「万願寺とうがらし」とは
夏野菜の中でも人気の、万願寺とうがらし。苦みがなく、肉厚の実をシンプルに焼くだけで、夏の爽やかな味わいが楽しめます。
「とうがらし」の名前がつきますが、辛みはありません。ピーマンを思わせる見た目ですが、甘みがあるため子供でも食べやすいでしょう。これは、おいしい食べ方を知りたいところ。食卓には、どんな取り入れ方ができるのでしょうか?
万願寺とうがらしについて、京都・錦の老舗「かね松」の主人・上田欣司さんに、お話をうかがいました。
万願寺とうがらしには甘みがあり、大型でやわらかい特徴があります。さらに、みずみずしい食感と肉厚の実から、清々しい味覚を感じることも。また、夏野菜らしい鮮やかな濃緑色をした表面は、ツヤと張りから鮮度が判別できます。
ここで上田さんから、驚くべき発言が。「万願寺とうがらしは京野菜だと思われがちですが、正確には京野菜に準ずる野菜であり、京野菜ではないんです」とのこと。上田さんによると、万願寺とうがらしは舞鶴発祥の野菜であるため、京野菜とはいえないそうです。
旬の時期
食欲が減退する夏の季節に、私たちを元気付けてくれるのが、万願寺とうがらしです。5月上旬から収穫が始まり、9月中旬まで店頭に並びます。
ししとうとの違いは
ししとうを大きく育てれば、万願寺とうがらしになるわけではありません。ふたつは別の野菜です。ししとうは実の長さが5〜6cmほどで、実の先端が押しつぶしたような形にへこんでいます。これが獅子の頭のように見えることから、「ししとうがらし」と呼ばれるようになったそうです。
京野菜のとうがらしにと呼べるものは、鷹峯地区で栽培されている「鷹峯とうがらし」、伏見稲荷大社のあたりで採れる「伏見とうがらし」などがありますが、とうがらし類はもともと交雑しやすく、多くの種が生まれやすいのだそう。それぞれの形状から呼び分けがされ、鷹峯とうがらしは「くじら」、伏見とうがらしは「ひも」と呼ばれます。
万願寺とうがらしは、在来種の「伏見とうがらし」に、アメリカからのピーマン「カリフォルニア・ワンダー」が交雑したことから生まれた…とこれまで言われてきました。しかし、近年の研究により、「カリフォルニア・ワンダー」との関係はないことが分かったのです。現在のところ、「伏見とうがらし」と何が交雑して生まれたのかは、はっきりとしておりません。
万願寺とうがらしを味わうレシピ
“とうがらし”と名はつきますが、辛みはまったく感じられず、甘みが強い特徴があります。上手に焼いて、おいしくいただきましょう。
万願寺とうがらしの素焼き
軽く焼きめをつけて、夏の爽やかなおばんざい(お惣菜のこと)に仕上げていきます。中の種を抜いたあと、ごくシンプルに焼くだけです。甘みを引き出す焼き方と味付けを、チェックしてみてください。
材料(2人分)
万願寺とうがらし:2本
花がつお(かつお節):適量
【割りしょうゆ】
濃い口しょうゆ:大さじ1
みりん:小さじ1
作り方
【1】万願寺とうがらしはヘタを落とし、包丁で縦に開いてください。
【2】ワタと種を指で取り除きます。
【3】切らずにそのまま、フライパンで焼きます。油はひかず、火加減は強火です。とうがらしを手や菜箸で押さえながら、表面に焼き目をつけます。パチパチと音がするまで焼いてください。
だんだん柔らかくなり、押さえつけやすくなってきます。内側も同様にして焼いてください。
【4】食べやすい大きさにカットして、器に盛ります。花がつおをのせて、濃い口しょうゆとみりんを混ぜ合わせた“割しょうゆ”をまわしかけます。
万願寺とうがらしとおじゃこの炊いたん
出汁が染み込むまでしっかり炊いた料理のことを、京都では「炊いたん」と表現し、大根や、かぼちゃの炊いたんなど、種類も豊富にあります。ここでは「万願寺とうがらしと、おジャコの炊いたん」の作り方をみていきましょう。夏の代表的なおばんざいとして、家庭の食卓に並ぶメニューです。
材料(2人分)
万願寺とうがらし:100g
ちりめんじゃこ:10g
油:大さじ1/2
【A】
濃い口しょうゆ:大さじ1
砂糖:小さじ2
みりん:大さじ1/2
だし汁:25cc
作り方
【1】万願寺とうがらしはヘタを落とし、縦に開いてください。中身を抜いて、1.5センチ幅にカットします。
【2】鍋に油を入れて熱し、万願寺とうがらしを入れて炒めてください。全体に油が回ったら、ちりめんじゃこを加え、さらに炒めます。
【3】全体に火がとおったら、混ぜ合わせた【A】を入れてよく混ぜます。中火で汁気がなくなるまで煮てください。
万願寺とうがらしの栄養
万願寺とうがらしに含まれる栄養素は、ピーマンによく似ているため、ピーマン嫌いの子供にもおすすめ。苦くないので、ぜひ一度試してみてください。
栄養
ビタミンC、またE、が多く含まれる他、β−カロテン、食物繊維などを含み、カリウムも豊富です。免疫力を高め、疲労回復の効果が期待できる栄養素や、髪の毛や肌を美しく保つ栄養素が含まれているので、万願寺とうがらしは、夏の強い日差しに疲れた身体や肌のケアに役立つ夏の野菜といえるでしょう。
辛さなし!
食べても辛みは感じませんが、辛み成分のカプサイシンを少量含みます。品種改良がすすみ、より辛みは少なくなりましたが、当初は辛いものが混じることも多かったそうです。
夏バテによる食欲不振の際は、少量のカプサイシンによる爽やかな刺激が心地よく感じられるものです。同時にビタミンの補給にもなるので、油ものは控えつつ、野菜中心のメニューを摂りながら身体を労って、暑い季節を乗り越えてください。
最後に
万願寺とうがらしについて、詳しくみてきました。今では全国で手に入りやすい野菜になり、人気が高まっています。太陽の光を浴びて、勢いを感じるような夏野菜は、シンプルな調理でも十分に旨味を感じられます。爽やかな万願寺とうがらしを、新鮮なうちに上手に調理して味わってください。
構成・文・写真(一部を除く)/もぱ(京都メディアライン)
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