにはさらなる議論が必要だった。
諸説紛紛(しょせつふんぷん)
「諸説」はさまざまな意見、「紛紛」は入り混じって乱れている様子を表します。つまり、さまざまな説や意見が乱れ飛び、一致することなく多岐にわたっている状態や、定説がないさまを指します。
〈例文〉
1:歴史上のその出来事の真相については、諸説紛紛としており、学者の間でも一致した見解には至っていない。
2:環境問題に対する解決策は専門家の間で諸説紛紛であり、どの策が効果的かはまだ議論が分かれている。
3:新技術の影響に関するセミナーでは、参加者から諸説紛紛の意見が出された。
この言葉は、ひとつの問題に対して多くの異なる見解や解釈が存在し、どれが最も妥当か決めかねるような混沌とした状況を表現する際に用いられます。
まとめ
異口同音は、複数の人が同じ意見を持っていることを示す非常に便利な言葉です。この言葉を適切に使うことで、職場におけるコミュニケーションがよりスムーズに、そして効果的に行えるようになるかもしれません。この四字熟語を活用して、チームの一体感を高める機会をつくってみてください。
執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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