2.薄の穂にも怯ず(すすきのほにもおず)
「薄の穂にも怯ず」は薄の穂のようなものでも怖がってしまうという意味のことわざです。「落ち武者は薄の穂に怖ず」とかなり似たニュアンスといえるでしょう。語尾の部分だけ微妙に違う「薄の穂にも怖じる」という言い方をすることもあります。意味はまったく一緒です。
室町時代末から近世にかけて書かれた、最古の狂言の台本とされている虎明本狂言『腥物』の中に「をちうとは、すすきのほにもおづると申が、いかひめにあふて御ざる所で、おくびゃう風がたってござる」という一節があります。
「薄」と団子を十五夜にお供えする理由
十五夜に「薄」と団子を供えるのは、神様に対して秋の収穫の感謝をし、次の年の豊穣を願うためです。団子は満月を表しており、「薄」を稲穂に模して飾りました。本物の稲穂を飾らないのは、稲穂がまだ実る前の季節であるからです。
また、魔除けとして「薄」を供えたとの説もあります。「薄」は神様の宿るところと信じられていたからです。茎の内部が空洞になっているので、その中に神様が訪れるという発想でしょう。また、「薄」の鋭角的な切り口が魔を避けるお守りになるとされていました。
「薄」という漢字を使った語句3つ
「薄」という漢字を「すすき」という読み方を使った場合の語句を3つ、ご紹介しましょう。「旗薄」「春薄」「花薄」の3つです。いずれも古くから使われており、「薄」の状態を表すか、「薄」にたとえる言葉として使われています。
「薄」という植物は美しい花が咲くわけではありませんが、古くから趣のある植物として親しまれてきたことが、こうした語句が生まれたことからもうかがえます。
1.旗薄(はたすすき)
「旗薄」とは、長い穂が旗のように風によって揺れている「薄」の状態を表す言葉です。この言葉は万葉集の中にも登場しています。「玉かぎる夕さり来ればみ雪ふる阿騎の大野に旗須為寸(はたすすき)しのをおしなべ」という句が有名です。
万葉集の中には「はたすすき」の他に「はだすすき」という言葉が登場する句もあります。はだすすきはまだ穂が出る前の皮をかぶった状態のすすきを指しているのではないか、との説が有力です。
2.春薄(はるすすき)
「春薄」とは柳のことです。「薄」は秋に花穂をつけますが、柳が「薄」に似ていることから「春薄」という別名がつけられました。柳はヤナギ科ヤナギ属の落葉樹の総称で、一般的に湿地に多く生えています。
主に早春になると、花が穂状になって咲き、その状態が「薄」に似ていることから、この呼び名がつきました。柳には多様な種類がありますが、柳という場合にはネコヤナギを指すことが多いようです。
3.花薄(はなすすき)
「花薄」とは穂が出た状態の「薄」のことです。風になびく「花薄」を人が手を振っている様子にたとえることもあります。江戸時代の俳諧師、向井去来が詠んだ「君が手もまじるなるべし花芒(はなすすき)」という句は、わかれをおしんで手を振る「君」と「花薄」の様子を重ねたものです。
この他にも「花薄」はかさねの色目(平安時代以降、公家社会に行われた衣服の表地と裏地、また衣服を重ねて着たときの色の取り合わせの種目)を表す言葉としても使われています。表は白で裏は薄縹(うすはなだ)というくすんだ水色です。
「薄」の意味と読み方を知って正しく使おう
「薄」は秋を代表するイネ科の多年草の名前で、「すすき」と読みます。薄は「はく」「うす」という読み方が一般的ですが、漢字一文字で薄と書く場合には植物のすすきを表していると覚えておくといいでしよう。
「薄」は古くから趣のある植物として日本人に親しまれており、万葉集の中でも「薄」が数多く登場しています。「尾花」と呼ばれることもあります。「薄」の意味と読み方を知って、正しい使い方をしてください。
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