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【目次】
土用の丑の日とは
夏になると、スーパーやデパ地下で「土用の丑の日」というキャッチコピーとともに販売されているウナギを見かけます。ウナギは夏の風物詩として広く親しまれている食べ物です。なぜ夏にウナギを食べるのか、その理由には、中国から伝来した思想にもとづき江戸時代に広まった風習が関係しています。
土用の丑の日の由来
土用の丑の日は、中国の「陰陽五行」という思想にもとづいて設定された日本の雑節です。体調を崩しやすい季節の変わり目に、栄養豊富なものを食べることで、体力をつけ夏バテを防止したいという気持ちから始まったと考えられています。
現在、土用の丑の日に食べるものとして最も有名なのが「ウナギ」です。現在では、土用の丑の日といえばウナギといえるくらい、広く親しまれています。しかし、土用の丑の日が設定された当時には、ウナギの他にも梅干しやうどん・餅などを食べる風習もあったそうです。風習の内容や起源には諸説ありますが、土用の丑の日は「人々の健康を祈願するための日」であることには変わりありません。
土用・丑の意味
陰陽五行では、木・火・土・金・水で構成された「五行」と呼ばれる要素がこの世のすべてを形作ると考えられています。季節にも五行を当てはめ、春=木、夏=火、秋=金、冬=水と解釈されていますが、これでは土が当てはまりません。
そこで、立春・立夏・立秋・立冬前の各18日間に土を当てはめ、「土用」としました。土用の丑の日というのは、この土用期間にある「丑の日」のことです。「丑の日」というのは、それぞれの日付に干支を当てはめたもので、十二支=12日で1周します。そのため、18日ある土用期間には丑の日が1〜2回ある仕組みです。2回目の丑の日は「二の丑」と呼ばれ、1回目の土用の丑の日と同様にウナギを食べたり、健康を祈ったりします。
土用の丑の日は夏だけじゃない?
夏の印象が強い土用の丑の日ですが、暦の上では夏に限られたものではありません。それにも関わらず、現在一般的なのは夏のみというのは、何か理由があるのでしょうか?
春夏秋冬すべてにある
土用の期間は、各季節の終わりにあります。つまり、暦の上では「四季すべてにある」のです。季節の終わりにあたる期間は、過ぎ去る季節とこれからやってくる季節の変わり目にあたります。そのようなタイミングは、気候の変化から体温調節がしにくく、体調に注意しなければなりません。体調を崩しやすい時期だからこそ、土用の丑の日に栄養のあるものを食べる風習が生まれたと考えられています。
夏が一般的になった理由
土用の丑の日は各季節にありますが、現代において特に有名なのは「夏」の土用の丑の日です。これは「8月の立秋前の土用期間にある丑の日」のことで、厳しい暑さから体調を崩しやすい時期と重なります。夏バテしやすいだけでなく、湿度が高く菌が繁殖しやすいため、かつては疫病が流行する時期ともいわれていました。また、水の事故が増える時期でもあるため、体力の低下や感染症以外にも、命の危険に直面しやすい季節といえます。夏の暑さで起こるさまざまな危険から身を守る知恵として、夏の土用の丑の日は広く定着したのです。
ウナギを食べるのはなぜ?
夏の土用の丑の日には、過酷な夏を乗り切るために健康によいものを食べ、無病息災を祈る風習が根付きました。しかし、なぜウナギを食べる習慣がこれほどまでに広まったのでしょうか?土用の丑の日にウナギを食べるのが一般的になった理由を紹介します。
平賀源内が考案
土用の丑の日にウナギを食べ始めたきっかけには諸説あります。その中でも有名なのは「平賀源内」が考案したキャッチコピーだという説です。当時、夏にはウナギはあまり売れず、ウナギ屋は困っていました。そこで、蘭学者・医者・浄瑠璃作者・発明家・画家などさまざまな分野で才能を発揮していた平賀源内に相談したそうです。
そして平賀源内のすすめに従いウナギ屋が「本日、土用丑の日」と貼り出すと、店は一気に繁盛しました。この出来事がきっかけになり、土用の丑の日という貼り紙をするウナギ屋が増え、いつの間にか風習として根付いたといわれています。
