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芸術の秋、食欲の秋、手紙の秋…?
秋は暑過ぎず、寒過ぎず。体を動かしたり、集中的に何かをするのに最適な季節。芸術の秋、食欲の秋、読書の秋にスポーツの秋、そして秋の夜長は、心静かに手紙を書くにもぴったりです。
かの夏目漱石は名作『三四郎』の中で、古代中国の詩人で韓愈(かんゆ)が詠んだ「灯火親しむべし」という詩を引用。「涼しく夜も長くなって、灯りのもとで読書するのに適している」というような意味です。読むを書く、つまり「手紙の秋」と置き換えてもしっくりきますね。懐かしい友人へ、お世話になった方へ、思い出を辿りながらペンを走らせてはいかがでしょう。
そもそも「時候の挨拶」とは?
「時候の挨拶」は、拝啓などの頭語のあとに添える、季節を表す短い挨拶文のことです(頭語を「前略」とした場合は、時候の挨拶を省きすぐに用件に入ります)。その言葉は時季や月によって変わり、四季のある日本独特の美しい習慣といえるでしょう。
簡潔に伝えたいことを伝える「お礼状」などでも、きちんと時候の挨拶から入るとより丁寧で誠実な印象を与えることができます。
「時候の挨拶」の意味
「時候の挨拶」は、頭語のあとに書く季節を表す言葉。季節や天候の話題に触れながら、相手の体調や状況をうかがう一文です。そのあと本文に入ります。この挨拶には、1年を24等分にした二十四節気を参考にするのもよいでしょう。「立冬の候」などのような漢語調と「日増しに寒くなってきます」などのような話し言葉の文体がありますので、ビジネス、カジュアルと場面で使い分けを。
11月の時候の挨拶のポイント
11月は秋真っ盛りから冬の足音を感じる下旬まで振れ幅が大きい時節ですが、
「向寒(こうかん)の候=日増しに寒くなってまいりました」
「深冷(しんれい)の候=空気の冷たい季節になりましたね」
「残菊(ざんぎく)の候=菊の花がまだ残っている頃・菊の花も見納めの時期ですね」
「霜月(しもつき)の候=霜が降る季節になりましたね」
などは、ひと月にわたって使えるので便利です。
ほかに、小春日和、時雨、落ち葉などの単語もこの季節にぴったり。
それでは区切り別に挨拶のポイントを見てみましょう。
上旬
二十四節季で冬の始まりとされる立冬が11月7日頃。そこで「立冬の候」=「暦ではもう冬ですね」や、「晩秋の候」=「秋ももう終わりですね」、「暮秋の候」=「秋も暮れですね」、「冷雨の候」=「冬が近づき、雨の冷たさも増す時期ですね」などがよく使われます。
11月初めには、菊や紅葉を題材にするのもよいでしょう。
中旬
冬の気配を感じ始める時節柄、「初冬の候」という挨拶はいかがでしょう。「いよいよ冬ですね」というような意味です。その他には「落葉の候」=「落ち葉が舞い散る季節になりました」や「初霜の候」=「霜の降る時期になりました」などがよく使われています。
カジュアルならこたつやストーブ、マフラーなどのアイテムを出すのも、堅苦しくなく、季節をイキイキと伝えることができておすすめです。
下旬
下旬には冬の訪れを感じる挨拶を。「小雪の候」=「小雪のちらつく季節となりました」や、「霜寒の候」=「霜が降りるほど寒くなってきましたね」、「霜秋の候 」=「秋が終わり霜が降る季節になりました」などと季節現象を絡めるのも素敵です。
ビジネスシーンで使える11月の時候の挨拶を紹介
ビジネスシーンでも、たとえば式典の案内、本社の移転、人事異動など正式な手紙やメールには「時候の挨拶」を入れます。この場合、最もススタンダードで格式のあるのが「〇〇の候」。これを「〇〇のみぎり」と言い換えることもできます。
1:「立冬の候、貴社におかれましてはますますご清栄のこととお慶び申し上げます」
ビジネスシーンでの一般的な時候の挨拶です。時期により〇〇の候を言い換えて使いましょう。
