退職金制度とは
「今の仕事を退職したとしたら、退職金は出るのだろうか」と考えたことはありませんか? 「そもそも、退職金制度って具体的にどんなもの?」という疑問もあるかもしれません。退職金の定義や、もらえる条件などを聞かれると、意外に難しいと感じる方が多いのではないでしょうか。
退職金制度とは、退職時に会社などからお金を受け取れる制度のことです。一般的には、定年退職時に、まとまった金額を受け取るというイメージが強いかもしれません。これを、「退職一時金」と呼ぶことも。
定年退職に限らず、一定の勤続年数がある人が退職した場合に支払われるケースもあります。退職金制度の目的はさまざまあるといわれていますが、特に「長く働くモチベーションを上げるため」とも。ちなみに、一言で「退職金」と言っても、さまざまな種類があります。ライフプランにも大きく関わるテーマですので、ぜひチェックしてみてください。
退職金制度の種類
退職金制度には、主に以下のような種類があります。
1:退職一時金
退職一時金は、会社を退職した際、一時金という形でお金を受け取れる制度のこと。年金のように定期的に支払われ続けるわけではなく、通常は1回で支払われるため、「一時金」と呼びます。金額の計算方法などは、会社が独自に設定していることが一般的。また、社内で退職一時金用のお金を積み立てて、準備している会社もあります。
ただ、中小企業の場合は、こういった会社独自の退職金制度をつくることが難しいケースも。自社で退職金用のお金を積み立てるとなると、管理にもかなりの労力がかかるでしょう。
そういった会社は、「中小企業退職金共済制度」というものを利用しているケースもあります。これは、複数の中小企業でお金を出し合い、国のサポートも受けながら、退職金制度を設けるというシステムです。
なお、退職一時金は、一定の勤続年数がある人に支払うケースが多いよう。退職したら必ずもらえるというわけではないため、注意しましょう。
2:企業型確定拠出年金制度
企業型確定拠出年金とは、会社が一定の掛け金を出し、社員がその掛け金の運用方法を選ぶ制度のこと。こうして運用して得た利益と、掛け金の合計額をもとに計算した金額を、将来年金として受け取ることができるというものです。
自分の将来のためにお金を運用し、資産形成をするというイメージです。別名では、「企業型DC」と呼ばれることも。なお、受け取りができるのは原則60歳になってからです。
確定拠出年金といえば、iDeCoが思い浮かぶ方もいるでしょう。ちなみに、iDeCoは自分で掛け金を出す「個人型」の確定拠出年金のこと。
それに対し、企業型確定拠出年金は、原則会社が掛け金を出すという違いがあります。ただし、規約に定めて、加入者自身も掛け金を出すケースも。また、希望する社員だけが、給与の一部を運用に回し、将来の年金に充てる「選択制企業型確定拠出年金」という制度もあります。会社によって、どのような制度を導入しているかは異なるという点も、おさえておきたいポイントです。
また、「運用といっても、具体的にどんなもの?」という疑問もあるでしょう。確定拠出年金の運用方法は、投資信託、保険や預貯金などさまざま。基本的には、会社が契約している運営管理機関が、運用商品をピックアップして、情報を提供してくれることがほとんどです。これらの運用商品の中から、加入者本人が選ぶというイメージです。
ただ、あくまで運用ですので、必ず利益が出るとは限りません。自分で運用方法を選ぶ分、当然責任やリスクを伴う点もおさえておきたいところです。
3:確定給付企業年金制度
確定給付企業年金制度は、会社が社員に対し、将来年金として支払う金額を、前もって約束している制度です。
前述の確定拠出年金では、運用の責任やリスクは、制度に加入している社員自身が負うタイプでした。これに対し、確定給付企業年金の運用責任を負うのは、会社です。つまり、運用がうまくいかず、約束した金額に届かない場合、その分は会社が埋め合わせるということ。
確定給付企業年金の種類は、「規約型」と「基金型」の2種類があります。その違いも見ていきましょう。規約型は、会社が信託会社などと契約をした上で、規約に基づいて掛け金を出し、運用を任せます。これに対して基金型は、会社が「企業年金基金」という組織をつくり、運用を行うという違いがあります。
退職金額は勤続年数に比例する?
ここからは、退職金の金額と、勤続年数の関係も見ていきましょう。
「定年前に辞めてしまうと、退職金が大幅に減ってしまう」という話を、聞いたことがある方もいるかもしれません。では、これは本当なのでしょうか?
結論からいうと、そうとは限りません。まず、退職金制度は会社の規定にもよるため、一概に言うのは難しいでしょう。ただ、一般的には、勤続年数に比例して、退職金は増えていく傾向があるようです。
しかし、「早期退職優遇制度」などで、定年前に退職した社員の退職金が、上乗せされるケースもあります。早期退職優遇制度は、会社のコスト構造の改革や、組織の活性化などを目的として行われることが一般的。通常より上乗せされた退職一時金を支払うことが多いようです。
もちろん、会社がどのような退職金制度を設けているかによって異なります。しかし、定年前に辞めたからといって、必ずしも退職金が大幅に減るとは言い切れないでしょう。
退職金がないのは違法?
「退職金制度なし」という会社があった場合、それは違法なのでしょうか? 法律上の扱いも見ていきましょう。
実は、退職金制度の導入は、法律上義務づけられているわけではありません。そのため、退職金制度がないという会社もあるようです。ただし、退職金を支払うと就業規則等に記載されている場合、会社に支払い義務があると考えるのが原則です。
最後に
この記事では、退職金制度の概要、退職金なしの場合の法律上の扱いなどを解説しました。多くの人にとって、会社を退職することは、大きな人生の節目になるのではないでしょうか。退職金は、そんな節目にも大きく関わる制度ですので、おさえておくと安心でしょう。
執筆
塚原社会保険労務士事務所代表 塚原美彩(つかはら・みさ)
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。趣味は日本酒酒蔵巡り。
ライター所属:京都メディアライン
あわせて読みたい