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EDUCATION 教育現場より

2022.08.22

小学校受験する?しない?わが子の幸せな教育を考える【お受験ママの相談室vol.1】

教育編集者・田口まさ美による教育分野に携わるプロへのインタビュー連載。第一回目のテーマは「お受験」。それは都会に住む母親ならば誰もが一度は思い悩むキーワードかもしれません。お受験するのか、しないのか。その選択の先には何があるのか。教育の選択肢が広がると同時に、母親たちはより新しい情報の収集や、教育への深い理解を求められる時代になりました。周りに惑わされず、親としてブレない教育観を育み、わが子を幸せな進路に導いていきましょう。

Text:
田口まさ美
Tags:

第1回:“「お受験」する・しない?どうやって決めたらいい?”
後悔しない親の判断軸の育て方

<お話を伺った方>
サイタ・コーディネーション代表取締役・クロワール幼児教室主宰
教育学博士 江藤真規 さん

興味はあるけど、情報も乏しく悩ましい小学校受験
まず、お受験を取り巻く今の環境と現状を知ろう

——都会での小・中学校の受験者数は増え続けている昨今です。初回は、いわゆるお受験(小学校受験)に興味はあるけれど迷っている方に向け、“どうやって決めていくべきか”その道標を、幼児教室クロワール主宰/教育博士・江藤真規さんにお伺いします。東大に現役合格した二人の娘さんの母親でもあり、コーチングスクールも主宰されています。 江藤さん、よろしくお願いします。

江藤:まず現代の子育てを取り巻く環境から考えていきましょう。今は働く母親も増えており、イクメン、男性の育休取得、リモートなどの導入により家の中に男性の力が入ってきてはいるものの、未だほとんどの家事育児の労力が母親に偏りがちで、決して「子育てに優しい社会」とは言えないと感じます。マクロレベルでは様々な政策が立ち上がりつつあるものの、個々の家庭の背景を見ていくと、子育て中の母親の孤立化は深刻なものがあります。

——そんな厳しい環境下での、小・中学校の受験者数の上昇は一体何を意味するのでしょうか。

江藤:一つには、近年とみに幼児教育の重要性が言われるようになったことでの焦りやプレッシャーがあること、二つ目に国の経済や世の中の動向の不透明感からくる不安、などが原因に挙げられると思います。いわゆる教育の低年齢化が起きています。

けれども、先にも申し上げましたように、母親が働いていて親子で過ごす時間が短くなってしまう、という状況もあります。教育が低年齢化すると、ただでさえ短い親子時間の中に、「日常の子育て」+「子どもの教育」といろんなものが放り込まれ、物理的にも精神的にもさらに苦しい状況になってしまいます。そこに加え、コロナ禍でコミュニケーションの減少という問題もあります。受験となれば、短期では終わらず、中長期的に労力やパワーが必要ですので、親子ともに大変な負担ですね。

——それでも、受験に踏み切る家庭が増えている、と。コロナ禍を機に、ICT教育や英語教育で公立学校との教育内容の差を感じ、不安を煽られてしまったことも、私立受験への拍車をかけているかもしれませんね。

江藤:自然の中での教育やオルタナティブ教育にも人気は出てきてはいますが、実際そこまで振り切れないというご家庭は多いですよね。「子供のため」=「受験は必須」となっているご家庭もあるのかもしれません。ですが、不安から始まる受験は、子供を振り回してしまいかねません。行き過ぎには肩を叩いてあげるようなお節介な人も必要なんだろうな、とも思います。

都心の高級住宅地の街角で、綺麗なお母様が鬼の形相で歩いている後を、子供が必死で追いかけている風景をよく見かけます。電車の中で、学習ワークをしながら怒られているお子様もよくお見かけします。 仕事柄教育熱心な親御様と出会う機会が多いのですが、ペーパーを見ると泣き出してしまう、所謂ペーパーアレルギーになってしまったお子さんもいらっしゃいますし、受験が原因で親子関係や夫婦関係に支障をきたしてしまった方もいらっしゃいます。

——受験は親が受験への興味を持つことから、スタートします。そこで親が興味本位で走ってしまうと、親子共に疲弊するばかりで、せっかくの子供の幸せを願ってのことが逆に不幸にしてしまうので注意が必要ですね。

江藤:子供たちの幼少期が、親のエゴで曲げられてしまうと思うと大変心苦しいです。お受験自体は、否定するものではないのですが、なんとなくの憧れや思い込みで安易に決めてしまうと、子供の人生の基盤となる部分が犠牲となり、取り返しのつかない親子関係になってしまう可能性すらあります。

浅い知識での早期教育は非認知能力育成に逆効果?早期教育の正解は?

