夫の言葉で気づいた、母親が自分の人生を生きること
そんなあるとき、めったなことで私に意見しない夫から改まったLINEが届きました。
「自分を責めるのは、やめてほしい。そのとき君は一生懸命生きていたはずで、できる範囲で普通以上に◯◯ちゃん(娘)を大切にしていたと僕は思っている。僕からすると素晴らしい母親だったと思うから。」私は、「そのとき君は一生懸命生きていたはず」の言葉にハッとしました。そうです。その通りで、私はその時その状況下で、一生懸命に生きていたはずです。
「一生懸命やってるね」「がんばってるね」という言葉は、当時は誰からももらえなかったけれど、毎日起きてから娘と一緒に寝落ちするまでを、ただ黙々とこなしました。母になったからと言って、急に完璧な母という人格に生まれ変わるわけではありません。でも私は私を精一杯生きながら、子供を育ててきた。それでよかったのだ、と思えました。
他人からの、たった一言のねぎらいで、自分のがんばりを認知できることもあります。
だから私は、まず言いたい。「あなたの一生懸命を、知ってるよ」と。
自分の人生をしっかり生きて、時に、できる範囲以上に頑張って育児に向かい、子供の幸せを心から願っている。ただそれだけで、そのままで、十分です。
お母さんが、心から笑顔でいられることで、子供も(多分、夫も)幸せな気持ちになれます。母親、特に働いている女性が母親になったとき、自分が描いた“完璧な母”でいられないことに無意識の罪悪感を抱える人が多い気がします。家事が十分でないとか、ケアが雑だとか。それは社会から無言で押し付けられるメッセージを受け取り過ぎているのかもしれません。
このことは、日本だけでなく世界中で見られる現象です。 社会が女性に対して期待する姿、その幻想に無意識に応えようとして、挫折しまう…。そんな必要は全くないのです。
ありのままの自分の姿を、それでよしと認められたとき、子供のことも心から「そのままでいいよ」と見守れるのではないでしょうか。そして、あるがままの姿を受け入れてもらえた子供は、自分の力で自分らしく伸びていくのだと思います。完璧な母親も、正解の育児も、完全な幸福も、全てはこの世に無い、自分が勝手に生み出したただの幻想なのですから。
親が教育を学ぶ目的はなんでしょう?それは究極、子供に生きるための武器を携えるためではなく、親自身が「そのままの君でいいよ」と子を見守る姿勢を身につけるために学ぶものではないかと、最近私は捉えています。
「幸福」ってなんだろう?と考える時、それは全てのものを手に入れている状態ではなく、手に入れられないものはあっても、ただ今日を生きることが楽しいと感じられる状態ではないでしょうか。それには、どんな力が必要なんだろう?どんな社会が良いんだろう?子を持つ親として一緒に考えていけたら嬉しいと思います。
そして自分を生きて、子供と、家族と、共に過ごせる今を楽しみましょう。子供が大人になったとき、「親に愛され、家族と共に楽しく生きてきた」と昔を振り返られることは、世の中から良いと言われている学校へ行くことや、良い会社に入ること以上に、幸福な人生のため親から子へ与えられる最高のギフトです。
私も、育児の悩みに迷い込んだ時はいつも、この原点に帰りたいと思っています。
Interview&Writing
田口まさ美
〈教育エディター〉
小学館で教育・ファッション・ビューティ関連の編集に20年以上携わり独立。現在Creative director、Brand producerとして活躍する傍ら教育編集者として本連載を担う。私立中学校に通う一人娘の母。Starflower inc.代表。▶︎Instagram: @masami_taguchi_edu
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