食物繊維とは
食物繊維は食べ物に含まれている成分の中で人が持つ消化酵素では消化できない物質です。水溶性と不溶性の2種類に分かれます。整腸作用など、健康のために体によい働きをすることから、5大栄養素に次いで第6の栄養素とも呼ばれる栄養素です。
ここではそれぞれの食物繊維の働きと含まれる食材についてご紹介します。
■水溶性食物繊維
水溶性食物繊維は水に溶けることができる食物繊維を指します。ぬるぬるとした粘性を持っており、保水性が高いのが特徴です。食後血糖値の急上昇を抑えてくれるほか、脂肪の吸収を抑え、血液中のコレステロール値を下げる働きを持ちます。
代表的なものとしては果物に多く含まれるペクチン、こんにゃくに含まれるグルコマンナン、海藻のぬめり成分のアルギン酸やフコイダンがあります。
■不溶性食物繊維
不溶性食物繊維は水に溶けにくい食物繊維を指します。繊維質でかさがあるのが特徴です。腸の中では水分を取り込んで便のかさを増やし、腸を刺激して排便を促します。便秘の予防や改善に効果的です。また、腸内の有害物質をからめとって排出させる働きもあります。
代表的なものとしては食事から摂取する食物繊維の大半を占めるセルロース、ごぼうや穀類に含まれるヘミセルロース、野菜に多い不溶性のペクチン、ココアや豆類に含まれるリグニン、甲殻類の殻に含まれるキチン、キトサンがあります。
食物繊維の働き
食物繊維の主な働きは腸内環境を整えることと生活習慣病を予防することの2つです。水溶性、不溶性2種の食物繊維はそれぞれ異なる働きをして腸内環境を改善しています。便秘が気になる方は食物繊維が不足し、腸内環境が乱れている可能性があります。
生活習慣病の予防として、コレステロールや糖質が気になる方も積極的な摂取がおすすめです。ここでは2種の食物繊維の腸内での働きと、生活習慣病の予防に役立つと言われる理由についてご紹介します。
■腸内環境を整える
食物繊維の主な働きのひとつは腸内環境を整えることです。水溶性、不溶性どちらの食物繊維にも腸内環境を整える働きがあります。
腸の中には約1000種の腸内細菌がいて、悪玉菌と日和見菌、善玉菌に分かれます。腸内環境を整えるためには悪玉菌を減らして善玉菌を増やすことが大切です。
水溶性食物繊維は体に不要な物質が吸収されるのを防ぎ、善玉菌のエサにもなる食物繊維です。不溶性食物繊維は水分を含んで膨張し、腸の運動を促進させることで排便をスムーズにします。同時に腸内の老廃物を排出させることで腸内環境を整えています。
■生活習慣病を予防する
食物繊維は生活習慣病の予防にも効果が期待できます。血液中のコレステロールの値を下げることで心筋梗塞や脳卒中の予防につながるとされています。
食後の糖の吸収を緩やかにしてくれるため、食後血糖値の急上昇が抑えられ、2型糖尿病の予防にも役立つとされる栄養素です。
また、食物繊維を含む食事はカロリーが抑えられているうえに噛み応えがあるため、食べたときの満足感が高くなります。そのため、食物繊維が多い食事は食べすぎず、肥満の予防に効果的です。
ほかにも腸内環境を整えることで大腸がんのリスクも減らすことができると言われています。
食物繊維の摂取状況
食物繊維の1日の目標量は成人男性で21g以上、成人女性で18g以上です。昔に比べて摂取量が減っているため、意識して取り入れるとよいでしょう。不足すると便秘や生活習慣病の原因となります。
その一方で摂りすぎても便通の乱れや消化管の異常が起こります。サプリメントの利用による極端な摂取は避けましょう。
■1日当たりの摂取目安と摂取量の推移
食物繊維の1日当たりの目標量は成人男性で21g以上、成人女性で18g以上です。これに対して現在の摂取量の平均は男性18.0g、女性15.5gと不足しています。
以前は穀類からの食物繊維の摂取が多く、不足せずに補えていました。しかし、1950年代から1970年代にかけて穀類の摂取量が減少したことに伴って食物繊維の摂取量も全体で大きく減っています。