2:「日増しに寒くなってまいりました。〇〇様にはますますご健勝のこととお慶び申し上げます」
ビジネスシーンでも個人宛に送る手紙やメールの例文です。「貴社のみなさまには」という風にも使えます。
3:「小雪のみぎり、平素は格別のご高配を賜り誠にありがとうございます」
時候の挨拶から、日頃の深い感謝や敬意を伝える場合の例文です。
4:「落葉の候、貴社におかれましてはいよいよご盛栄のことと拝察いたします」
ビジネスシーンで一般的な時候の挨拶です。商売をしている個人や法人に向けて使うことができます。
カジュアルに使える11月の時候の挨拶を紹介
定型的な挨拶はもちろん、親しい友人・知人には自分らしく季節の挨拶を届けるのもよいでしょう。
1:「紅葉の美しい季節。今年はどこかへ出かけましたか?」
まず季節感を描写。そして「いかがお過ごしですか?」の代わりに、このように具体的な問いかけをすると相手も返事を書きやすくなりそうですね。
2:「暦の上では冬となり、久々にスキーに行く計画を立てています」
時候の挨拶で自分の近況を伝えることもできます。「久々にスキーへ行きませんか」などさりげなくお誘いの言葉を添えてみるのも一つです。
3:「雪の気配を感じる寒い夜です。風邪など引いていませんか?」
寒さが増す季節には、相手への気遣いの言葉をぜひ入れたいところ。例文のように手紙を書いている、ちょうどそのときの状況を知らせるのもいいですね。
4:「日ごとに寒さが増す今日この頃、いかがお過ごしでしょうか」
相手の体調を気遣う、11月全般に使えるフレーズです。体調面だけではなく近況などを聞きたい場合にも使うことができます。
5:「公私ともに年末に向けて慌ただしい時期に入りましたが、ご活躍のことと拝察いたします」
師走を前に、ご挨拶をしたい時にぴったりの挨拶です。同窓会や忘年会などのお伺いを立てたい時にも使えるでしょう。
11月にぴったりな結びの言葉を紹介
11月は寒さが増し、師走へと近づく忙しい時期。それだけに、相手への配慮のある言葉をぜひ使いたいところです。
1:「本格的な冬も間近となってまいりました。貴社のますますのご発展をお祈り申し上げます」
ビジネス相手の発展を祈るのは結びの言葉の王道。その前の一文は「今年も残り少なくなってまいりました」などとアレンジできます。
2:「師走を控え何かとご多忙と存じますが、今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます」
年末進行などいよいよ忙しくなる時期の例文。文末は個人あるいは社員のみなさまの健康を祈る言葉にするなど、いろいろ変えて使うことができます。
3:「朝晩の冷え込みが厳しいですね。お体を大切にしてください」
「温かくして過ごしてね」など相手の健康を気遣う言葉で温もりを届けましょう。
4:「本格的に寒くなってきます。近いうちに鍋でも囲みましょう」
11月にはクリスマス、忘年会、鍋パーティなど冬のイベントも題材にできますよ。
5: 「小春日和が続くこの頃、皆様のご健康とご多幸を心よりお祈り申し上げます」
「小春日和」は秋の終わりから冬にかけての、穏やかでな気候を表す言葉です。まだ暖かさが残る11月上〜中旬の挨拶に最適です。
6:「年末に向かい何かとご多忙のことと拝察いたしますが、またお会いできるのを楽しみにしております」
顔を合わせた後のご挨拶や、相手との再会を期待する気持ちを表したい時に最適なフレーズです。「次回お目にかかるのを楽しみにしています」や「またお会いできる機会を心待ちにしています」としても良いでしょう。
最後に
四季のある日本ならでは風習「時候の挨拶」。日本人はそこに、季節感だけではなく相手の健康や会社の発展を祈る気持ちを込めてきました。この麗しい伝統を大切にし、心のこもった一言を届けたいものです。
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