激務による体重増加から一念発起し、40キロのダイエットに成功。医学部で学んだ経験、メディア業界で長く働いてきた経験、ダイエットの経験などを活かし、「医療記者」として活躍の場を広げている朽木誠一郎さんが、Domani読者からのお悩みに真摯に答える連載がスタートします。
初回は、Domaniスタッフのお悩みごとに答えていただきました。
夫の体がどんどん大きくなっていく
【悩み】
旦那さんの体が大きいです。本人はポジティブに生きているものの、妻としては、このままだとさすがに健康面が心配……。帰りは遅く、飲み会後にシメのラーメンまで食べてくるのですが、家でお風呂に入り、寝るのかと思ったら、さらに炊飯器からご飯よそっている、なんてこともザラ。どうしたらいいのかと途方に暮れています。
「やせて」が逆効果である理由
心が痛むご相談です……。というのも、実は僕自身、かつて体重100kg超えの肥満で、お医者さんから「このままだと早く死ぬ」と言われたことがあるからです。その後、私は自分の専門でもある医療の知見を活かし、40kgのダイエットに成功して、今も体型を維持しています。
そんな経験からまず言えることは、「やせて」は夫さんに対してのNGワードだということ。
僕自身、当時のパートナーにも「やせて」と言われ、その度に「わかってるって」と答えるのに、仕事でてっぺん(深夜0時)を超えた帰りに、ライスお代わり自由のハンバーグ屋さんと深夜営業のラーメン屋さんをハシゴするような日々でした。
なぜ、こんな行動を取ってしまうのでしょうか。実は、太っている人には特有の思考のクセ、言うなれば「肥満思考」があることが、科学的にわかっています。その一つが「未来の利益よりも目先の利益を優先してしまう(時間選好率が高い)」という傾向です。
つまり、太っている人にいくら「このままでは病気になる」「将来健康である方が人生を楽しめる」と言っても、太っている人にとっては「そこにあるおいしいものを食べたり飲んだりする」ことの方がよほど重要なのです。
これにはさまざまな原因が考えられますが、太っている人では、脳が変化し、食事による満足感を得られにくくなってしまうことを指摘する医学研究者もいます。太ると脳が変わってしまう、というのは、少し怖いですよね……。
そのため、太っている人にいくら「やせて」と言ってもムダに終わりやすいのが正直なところ。帰りが遅い夫さんは、仕事も忙しいことが想像され、「せめてもの楽しみやストレス解消を奪うな」と、むしろ反発を招いてしまうこともあります。
「肥満思考」を逆手に取って
では、どんなアプローチなら効果的なのでしょうか。この場合、肥満思考を逆手に取って、「目先の利益」にフォーカスするのが一手です。
相談内容からは「食べること、飲むこと」が夫さんの第一の楽しみ、ストレス解消になってしまっているようにも読み取れます。これに代わるような楽しみを提案できるのは、身近で本人をよく知る妻さんに他なりません。夫さんが他に好きだったこと、趣味などはないでしょうか。
ポイントは、手軽にできること。暴飲暴食の誘惑は強いので、それよりも気分が向くものは思い当たるでしょうか。
他にも、流行のキャンプや、DIYなど、ミーハーなものでも構いません。と言うより、「目先の利益」という意味では、飛びつきやすいこれらがちょうど良くもあります。こうしたアクティビティは結果的に体を動かすので、摂取カロリー(食事)だけでなく、消費カロリーの面でも有利です。
総じて、どんなものでもいいから、目先の利益、つまり欲望をくすぐるようなものを、暴飲暴食の代わりに示すことが大事になります。
逆に、「目先の不利益」もまた、一定の効果があるでしょう。同じような立場の僕の男性の友人は「娘から『(太っているお父さんが)カッコ悪い』『一緒に歩きたくない』と言われた」のがこたえて、ダイエットに成功していました。
また、僕自身がダイエットを始めたきっかけは、前述の当時のパートナーに「このままだと恋愛対象として見られない」と言われて、焦ったということでもあります。
このように、アメとムチを使い分けつつ、コミュニケーションするというのが最適解なのですが、ムチの使い方には注意も必要です。というのも、肥満の背景には、「仕事が忙しい」といった、より本質的な原因があるから。
それを無視して頭ごなしに「やせて」と言ったり、ムチ=目先の不利益を突きつけたりするのは逆効果です。
並行して、妻という立場だからこそわかる、夫が太ってしまう原因を洗い出し、長い目で一つずつそれにアプローチしてみることも、忘れないでいただけるといいかと思います。
プロフィール
朽木誠一郎(くちき・せいいちろう)
1986年生まれ。朝日新聞記者・同withnews副編集長。2014年に群馬大学医学部医学科を卒業後、メディア業界へ。医療記者としてBuzzFeed Japan Medicalの立ち上げに従事した後、朝日新聞社に入社。20年より現職。運動習慣をつけたい人に向けた書籍『健康診断で「運動してますか」と言われたら最初に読む本』(KADOKAWA)5/31発売。
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