暑い季節を乗り切るため
夏は体力を消耗しやすく、バテ気味になることも多い季節です。夏の土用の丑の日にウナギを食べる風習は、ウナギに栄養が豊富に含まれていることが理由だとも考えられています。厳しい暑さを乗り切るために、昔からさまざまな栄養のある食材が取り入れられていました。そのため、土用シジミ・土用餅・土用たまごといった言葉が今も残っているのです。
中でもウナギが広まったのは、ウナギの生命力の強さと関係している可能性があります。1年間何も食べずに過ごしても力いっぱい生き続けるというウナギの生命力にあやかりたいと、食べ始めたのかもしれません。また、ビタミンB1などの栄養がたっぷり含まれたウナギを食べることは、栄養学的な見方からも正解といえます。
「う」のつく食べ物だから
丑の日の頭文字である「う」のつく食べ物を食べると、病気にならないという俗説から、ウナギを食べる風習が定着したという説もあります。しかし、この考え方をもとにするならば、「う」がついていれば他の食べ物でもよいということになります。ですが「夏バテにはウナギを食べるとよい」という考えは、万葉集で和歌にされたほど、古くから知られていた風習でした。健康によい「う」のつく食べ物としてウナギが挙がるのは、ごく自然なことだったのです。
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ウナギのおいしい食べ方を紹介
土用の丑の日にウナギを食べるには、ウナギ屋へ行って外食を楽しむのも一つの手です。しかし、現在ではスーパーなどでもウナギのかば焼きが売られています。自宅でウナギを食べる場合、どのようにすればおいしく食べられるのか、市販品をおいしくする裏技を紹介します。
市販のウナギを食べる場合
市販のウナギのかば焼きには既にタレが塗られていますが、おいしく食べたいならこの「塗られたタレを取る」のが正解です。ボウルに入れたお湯にウナギを入れ、タレと焦げ目を取り除きます。キッチンペーパーで水気を拭き取ったら、下準備完了です。
次に、小袋に入った後がけ用のタレを開け、ウナギに塗って焼きます。油をしいたフライパンを温めておき、身の方を1分・皮の方を30秒加熱するのがコツです。これにより、皮はパリッと身はフワッと仕上がります。この方法で温めると、焦げ目がつき過ぎず、身が硬くなりません。スーパーのウナギとは思えない本格的な味わいを楽しめます。より味にこだわるならば、タレを手作りするのもおすすめ。しょうゆ・みりん各100mlずつに砂糖大さじ4杯を入れて煮詰めればできあがりです。
ウナギのアレンジ方法
かば焼きをそのまま食べたり、ごはんに乗せてうな丼にして食べたりするのが定番ですが、他にもさまざまな食べ方があります。定番アレンジとして人気なのは、「玉子とじ」です。ゴボウや三つ葉と合わせた「柳川風」にするメニューや、ニラと合わせて鮮やかな色合いと香りを楽しむなど、さまざまなバリエーションが考えられます。また、ウナギのかば焼きをサラダにするのもおすすめです。水菜やレタスとあえれば、サッパリと食べられます。ほんのり山椒をきかせると、爽やかさが増して◎。
関西と関東で食べ方に違いがある?
同じウナギでも、関西と関東では食べ方に違いがあります。こってりした仕上がりが多い関西風に対し、関東風は比較的あっさりした味わいです。関東では無駄な脂を落としてから焼くため、ウナギを串刺しにしてから蒸します。しかし、関西では蒸さずにそのまま焼き上げて、ジューシーに仕上げるのが特徴です。
関西と関東ではウナギのさばき方にも違いがあります。関西では腹側から開きますが、関東で主流なのは、肉厚の背中側から開く方法です。蒸している最中に身が崩れないようにするためといわれていますが、切腹を連想させるため江戸での腹開きはNGだったという説もあります。関西風では金串を使う・焼いてから頭を落とす、関東風では竹串を使う・頭を落としてから焼く、といった点も違います。
ウナギ以外も?土用の丑の日の食べ物
一般的に土用の丑の日はウナギのイメージが強いですが、他にもさまざまなものを食べる風習があります。ウナギ以外には、どのような食べ物があるのでしょうか?