——育児や教育の情報の取り方も、大きく変化してきている現状がありますよね。 この5〜6年で特に、子育て世代の女性がインスタを中心にスマホ(SNSなど)から育児・教育の情報を取り入れるようにをりました。

江藤:そうですね。スマホを頼りに子育てをするようになりました。それはすざましい変化です。本を読むよりも講座に参加するよりも、Instagram投稿の中の情報を取り入れるようになってきています。発信者のバックグラウンドや情報の質よりも、アカウントのフォロアー数が信頼とすり替えられてしまい、見ている人たちが惑わされてしまうのではないかと感じます。その情報が本当に信頼に足り得るかどうかは、ユーザーとして冷静な判断が必要です。

幼児期の子供は、特別な時期を過ごしています。人生の基盤ができる時期、いわゆる非認知能力が大きく育つ時期なのですが、そこに大人の論理を入れてしまったり、表面的な情報や小手先のスキルに惑わされてしまうと危険ですね。単なる教育の前倒しや、間違った幼児教育になってしまうと、後々子供の脳の発育に逆効果な場合もあります。

子供にとって一番大切なことは、”遊ぶこと”であることは今も昔も変わりません。子供を中心とした時間軸を持つことが大事です。教育のため、という冠をつけて実態としては大人中心の時間に引っ張り回してしまうことは避けたいものです。遊びなど、子供に何かを”経験させる”と言うのは、時間のかかることです。先も話したような状況下で、家庭の中だけ、母親が一人だけで様々な体験させるのは、なかなか難しいと感じます。

——昔は子供同士で群れて遊ぶことがありましたが、現代の都会ではそういった環境が失われてしまいました。遊びも親頼みになってしまった感があります。

江藤:子供に子供としての経験をさせる。ワクワクすることをさせる。これは子供の脳を育てる基本です。忙しい生活の中で、お母様も大変だと思いますが、遊ぶ子供を観察しながら子供の自ら「やってみたい」という気持ちを大切に、「今より少しだけ頑張る」経験ができるように工夫していただければと思います。

例えば、積み木がうまくできなくて癇癪を起こしたとしても、静かに様子を見ているとまたそのうち並べ始めたりします。自分で「もう一回やってみたい」と思うのでしょうね。とても大切な気持ちです。友達と物の取り合いになっても、口出しせず少し見守ってみると「貸してあげることにした」など、子供なりに解決していくものです。こうした経験が子供にとっての成功体験となり、生きる力となります。幼児教育を否定するわけではありませんが、そうした身の回りの遊びの中でのワンシーンが、実はとても大切です。

——成功体験って、特別なことでなく生活の中にあるワンシーンなんですね。手を洗う行為、着替える行為などの日常的なことも、ちょっとだけ待ってあげると豊かな遊びの経験や成功体験になるのだなというのは、つい忘れがちな側面です。

江藤:ですから、お母様方には、マーケティング的な言葉に惑わされてほしくないと思います。大切なのは、子供の「今」を充実させることです。将来の幸せを親が定義し、そこから逆算して「今はこれをしたほうがいい」と子供の世界を限定してしまうのは、本来あってはならないことかなと思います。

現代は社会が不安定かつ不透明なので、つい親は逆算の発想になりがちです。進学保証のされやすい小・中学校への受験者数増加もその一つの表れかと思いますが、ただ受験そのものを否定することはありません。それを良い経験にしていけば良いのです。ぜひご家庭でよく検討していただきたいと思います。惑わされないために情報交換できる仲間を作っていく、確かな情報源から情報を得る、などの心がけも大切ですね。

小学校受験のメリットとデメリットは?ポジティブな公立という選択とは

——ズバリ小学校受験のポジティブな側面/ネガティブな側面では、どんなことが言えますか?

