「猫の手も借りたい」とは非常に忙しいこと
「猫の手も借りたい」とは、非常に忙しく手不足なことです。たとえば、今日中に大掃除を済ませたいのに、掃除をする場所が多すぎて「誰かが手伝ってくれたら助かるのに……」と感じることがあるかもしれません。
このようなときは、「猫の手も借りたい」と表現し、どのような手伝いでもよいから人手がほしいことを示せます。
【猫の手も借りたい】ねこのてもかりたい
非常に忙しく手不足で、どんな手伝いでもほしいことのたとえ
(引用〈小学館 デジタル大辞泉〉より)
■「猫の手も借りたい」の由来とは?
「猫の手も借りたい」という表現は、近松門左衛門の浄瑠璃作品の一つ、「関八州繋馬(かんはっしゅうつなぎうま)」に由来しているとされています。
作品の中には「上から下までお目出度と、猫の手も借りたい忙しさ」という一節があり、おめでたい出来事の忙しさを猫の手も借りたいほどと表現しています。
この一節から、非常に忙しいことを「猫の手も借りたい」と表現するようになったようです。ただし、近松門左衛門が執筆した当時、「猫の手も借りたい」という表現がすでに使われていた可能性もあるため、本当の由来かどうかはわかりません。
■なぜ“猫”の手なのか?
猫の手は、人間の手と比べると細かな作業に向いていないイメージがあります。そのため、人間ほどには役に立たない猫の手でもいいから、手伝ってほしいほどに忙しいときに使われます。
なお、人間ほどには細かな作業に向いていない手指を持っているのは、猫だけではありません。しかし、あえて「猫の手」と表現している理由としては、猫が人間のいうことをあまり聞かないことや、猫が身近な存在であったことなどが考えられます。
■「猫の手も借りたい」の使い方を例文でご紹介
忙しく、手不足のときには、「猫の手も借りたい」を使って状況を表現してみましょう。たとえば、次のように「猫の手も借りたい」を使って表現できます。
・納期が迫っているのに人手不足で作業が進まない。本当に猫の手も借りたいよ。
・明日までに1万冊のパンフレットを用意してほしいといわれた。印刷はどうにかなりそうだが、検品や梱包の人手が足りない。猫の手も借りたいとはこのことだ。
■「猫の手も借りたい」を使うときの注意点
非常に忙しく、人手が足りないときに使う「猫の手も借りたい」ですが、役に立たない助けといったニュアンスがあるため、誰かが手伝ってくれるときに使うのは失礼に当たります。たとえば、次のような使い方はおすすめできません。
・「猫の手も借りたい」と思っていたときに来てくれてありがとう。
・「猫の手も借りたい」ほどに忙しいよ。もし暇なら、手伝ってくれる?
いずれも協力しようとしている人の手を、「猫の手」に例えています。「猫の手も借りたい」では、猫の手を役に立たないものの例えとして用いているため、協力してくれる人を暗に「役に立たない人」と評価していることになるかもしれません。
相手に対して失礼のない言葉を選ぶためにも、協力してくれることがわかっているときや、実際に誰かに手伝ってもらったときには、「猫の手も借りたい」という表現は使わないほうがいいでしょう。
「猫の手も借りたい」という表現は、誰の協力も得られないことがわかっているときや、すでに終わった出来事を表現するときに使うと、関係者や協力者に不快な思いを与えずに済みます。
たとえば、次のようなシチュエーションなら、周囲に不快な思いをさせずに忙しさを表現できるかもしれません。
・自分一人で取り組んだこと(家族のお弁当作りなど)
・家族で対応しなくてはいけないこと(結婚式の準備など)
・単純な繰り返し作業(部屋の片づけなど)
「猫の手も借りたい」の類語を例文でご紹介
猫の手も借りたいと同じく、非常に忙しいことを表現する言葉はいくつかあります。たとえば、次の言い回しは、いずれも忙しさを表現するときに用いられます。
・東奔西走
・てんてこ舞い
・盆と正月が一緒に来たよう
なお、これらの言い回しには、「猫の手」のように役に立たないものを比喩的に示した言葉は含まれません。そのため、誰かが協力してくれるときに使っても失礼に当たりにくいと考えられます。
「猫の手も借りたい」を使ってよいか迷ったときは、言い換え表現を使ってみましょう。
「東奔西走」
東奔西走(とうほんせいそう)とは、あちこち忙しく走りまわることです。単に忙しいだけでなく、さまざまな場所に行く必要があるときに使います。
・明日までに手付金を入金しないと、マンションを購入する権利を失ってしまう。資金集めに東奔西走し、なんとか必要な金額を集めた。
・支持者を集めるためにも東奔西走したが、あと一歩およばず、選挙に落選してしまった。
「てんてこ舞い」
てんてこ舞い(てんてこまい)とは、あわててさわいだり、忙しくて慌ただしく立ち働いたりすることです。天手古舞と、当て字で記載することもあります。
・プレゼンのための資料作りもしなくてはいけないのに、明日からの海外出張の準備もある。忙しくててんてこ舞いだ。
・テレビで紹介されたおかげで、お菓子を買い求めるお客さんが並び、見たこともないような行列ができている。嬉しいことではあるが、調理場もレジもてんてこ舞いだ。
「盆と正月が一緒に来たよう」
盆と正月が一緒に来たようも、非常に忙しいことの例えとして使われます。
・朝からお客さんがひっきりなしに来て、まるで盆と正月が一緒に来たようだ。
・盆と正月が一緒に来たように忙しく、何をしているのか自分でもわからない。
また、盆と正月が一緒に来たようは、嬉しいことが重なったときにも使われる表現です。
・長男の大学合格と次男の高校合格がどちらもわかり、盆と正月が一緒に来たようだ。
・コンクールに入賞した日に、留学も決まった。まるで盆と正月が一緒に来たようで嬉しい。
シチュエーションに注意して使おう
猫の手も借りたいという表現は、ネガティブな言い回しではありませんが、協力してくれる人を貶めることにもなるため注意が必要です。協力者がいるときや、これから協力を求めるときは、猫の手も借りたいとは別の表現を使うようにしましょう。
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