「張子の虎」ってどんな意味?
そもそも「張子の虎」というおもちゃは、どのようなものなのでしょうか。またことわざとして「張子の虎」と使われることもあります。もしかすると後者の意味で「張子の虎」という言葉を存じているという方も多いかもしれません。
本章では、おもちゃとしての「張子の虎」とは何なのか、またことわざにはどのような意味があるのかなどを解説していきます。
■張子の虎=おもちゃ
「張り子の虎(はりこのとら)」とは、虎の形をしたおもちゃのこと。別名「首振りの虎」とも呼ばれているように、大きく口を開けた虎が揺れる姿が、非常にユーモラスなおもちゃです。辞書では「張子の虎」について、以下のように解説されています。
虎の形をした首の動く張り子のおもちゃ。転じて、首を振る癖のある人、また、虚勢を張る人、見かけだおしの人などをあざけっていう語。
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
張子の虎とは郷土おもちゃとしても知られており、指で触れることで虎の頭が、上下にゆらゆらと動きます。そして張子の虎の「張り子」とは、和紙を重ねて立体的に作られた構造のことを指しており、その作り方から名前がついたと考えられるでしょう。
■ことわざとしての「張子の虎」
張子の虎は、単純に「おもちゃの名前」というだけではありません。ことわざとして「張子の虎」が使われることもあります。本来の意味(おもちゃとしての意味)では、縁起物とされている張子の虎ですが、ことわざの場合は少しネガティブな意味で使われています。
ことわざである「張子の虎」とは、主体性がない人、頷くだけの人(イエスマン)を意味する言葉です。由来としては「張り子の虎」が、頭をゆらゆらと首を振る姿から、このような意味で用いられています。
また張子の作り方は、型の表面に和紙を貼り、絵柄を描いていくといったもの。そのため中心は空洞となっており、この特徴から「外見は立派でも中身がない」という意味も含まれています。
■張子の虎の由来
実は、もともと虎は日本で生息しない動物です。そうであるにも関わらず、なぜモチーフが「虎」になったのでしょうか。「張り子の虎」は中国の虎王崇拝から日本に伝わったおもちゃであり、古代中国では人間と虎とが、生活をともにしていたのです。
そして「山の神」や「魔除け」として崇拝されていたことから、おもちゃになりました。
当時の日本では虎は「異国の霊獣」として人々の関心を集めました。そして十二支のひとつに含まれる、日本画の画題としても頻繁に用いられるといった経緯を経て、虎という生き物が日本人にとって身近な動物となりました。
張子の虎の使い方
「張子の虎」を会話や文章のなかで用いる際、どのように使えば良いのでしょうか。張子の虎の使い方として、まず以下の例を確認してください。
1.彼は張り子の虎なので困っている。何でも形ばかり豪華にしてしまう
2.あの人の働き方は、張り子の虎のようだ。上司や同僚から仕事を押し付けられても、いつも二つ返事で引き受けている
3.友達に旅行の計画を提案してみても張り子の虎だ。そのため結局は、私が決めなければならない。
繰り返しになりますが、張子の虎をことわざで使う場合は、上記のようにややネガティブな意味合いで使われます。
張子の虎の類義語
ことわざとして用いられている「張子の虎」には、いくつかの類義語があります。具体例としては「尻馬に乗る」「虚仮威し」「大言壮語」の3つです。本章では3つそれぞれの意味や由来などを解説していきます。
一つのワードの意味だけでなく、その類義語も合わせて覚えておくことで、ボキャブラリーがぐっと増えます。ぜひセットで覚えておきましょう。
■尻馬(しりうま)に乗る
「尻馬(しりうま)に乗る」は張子の虎と似た意味で使われる言葉。他者の言うことに対して、よく考えずに「とりあえず同調する」といった軽率な行動を指して使われます。
尻馬(しりうま)とは言葉通り馬のお尻ですが、ここで重要なのは「他人の乗っている馬」のお尻を指しているということです。つまり自分の前を歩く馬のお尻ということです。
ただ前の人についていくだけである後ろの人を「人任せ」と表現するときに「尻馬に乗る」といいます。
■虚仮威し(こけおどし)
「虚仮威し」とは、見かけだけが立派なものを指して使われる言葉です。その由来は仏教の「虚仮(こけ)」からきています。この虚仮というのは、外面と心の中が異なるといった意味であり、虚仮=偽りとされています。
一般的には「思慮が浅い」「愚かなこと」という意味で用いられる言葉。人をばかにする行動を「虚仮にする」というのも、このためです。
■大言壮語(たいげんそうご)
周囲に自分の能力を、実際よりも高く伝える人を指して「大言壮語」といいます。「大言」は「(あるものを)大きく言う」や「大げさ」といった意味が含まれており、「壮語」には「威勢がよい発言」「偉そう」「大きなことをいう」という意味をもちます。
両者を繋げることで「物事を誇張している」といった意味で「大言壮語」と言われるようになりました。
張子の虎の産地
日本にはさまざまな郷土品があり、張子の虎も「郷土おもちゃ」のひとつであることは、前述したとおりです。
では張子虎とは、どこの地域のおもちゃなのでしょうか。本章では張子の虎の産地について解説します。どの地域でどのように製造されているのか知り、張子の虎がどんなおもちゃなのかをより深く知っておきましょう。
■島根県
張子の虎の産地として有名なのが「出雲地方」です。出雲地域において張子の虎は「病魔退散」や「武運長久」といった願いが込められたものとして親しまれてきました。特に男児が生まれた家へ、上記のような願いを込めて贈られます。
また正月飾りとしても愛用されており、年賀切手のデザインなどにも採用されていました(昭和37年時点)。
■香川県
香川県も張子の虎の産地として有名です。香川県の「西讃(せいさん)地方」にて、盛んに作られており、現在に至るまで伝わる伝統工芸品とされています。
香川県で作られる張子の虎は、昔ながらの原材料が使われています。さらに手作業によって一つ一つ丁寧に作られていることも特徴。サイズの幅が広く、大きいものでは子どもが上に跨がれるほどの大きさです。
ことわざとしての「張子の虎」を活用しよう!
伝統工芸品として知られる「張子の虎」はことわざとしての意味も持ちます。何にでも頷いてしまう、いわゆる「イエスマン」を指して張子の虎というため、ことわざとしてはあまりポジティブな意味では使われません。
知らずに使ってしまい、相手に不快感を与えることのないように、しっかりとその意味を理解しておきましょう。
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