「業を煮やす」とは思い通りにならずに苛立つこと
業を煮やす(ごうをにやす)とは、思い通りにならずに苛立ったり、腹を立てたりすることです。
なお、突発的にイライラすることや腹を立てることは、業を煮やすとは少々ニュアンスが違います。何かが起こってからしばらくの間は我慢し、これ以上は我慢しきれないときに業を煮やして、苛立ったり腹を立てたりします。
【業を煮やす】ごうをにやす
事が思うように運ばず、腹を立てる。「無意味な発言が続き―・して席を立つ」
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
■「業を煮やす」の由来とは?
業を煮やすの「業(ごう)」とは、理性では抑えられない心の働きを指します。つまり、業を煮やすとは、心の中が鍋で煮たように熱く沸き立ち、怒りや苛立ちが抑えられない状態になることを表現しています。
もともと業とは、仏教用語です。「カルマ」と呼ぶこともあり、理性では抑えられない心の働きや、前世での行いに応じた現世での報いなどの意味で使います。
■「業を煮やす」を例文でご紹介
業を煮やすを用いた例文を紹介します。
・さっきから同じ話の繰り返しだ。業を煮やして、「いつまでこのような無駄な時間を過ごすのか」と声を上げた
・申請手続きをしたいだけなのに、窓口をたらい回しにされている。業を煮やして、書類を破り捨てて帰ってきてしまった
・いくら温厚でも、さすがに何回も同じことを尋ねると業を煮やしてしまうよ
■「業」を使った表現をご紹介
仏教用語の業(ごう、カルマ)という言葉は、日常生活に溶け込んでいます。慣用句も多く、知らず知らずのうちに使っていることも少なくありません。
例えば「業が深い」とは、前世で悪行をしてきたため、現世で報いを受けているという意味で使用する言葉です。運が悪いことや欲深いことに対して、「業が深い」と使うこともあります。
そのほかにも、「業を背負う」という言い方もあります。過去に罪を犯して、償いのために生きていくという意味です。本当に罪を犯した場合に使用することもあれば、前世で罪を犯したとして使われる場合もあります。
「業を煮やす」の類義語・対照的な表現を例文でご紹介
「業を煮やす」と同じく、腹立ちや苛立ちを我慢しきれないときに使う言葉としては、次のものが挙げられます。
・業を沸かす
・腹に据えかねる
・堪忍袋の緒が切れる
また、業を煮やすと対照的な意味の言葉としては、次のものがあります。
・寛容
それぞれどのようなシチュエーションで使う言葉なのか、「業を煮やす」とのニュアンスの違いなどについて例文を挙げて紹介します。
【類義語1】業を沸かす
「業を沸かす」とは、「業を煮やす」と同様の意味を持つ言葉です。どちらもぐつぐつと、苛立ちや腹立ちが煮えたぎっているイメージです。次のように使います。
・わたしはいつも怒っているわけではありません。しかし、あまりにも生徒たちの態度がひどいため、毎日、業を沸かさざるを得ない状況なのです
・朝から電話をかけているのに、ずっと話し中が続いている。いくらなんでもそんなに長電話をする人はいないだろうと、とうとう業を沸かして電話をかけるのをやめた
・「彼女は本気で怒っていたね」「それはそうじゃない? 彼の浮気ぐせは今に始まったことじゃないけど、さすがに3回目にもなれば業を沸かすよね」
【類義語2】腹に据えかねる
「腹に据えかねる」とは、怒りを自分自身の中に留めておけない状態を指す言葉です。「業を煮やす」と同様、いくらかは我慢したものの、これ以上怒りや苛立ちを我慢できなくなったときに使います。
なお、「腹に据えかねる」の「腹」とは、心や感情のことです。心の中で受け止めきれない怒りを「腹に据えかねる」と表現します。
・毎日塀に落書きされる。さすがに腹に据えかねて、監視カメラを設置した
・あまりの言葉遣いの悪さに、腹に据えかねて注意をした
・観劇中のおしゃべりがうるさく、腹に据えかねて「静かにしてください」と伝えた
【類義語3】堪忍袋の緒が切れる
「堪忍袋の緒が切れる」とは、これ以上我慢できなくなり怒りを放出することを指します。なお、「堪忍」とは人の間違いを許すことです。また、「堪忍袋」とは間違いを許す度量の広さを指します。
つまり、「堪忍袋の緒が切れる」とは、人の間違いを許せない状況まできてしまったことを意味します。
・3日間連続で門限に遅れてしまった。いつもは優しい父親も、さすがに堪忍袋の緒が切れたようだ
・彼女は温厚で、堪忍袋の緒が切れることはないようだ
・もう堪忍袋の緒が切れました。これからは、離婚に向けて弁護士を通して話します
【対照的な表現】寛容
「寛容」とは、相手に対して広い心で接することを指します。怒らず、苛立たず、あるがままを受け入れるときに使う言葉です。
・彼は本当に寛容な性格だ。今回ばかりは怒ると思ったが、表情すら変わらなかった
・寛容さを求めるなら、まずは自分から寛容になりなさい
・寛容な態度は素晴らしいと思うが、我慢しすぎてストレスを受けていないか心配だ
「業を煮やす」を正しく使用しよう
ある程度は我慢したものの、これ以上苛立ちや怒りを我慢できないときに「業を煮やす」という言葉を使います。
日本には、仏教用語の「業(ごう、カルマ)」を使った慣用句が多数あります。おもに「前世からの報い」や「理性では抑えられない心の動き」という意味で使うことを理解しておくと、慣用句の意味も理解しやすくなるでしょう。
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