詭弁の意味と由来
詭弁という言葉にはどんな意味があるのか、また、由来はどんなものなのか、一緒に見ていきましょう。
詭弁の意味
詭弁は「きべん」と読みます。「詭(き)」は、「いつわる」とも読み、文字通り偽る、欺くという意味です。「弁(べん)」は言葉でおさめる、巧みに言うという意味です。したがって詭弁とは、論理的には誤っているのに、一見すると正しく思えるような議論のことを指します。いわゆる「巧妙なる弁論」を意味します。また、「道理に合わないことを強引に正当化すること・こじつけ」という意味もあります。
詭弁の由来
この言葉の由来は、中国の戦国時代に遡ります。当時、弁論や語学の技術を用いて人々を誤導し、自らの主張を通す者たちのことを指して「詭弁」と称していました。中国の歴史書「史記」において、以下のように言葉巧みに相手を欺く議論を指す表現として登場したとされています。
原文:設詭辯於懐王之寵姫鄭袖
書き下し文:詭弁を懐王の寵姫鄭袖に設く
現代語訳:懐王の寵姫の鄭袖(ていしょう)を弁舌で手なずけた。
『史記』「屈原賈生列伝」
詭弁の例
どんな表現が詭弁になるのか例をあげて紹介します。
1:その映画は評価が高いから、きっと面白いに違いない
2:彼は毎日勉強しているから、必ず成績が上がるだろう
3:その商品は高価なので、品質も高いはずだ
高評価は面白さを保証するものではありませんし、勉強量と成績は必ずしも一致しません。また、価格と品質は直結しない場合があります。したがって、これらの表現は詭弁といえるでしょう。
詭弁の使い方
ではどんなときに使うのか、一緒に見ていきましょう。詭弁は、「詭弁を弄(ろう)する」と表現することが多いです。「弄する」とは、「思うままにあやつる」「もてあそぶ」という意味です。したがって、ある事実や主張を誤解を招くように巧みに操作するという意味合いを持ちます。
〈例文〉
1:彼は問題の真相を隠すために詭弁を弄し、自分の行動を正当化しようとした。「遅刻したのは電車が遅れたからで、私の責任ではない」と彼は言ったが、その日は全く電車の遅延がなかった。
2:政治家たちはしばしば詭弁を弄することで、有権者に誤った印象を与える。「税金の使い道はすべて国民のため」と言いつつ、具体的な支出計画を明らかにしないのはその一例だ。
3:「Aさんはいつも独りでいるから、きっと友達がいないんだ」と彼女は詭弁を弄した。しかし、Aさんはただ単に一人の時間を好むだけで、実際には多くの友人がいた。
詭弁の類義語
詭弁の類義語としては、「ソフィズム」「詭策」「曲論」などが考えられます。それぞれ例文をあげて解説します。
ソフィズム
ソフィズムは、見かけ上の論理性を持ちつつ、実質的に誤りを含む議論や論法を指します。説得力を持たせるための表面的な論理で、真実を歪めることがあります。
〈例文〉
1:彼はソフィズムを駆使して、「クラス全員が野球を好きだから、野球は最高だ」と自分の意見を強調した
2:「毎日運動すれば必ず健康になる」というのは、ソフィズムに過ぎない。食事や睡眠など、他の要素も重要だ
3:彼の議論はソフィズムが多く、真実を見極めるのが難しい
詭策(きさく)
詭策とは、策略や巧妙な手段、または欺瞞的な計画を指す言葉です。通常、目的を達成するための狡猾な策や手法に関連して使われます。
1:敵の注意を逸らすための詭策として、彼らは偽の情報を流布した
2:彼女は詭策を駆使して、競合他社を出し抜き、大きな契約を勝ち取った
3:その政治家は、有権者の支持を得るための詭策を次々と練り出していた
曲論(きょくろん)
曲論は、真理を曲げたり、論点をずらしたりする不正な論法を指します。一見論理的に思えますが、実際には誤った結論を導くことが多いです。
〈例文〉
1:「私が言っていることが理解できないのは、あなたが学問に疎いからだ」という彼の主張は曲論によって支えられており、本質から逸脱していた
2:「彼は有名なので、必ずしも才能がある」というのは曲論だ。有名であることと才能は必ずしも一致しない
3:ディベートでは曲論を使うことで、相手を混乱させ、主張を通すことがある
詭弁の対義語
詭弁の対義語は、「真実」「正論」など、事実や正しい論理を表す言葉です。それぞれ例文をあげます。
真実
1:彼女は詭弁を使うことなく、「私があなたに厳しいのは、あなたの成長を望んでいるからです」と率直に真実を語った
2:「その絵は彼が描いたのだ」というのは真実で、一切の詭弁は含まれていない
3:会議での彼の発言は全て真実に基づいており、一切の詭弁を排除していた
正論
1:「健康のためには、バランスのよい食事と適度な運動が必要だ」という彼の意見は正論であった
2:「経済成長は持続可能な環境保全と両立可能だ」と彼は正論を主張した
3:「全ての生命は尊重されるべきだ」という彼女の言葉は正論だ
詭弁の英語表現
詭弁を英語で表現するときには、「sophistry」という単語がよく使われます。以下に例文をあげます。
1:Don’t fall for his sophistry. It may sound logical, but it’s not.
彼の詭弁に騙されないで。論理的に聞こえるかもしれないが、そうではない
2:She used sophistry to justify her actions.
彼女は詭弁を用いて自分の行動を正当化した
3:Sophistry can lead to misunderstanding, so it’s important to fact-check.
詭弁は誤解を招く可能性があるので、事実確認が重要です
まとめ
詭弁は一見難しそうな言葉ですが、実際には日常会話やビジネスで頻繁に使われています。言葉の由来や類義語、対義語、英語表現を理解することで、みなさんのコミュニケーションスキルはさらに磨かれるでしょう。今度、誰かが詭弁を使っていると思ったら、その言葉を指摘し、真実を追求する勇気を持ちたいですね。
執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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