もう1つは、自分の姿勢や行動は変えずに、脅威に対する自分の心もちを変えるやり方です。脅威をうまく解釈することで、迫りくる脅威から、自分の心を「ディフェンス」するやり方です。
例えば、受験や就職の面接で自分の満足する結果が得られなかったとき、今後の面接態度や面接への準備の仕方を変えるのではなく、「面接官との相性が悪かった」とか、「面接官の評価が誤っている」などと言い訳をする。
このやり方は自分の態度や行動を変えるのではなくて、自分の解釈を「歪曲」することで心に対する脅威を取り除いたり、和らげようとすものです。このように、現実をひん曲げてでも、ディフェンスしようとする心の傾きは極めて強く、これまでも心理学でさかんに研究されてきました。
「言い訳」とか「歪曲」などと言うと聞こえが悪いですが、こうした「ディフェンス型の心の適応力」は、自分の心を守るのに欠かせない能力でもあります。
目の前の不都合に対して、いつも自分の態度や行動を改めるのは難しい。それだけに、ときおり自分の心持ちを変えることで、迫り来る「脅威」に適応することも必要なのです。実際に、「ディフェンス型の心の適応力」があるおかげで、心や体の健康が保たれるということが、これまでの研究でも明らかになっています。
一方で、いつもいつも現実から視線をそらしていては、新しい学びに至ることができないのも事実です。
現実を受け入れて、これまでの自分の態度や行動をアップグレードしたり、新しいスキルや知識を身につけたりすることは私たちの人生で欠かせない成長のプロセスです。また、「ディフェンス型の心の適応」ばかりで現実を受け入れないでいれば、周りの環境や周りの人たちと折り合いが取れなくなってしまい、人間関係に悪影響を及ぼしてしまいます。
そして、なにより、長続きする自己肯定感は、お金やステータスなど、人との比較で得た自己肯定感ではなく、「現実の自分をありがたく思う」ことです。現実を受け入れられない状態では、到底たどり着くことはできません。
つまり、「ディフェンス型の心の適応」は人間の防衛本能の一部でありながら、そればかりに頼っていてはいけないのです。
それでは、どうしたら良いのか。それが自己肯定理論が提示するもう1つの心の適応力なのです。
【目次】
いろいろな顔を持つ
もう1つの心の適応力を理解するのに重要なのが、私たち1人ひとりが、複数のいろんな「顔」を持っているということです。
例えば、私は2児の親であり、日本人であり、アメリカ永住者であり、学校の経営者であり、そして、ちょっとひょうきんな中年男性で、近所の仲間とマラソンクラブに所属しています。