江藤:たとえば幼児教室で行う巧緻性(ハサミ、のり、の使い方など)は、いずれできるようになることですが、きちんとした使い方を習い、丁寧に行うことにより、物事を丁寧に進める習慣がつきます。 

また、一般教養的な知識が増えます。四季のこと、伝統行事など、それらの知識をどう膨らませていくかはご家庭の力量にはなってきますが、知識は持っていると、実際の経験と結びついたときに、一気に理解が深まります。YouTubeや、ゲームを受身で見ているだけより、現実世界の経験で「あ、これ知ってる!」という体験に繋がった時、子供は知ることが好きになり、知的好奇心が高まります。

また、口頭試問については、人とのコミュニケーション能力を育みます。運動も練習することで、運動能力も開発されるでしょう。また、親がどういう子供を育てたいのか、自分の子育ての軸を持つ、つまり「子育て観」を確立することができるのは、受験のすごくポジティブな側面です。子供をよく見るきっかけになれば良いですね。

一方、ネガティブな側面としては親子の深刻な関係悪化、子どもの自己肯定感の減退、夫婦仲の悪化などが挙げれられます。子供に自分で自分を「できない子」「能力がない」だなんて思わせてはいけないことですが、受験を通してそうした気持ちを持ってしまうお子さんはたくさんいます。親が子供を否定的に怒ることで自分が悪いと思ってしまうのでしょう。頭の中が受験のことだけになってしまうと「会話が全て受験に紐づけられてしまい家族がうんざり」のような話も聞きます。

数年間受験中心の生活をしたのち合格をいただくには、並大抵のことではありません。そこは中学受験とも似た状況ではないでしょうか。その間を心穏やかに過ごせるかどうかは、まさに親の力量です。

——公立を選ぶという選択肢もありますね。ネガティブな理由ではなく、あえて公立を選ぶ人もいらっしゃいます。

江藤:増えていると思います。今は学校外の活動も重視する声が多く、英語などのアフタースクール、家庭活動、課外活動などの活動との併走を考えて、あえて私立ではなく公立を選ぶ人が出てきているのも、新しい傾向です。

いろんなバックグラウンドを持つ人たちの中で、つまり多様性の中で育てたい、という理由もありますね。それには、もちろん友達も先生も選ぶことはできません。ゆえに、いかなるクラスでも学校でもそれを引き受ける覚悟が同時に必要だとも思います。モンスターペアレンツなどという言葉もありますが、学校はサービス業ではありません。どんな環境であれ、自分の子供だったらそれを糧に自らの力で切り開いていけるだろうと、鷹揚な気持ちで見守っていらっしゃる保護者様は、素晴らしいですよね。

大切なのは、なぜ受験するのか(しないのか)の明確な言語化。親が賢くなり、自分が舵取りするという意志を持つこと

——では実際に今興味があるけれど悩んでいる人は、どう決めればいいでしょうか?

江藤:誰かから言われて興味をもった人と、自分から興味を持った人、どちらの場合も、その後は自分で情報収集し判断していくことになります。「どこに行ったら合格できるか?」という手っ取り早い考え方ではなく、長い道のりの中にどんな日常があり、どんな子供の成長があり、どんな関わりを自分がしていくのかを考え、把握することが大事です。その上で、「自分がどうして受験させたいのかを自問自答する」。このことに尽きます。フワッとした理由で始めるのは危険です。しっかりと言語化することです。

何にせよ、「受験は親が始めたくて始めた事、やらせたくてやらせること」という認識を持つことが大切です。受験は端的に言えば、親のエゴとも言える「自分のこだわり」ですので、子供にやらせるにあたり舵取りの全責任を負わなければなりません。これを自覚しているか否かは大きいと思います。

