自己憐憫とは?
人の心の状態を表す言葉に「自己憐憫」があります。日常会話の中ではあまり用いられないものの、字面からは哀れでかわいそうなイメージがあります。まずは言葉の意味を紹介しましょう。
自分をかわいそうに思うこと
「自己憐憫(じこれんびん)」とは、「自分を哀れみ、かわいそうに思うこと」です。「自分はなんて不幸なんだ…」と思い込んでいる“悲劇のヒーロー・ヒロイン気取り”のような状態といえるでしょう。
客観的に物事を見ることができていない、マイナスのニュアンスを含んでいるのが特徴です。「被害者意識が強い」とも考えられます。
〝かまってちゃん〟なども該当
「かまってちゃん」とは、誰かにかまってもらわないと気がすまない人をさす言葉です。ひとりぼっちになるのを極端に嫌がり、相手の気を引くためにいろいろなことをします。かまってちゃんは「どうせ私なんて…」「もう消えてしまいたい!」など、ネガティブで悲観的な口癖が多いのが特徴です。
深層心理には、「私ってかわいそうでしょ?」という自己憐憫の気持ちが潜んでおり、「そんなことないよ!」「大丈夫だよ」と相手が心配してくれるのを期待しているのではないでしょうか。自己憐憫に浸り、かわいそうな自分を過剰に演じることで、みんなに特別扱いをしてもらうのが目的といえます。
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自己憐憫の原因
自己憐憫は生まれつきの性格ではなく、幼少期の家庭環境や、過去に経験した出来事などが原因になっている場合があります。自己憐憫につながる、3つの心理的背景を紹介します。
幼少期の家庭環境
幼少期にどんな家庭環境で育ったのかによって、その人の性格や行動パターンが決まることがあります。自己憐憫に陥りやすい人は、幼少期の家庭環境に「自分はかわいそうだ」と思わざるを得ない出来事があった可能性があります。もしくはそう思い込み、かわいそうな自分を演じることで、周囲からかまってもらえていたのかもしれません。
幼い子どもは、親や周囲の大人の愛情を十分に受けずに育つと「自己肯定感」を抱きにくくなります。「自分は価値のない存在だ」という感覚におそわれ、自分をかわいそうな存在と見なすのが一種の癖になってしまうのです。親たちや周囲の大人が、「私たちはかわいそうな存在なんだ」というメッセージを常に発していて、それが子どもにも刷り込まれてしまった場合もあります。
過去のトラウマ
自己憐憫に陥る人の中には、過去のトラウマから脱却できず、「自分はなんて不幸なんだろう」と思い続けている人がいます。「トラウマ」とは精神的なショックや恐怖などによる「心の傷」です。時間の経過とともに癒される人もいますが、いつまで経っても傷が癒えない人も少なくありません。
とりわけ幼少期に受けてしまった心の傷は、のちのちの人生にもマイナスの影響を及ぼし続けます。自分は悪くないのに「~された」という思いが根底にあり、自分を哀れんだり、相手を責めたりして、なかなか前に進めない場合もあります。
さらに、「自分は辛い思いをした」「トラウマを抱えている」と、トラウマのせいにすることで、現実の問題を直視したり乗り越えることを避ける場合もあります。人は楽なほうに流れようとする思考があり、辛い思いに浸っているほうが実は楽だということもあるのです。
自己否定が強い
自己肯定感が強く、考え方がポジティブな人は、自己憐憫に陥ることはほとんどありません。あったとしても長くは続かず「自分を哀れんでいてもしょうがない」と気持ちを切り替えます。逆に、自分否定が強い人は、自己憐憫に陥りやすく、一度陥ってしまうと、なかなかその状態から抜け出せません。過去の成功体験が少ないせいか、考え方の根本がネガティブなのです。
このタイプは「どうせ自分には無理だろう」「自分なんて…」が口癖です。自分を否定する気持ちがどんどん大きくなり「自分はかわいそうな人間だ」と結論づけてしまうのです。
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自己憐憫に陥る人の心理
自己憐憫は、自分をかわいそうに思う心理ではありますが、心の深層にはより複雑な心理状況が隠されていることがあります。身のまわりに該当する人がいないかどうか、チェックしてみましょう。
ナルシスト状態
自分を哀れむ気持ちは、ナルシストの心理と状況がよく似ています。ナルシストとは、自分の容姿や言動に自己陶酔し、「自分はなんてすてきなんだ!」と思い込むことです。一方の自己憐憫は、自分の容姿や過去の出来事などに悲観し「自分はなんてかわいそうなんだ!」と思い込むことです。
抱く感情の種類こそ違いますが、ナルシストも自己憐憫も「自分は特別だ」と思っている点では共通しているといえます。自己憐憫を抱きやすい女性は、「悲劇のヒロイン症候群」とも呼ばれます。つらくて悲しい出来事があると、自分をヒロインに仕立て、その世界にどっぷりと浸ってしまうのです。まさに、自分を特別に思っているナルシスト状態に陥っているといえます。
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被害者意識が強い
自己憐憫の気持ちは過剰な「被害者意識」から生み出されるといえます。その根底には「相手に一方的に〇〇された」という、自分を正当化する気持ちや、「自分がこうなったのは他人や環境のせいなんだ」という自己防衛の心理が潜んでいます。
こうした過剰な被害者意識は、「自分はかわいそうな存在だ」という自己憐憫を生み出します。さらに「すべては自分の責任ではない」という責任転嫁につながり、他人の同情や助けに頼るようになるのです。
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