朔日とは
「ついたち」または「さくじつ」とも読みます。「ついたち」は月の初めの「一日」のことですが、新月の日を指す言葉でもあります。新月は新しい月のサイクルの始まりとされ、多くの文化や宗教で特別な意味を持っているのです。
朔日の語源
暦で「一日」をなぜ「ついたち」というのか、気になったことはありませんか? 二日は「ふつか」、三日は「みっか」、四日は「よっか」と「日」を「か」と読むのに、なぜ一日だけ「ついたち」と読むのでしょうか。
「朔」の左側の「ギャク」は人をさかさまにした象形文字で、もとへ戻るという意味があります。欠けた月がまたもとへ戻るという意味で、陰暦で月の第一日を「ついたち」というのです。
陰暦(いんれき)とは
明治時代の初めまで、日本でも月の満ち欠けをベースとし、季節をあらわす太陽の動きを加味して作られた陰暦【「太陰太陽暦(たいいんたいようれき)」・「旧暦(きゅうれき)」ともいいます】が使われていました。現在私たちが使っている暦は、太陽の動きをベースにして作られているため、「太陽暦」(たいようれき)と呼ばれます。
陰暦では、原則として、新月となる日をその月の第一日として日付を数えます。 今でも三日月は三日、満月は十五日(十五夜)というように、月の満ち欠けと日付に対する呼び名が一致していますね。
「ついたち」の語源
朔日がついたちと読むのはほかにも説があります。「立つ」には「旅立ち」のように何かを始めるという意味があります。そのため月の始まる第一日目を「月立ち(つきだち)」といい、それが音便化して「ついたち」になったという説です。
ちなみに、月の最終日を三十日と書いて「みそか」と呼ぶことがあります。30代の人を三十路(みそじ)と呼ぶように、三十は「みそ」と読みます。一方で月の出ない闇夜を表す「晦」(みそか・つごもり)の字を当てます。一年の最終日を大晦日(おおみそか)(おおつごもり)というのは陰暦からきているのです。また、月が出ない闇夜ということで「月籠り」(つきごもり)がなまって「つごもり」とする、という説もあります。
朔日にちなんだもの
月に一回の、月の始まりの日。幸先がよいということで、各地には朔日ならではの行事や言葉が多くあります。
朔日草(ついたちそう)
江戸時代に、早春に黄金色の花を咲かせることから、一番に春を告げるという意味で「福告ぐ草(フクツグソウ)」と呼ばれる花がありました。「フクツグソウ」は言いにくいということで、おめでたい「寿」という字を当てられ、現在よく知られる「福寿草(ふくじゅそう)」に。旧暦の正月(二月)頃に咲き出すことから、「元日草(ガンジツソウ)」や「朔日草(ツイタチソウ)」とも呼ばれます。
朔日道(ついたちみち)
旧暦七月一日にご先祖様を迎えるために墓場から村への草を刈って整えた道のことを「朔日道(ついたちみち)」、「盆道(ぼんみち)」と呼びます。
朔日参り(ついたちまいり)
毎月一日に神社にお参りすることを「おついたち参り」「朔日参り」といいます。朔日参りは、一か月無事に過ごせたことに感謝し、さらに新しい月の安全や成功、家族の健康などを祈願する目的で一般的に早朝に行われます。全国各地の神社で行われており、いつもとは違う特別な御朱印や「月次御幣(つきなみごへい)」と呼ばれる御神札が用意されているところもあります。
伊勢神宮の朔日参り
古来から最高格の宮とされ、「日本人のこころのふるさと」として「お伊勢さん」と呼ばれる神宮では朔日参りのお楽しみとして朔日粥(ついたちがゆ)や朔日餅(ついたちもち)などのおもてなしが行われています。
朔日粥(ついたちがゆ)
毎月一日に、早朝からお伊勢さん参りをする方々のために近くの「おかげ横丁」では朝4時半からお腹にやさしい「朔日粥」をふるまう店があります。それぞれの店で、お粥だけでなく雑炊や汁かけご飯、麺類などバラエティに富んだメニューが並びます。
朔日餅(ついたちもち)
同じく「おかげ横丁」に本店を構える「赤福」では、毎月一日だけに購入できる朔日餅があります。一月だけは新年に「赤福餅」を楽しんでもらいたいとのことで、朔日餅はありません。
二月は立春大吉餅、三月はよもぎ餅、四月はさくら餅、五月はかしわ餅、六月は麦手餅、七月は竹流し、八月は八朔粟餅、九月は萩の餅、十月は栗餅、十一月はゑびす餅、十二月は雪餅と、月替わりでパッケージにも工夫が凝らされています。特に七月は竹の筒に入った水ようかんで、目にも楽しい仕上がりです。
コロナ禍以前では早朝から長蛇の列でしたが、今は前日から整理券が配られたり、前月の10日から予約したりと手に入れやすくなりました。とはいえ、本店で食べるとなると、朝4時45分から並ばなくてはならないので、事前準備が必要です。
朔日朝市(ついたちあさいち)
早朝4時頃~8時頃まで、おかげ横丁では朝市が行われていて、その季節ならではの品が並んでいます。季節によってはまだ暗い朝の時間帯。ひと月無事に過ごせたという感謝のお参りのあと、鳥居前町で受けるおもてなしは、また次の月も無事に過ごせるように頑張ろうという気持ちの原動力となるでしょう。
まとめ
朔日はついたちと読み、古くから多くの文化や宗教で新しい始まりや神秘的な力を象徴しています。例えば、一部のスピリチュアルな流れでは、願い事をするのに最適な日とされています。朔日は、無限の可能性を秘めた日なのかもしれませんね。
執筆
武田さゆり
国家資格キャリアコンサルタント。中学高校国語科教諭、学校図書館司書教諭。現役教員の傍ら、子どもたちが自分らしく生きるためのキャリア教育推進活動を行う。趣味はテニスと読書。
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