「家庭内に反対者がいる」も、すごく多いケースです。そんな時は、腹を立てるのではなく、これは自己理解を深めるための良いきっかけと捉え、「なんで自分が受験をさせたいのか、どうしてこの学校へ入れたいのか」を言語化して相手に伝えていくと、共通理解の土壌ができていきます。家庭内に反対者がいない場合も同様に、どうして受験を選ぶのかを自問自答する必要があります。子供がそこに入り込んでいく前に、大人同士で熟慮して方向性を決めましょう。

受験は、親の気持ちの持ちようによって子供の心に残る記憶が全く違うものになります。逆算発想で合格に向けての細いレールを進んでしまうと、「子供時代は窮屈だった」という記憶になり、子供の骨太さやたくましさがなくなってしまいます。薄紙を1枚ずつ積み重ねるように、今という時間を過ごし、受験する・しないに関わらず親子の絆を第一に過ごしていただけることを応援しています。


——「受験は親がやらせたいこと」。その言葉は事実なのですが、つい見失ってしまいがちです。私にも経験があり重く刺さりました。
親が子供に期待をかけるのはごく自然なことでもあり、そのこと自体が悪いわけではありません。が、親の一方的な思いで子供を潰してしまっては元も子もありません。自分の子供への期待を肥大化させず、客観的に眺め、自分自身をコントロールできるかどうかは、まさに親の器です。「子育ては自分育て」ということを改めて考えさせられる内容でした。何よりも、幸せな親子時間を大切に。このことを胸に過ごしていきたいものですね。

✳︎以下の自問自答チェックシートは、夫婦で子供を深く知り、教育観を共有するきっかけにもなりますので是非書き出してみてください! 中学校受験を迷われている方は小学校を中学校に置き換えて使えます。

Check!
[受験する?しない?]思考を整理するために役立つチェックシート

• 子どもを知る
□お子様の「この子らしいな」と感じる資質を3つ教えてください。
□それらの資質を更に伸ばすために、どのようなことができますか?
□お子様の短所(もう少し頑張って欲しい)と感じることを挙げてください。
□短所と感じる理由は?
□お子様の口癖は何ですか?

• 子育ての軸を考える
□親の役割とは一言で言うと何ですか?
□子育てで大切にしていることはどのようなことですか?短いキーワードで1つだけ挙げてください。
□それを大切にしている理由は何ですか?
□母親/父親の役割は何ですか?
□お子様には、どのような力を身に付けさせたいと考えていますか?
□その理由は?

• 受験する?しない?
□小学校お受験とそれ以降の受験の一番の違いは何ですか?
□小学校受験に興味をもった理由は何ですか?
□小学校受験は誰が決めるのですか?
□小学校受験を決定する際に大切にしたい条件は何ですか?
□今、イメージしている小学校のどこに一番惹かれましたか?
□目指す小学校でどのような教育を受け、どのような人になってほしいですか?
□志望校の【物理的環境】の魅力は?
□志望校の【人的環境】の魅力は?
□志望校の【先生(人)】の魅力は?
□目指す学校の教育方針と、家庭の教育方針の共通点は何ですか?

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教えてくれたのは…

教育学博士 江藤真規さん

お茶の水大学卒業。娘2人は中学受験を経て東大に現役合格。その後、自身も東京大学大学院教育学研究科修士課程に入学、2019年に博士課程修了。現在は㈱サイタコーディネーション代表取締役として、子育て・家庭教育に関する講演や執筆活動を行う。「子どもの主体性」をテーマとしたサイタコーチングスクール、学びの土台作りを目指したクロワール幼児教室を主宰。次世代を生き抜く子どもを育てるための家庭環境づくり、親子対話の工夫等を発信している。著書「子どもを育てる魔法の言い換え辞典」「母親が知らないとツライ女の子の育て方」他。<子育てコーチング:サイタ・コーディネーション

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Interview& Writing

田口まさ美

小学館で教育・ファッション・ビューティ関連の編集に20年以上携わり独立。現在Creative director、Brand producerとして活躍する傍ら教育編集者として本連載を担う。私立中学校に通う一人娘の母。Starflower inc.代表。

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