その背景として食生活の欧米化により米や大麦などの穀類を食べなくなったことがあげられます。雑穀などを取り入れることや食物繊維の多い野菜を取り入れて1日3〜4g追加で摂取できるようにしましょう。
参考:厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」「国民健康・栄養調査報告(令和元年)」
■食物繊維が不足すると
食物繊維が不足すると便秘になりやすくなり、生活習慣病になるリスクも高まります。便のかさが減り、水分を保持できなくなるため、固くなって排便がスムーズにできません。
また、善玉菌のエサも減り、悪玉菌に優位な腸内環境に変わります。便の状態は黒っぽく悪臭があり、硬い状態です。その結果痔や大腸がんになるリスクが高まります。
また、食物繊維の少ない食事は噛み応えが少ないため、食べすぎてしまいやすいです。血糖値を抑える働きや血中コレステロールを下げる働きも期待できないため、さまざまな生活習慣病に繋がりやすくなります。
■食物繊維を摂りすぎると
食物繊維を摂りすぎると起こるのが便通の乱れと消化管の不調です。水溶性食物繊維が多すぎると便の水分量が多くなりすぎ、便が緩くなりすぎることがあります。
逆に不溶性食物繊維が多すぎると便の量が増えすぎて腸の中で詰まり、排便しづらくなります。腸を圧迫するため、お腹が張る、といった症状も心配です。便秘の方は改善しようと極端な量の食物繊維を食べすぎるのには注意しましょう。
また、多すぎる食物繊維は小腸で栄養素の吸収を妨げることもあります。ただし、栄養素の吸収を妨げるほどの食物繊維はサプリメントが原因の場合が多いため、利用している方は量を守るようにしましょう。
食物繊維が多い野菜〝10選〟
食物繊維を多く含む野菜はグリンピース、モロヘイヤ、ごぼう、ブロッコリー、えだまめ、オクラ、かぼちゃ、ほうれんそう、ピーマン、キャベツの10選です。
■野菜の食物繊維量一覧
食物繊維が多く含まれる野菜についてそれぞれの水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の量をご紹介します。
可食部100gあたり
出典:「文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
※図表は編集部にて作成
食物繊維を効率的に摂取する方法
食物繊維をたっぷり食べるには野菜を加熱したり、乾燥させたりするのが効率的です。水分が減る分1度に摂れる食物繊維の量が増えるため、量をしっかり摂りたい方は生のままよりも上手に調理するとよいでしょう。
■加熱して食べる
野菜から食物繊維をたっぷり摂るには加熱して食べるのがおすすめです。食物繊維が多い野菜は生のまま食べることで満腹感が得られやすくなりますが、その一方で一度にたくさん食べることができません。
特に葉野菜の場合は茹でる、電子レンジにかけるなどの加熱によってかさが小さくなるため、食べる量を増やすことができます。
可食部100gあたり
出典:「文部科学省|日本食品標準成分表2020年版(八訂)」
※図表は編集部にて作成
■乾物を食べる
同じく水分やかさを減らすのに効果的なのは乾燥させることです。だいこんも生の状態では可食部100gあたり1.4gだった食物繊維量が、乾燥させた切り干し大根は21.3gになります。
1度に100g食べることは難しくても、1食分で十分食物繊維の摂取につながります。根菜類はスライスして天日干しするなど簡単に乾燥させることができます。日持ちもするようになるため、おすすめです。
食物繊維を多く含む野菜を選んで、効率よく食べることで、健康にも美容にもうれしい効果が期待できます。普段の食生活に上手に取り入れて、食物繊維不足を解消しましょう。
監修
川島 尚子
管理栄養士兼パティシエ。料理教室運営会社で講師やメニュー開発に従事後、パティシエへ転向。現在は企業様向けのレシピ開発やコラム執筆、オンラインショップやオーダーメイド菓子の制作を行う。ヘルシーなものから子供向けまで幅広く対応。
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