食欲を増進する梅干し
「梅干し」は、食欲増進に役立つ食べ物として知られています。疲労回復にぴったりのクエン酸が豊富に含まれているため、食欲も体力も落ちがちな暑い季節に取り入れたい食材です。梅干し作りは梅雨の時期から始まり、土用の時期に天日干しする「土用干し」で完成します。土用の丑の日は、できたての梅干しを味わえる日でもあるのです。頭文字に「う」がついている点も、土用の丑の日にぴったりといえます。ごはんと一緒に食べるだけでもおいしいですが、サバ缶・めんつゆと合わせて煮るなど、料理に活用しやすい点も魅力。お弁当の傷みを予防するのにも活用できます。
食べやすいうどん
うどんも、土用の丑の日の定番料理です。暑い日でもつるんと食べやすく、調理が簡単な点も魅力といえます。冷たいうどんにたっぷりの薬味を用意すれば、それだけで特別感のある演出が可能です。梅干しを刻んでめんつゆに加えれば、サッパリとした梅風味が楽しめます。
また、うどんは冷やして食べるだけでなく、炒めてもおいしく食べられます。たっぷりの野菜炒めを合わせた「焼きうどん」は栄養豊富で、子どものいる家庭のごはんにもぴったり。にんじん・ニラ・パプリカなどを使えば、彩りも鮮やかになります。
体を冷やすウリ
水分をたっぷり含んでいるウリは、体を冷やしてくれる食べ物といわれています。体に熱がこもりがちになる土用の時期には、積極的に取り入れたい食材です。ウリにはさまざまな種類があるため、好みや食べたいメニューに合わせて選べます。「キュウリ」「スイカ」「カボチャ」「トウガン」「ゴーヤ」はどれもウリの仲間です。これらを使った料理には、ゴーヤチャンプルー・キュウリの浅漬け・トウガンのあんかけ・カボチャのスープなど、さまざまなものがあります。デザートにスイカを選ぶのも、暑い季節の水分補給としてよいアイディアです。
無病息災を願う土用餅
「土用餅」とは、餅を小豆餡に包んで食べる和菓子のこと。夏を健康に乗り切れるようにと願って食べられてきました。土用の丑に餅を食べるのは宮中で始まった風習で、もともとはガガイモの葉の煮汁と米粉で作った餅入りのみそ汁を食べていたのが発祥と伝えられています。現在のようにあんころ餅になったのは、江戸時代中期のことです。餅は「力持ち」に、あんこの材料である小豆は厄除けに通じることから、土用に食べると無病息災が叶うと信じられてきました。甘いものが好きな人や、ウナギや梅干しが苦手な子どもにもぴったりです。
土用の丑の日に行われる各地の風習
体調を崩しやすい時期に栄養をつけるよう、土用の丑の日には昔からさまざまな食材が食べられてきました。食べ物以外にも、土用の丑の日ならではの風習が残る地域があります。
薬草を入れたお風呂に入る丑湯
地域によっては「丑湯」という風習が残っていることがあります。丑湯は土用の丑の日に入る、薬草入りの特別なお風呂のことです。病気をしないおまじないとして行われていました。薬草入りのお風呂には、ドクダミや緑茶が使われていたこともあったそうです。江戸時代に入ると、桃の葉が主に使われていました。当時は毎日入浴する習慣のない時代のため、丑湯は特別爽やかな気持ちになれるものだったと考えられます。清潔を保つことで感染症予防をする働きもあったのかもしれません。
衣類を陰干しする土用の虫干し
晴れる日の多い土用には、湿気を含んだ衣類を陰干しする「虫干し」の習慣があります。着物を着ていた時代には、普段しまってある着物を外に出し、陰干ししたのです。衣類をしまったままにしておくと、梅雨で帯びた湿り気が取れません。その結果、虫やカビが発生する可能性があります。虫干しで衣類の湿気を逃がすのは、大切な衣類を長持ちさせるための暮らしの知恵です。着物を持っていなくても、冠婚葬祭用の特別なスーツやワンピースをクローゼットにしまいっ放しの人は少なくありません。閉め切っているクローゼットを土用の時期に開け放すだけでも、湿気を逃がし、衣類を長持ちさせるのに役立ちます。
土用の丑の日にNGとされること
食べるといいものや、するといいことなどを紹介してきましたが、土用の丑の日にはやってはいけないと言われていることもあります。どのような行動がNGとされているのでしょうか?
引っ越しや旅行などの移動
土用は陰陽五行の考え方を季節に当てはめて設定された時期です。五行は方位とも対応していますが、土はどの方角にも当てはまりません。土に属する時期である土用はどの方角もあまりいいとはいえず「移動しない」のが基本とされています。引っ越しはもちろん、一時的な移動である旅行や帰省も控えるべきと考えられています。言い伝えを気にする人は、できるだけ穏やかに、移動せずに家で過ごすのがよいかもしれません。
農作業や庭のお手入れ
土用の時期には、土の神である土公神の力が強まると考えられています。かつては、土用に土にまつわる作業をするとたたられると信じられていたため、農作業は休みだったそうです。家に畑はなくても、庭でガーデニングをしたり、ベランダのプランターで家庭菜園を楽しんでいる人もいるでしょう。この場合にも、土に触れるという点では農作業と同じになるため、土用の時期には行わない方がよいかもしれません。農作業や庭のお手入れは、始めるとつい集中してしまう作業です。夏の土用には熱中症の危険もあるため、外の作業で体調を崩さないように、という意味合いもあると考えられます。
間日という考え方も
趣味としてガーデニングや家庭菜園を楽しんでいるなら、土用の間は土に触れないということが可能です。しかし、農作業を仕事として行っている場合、土用の期間中ずっと休日というわけにもいきません。そこで「間日(まび)」が生まれました。土公神が天上界に帰る日のため、間日なら農作業をしてもたたられることがない、というのです。間日は季節によって違います。春は巳・午・酉の日、夏は卯・辰・申の日、秋は未・酉・亥の日、冬は寅・卯・巳の日です。土に触れる仕事や趣味をしているなら、間日をチェックしてみてはいかがでしょうか。
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