最近、ニュースなどで「男性の育児休暇」について耳にする機会はありませんか? 話題のトピックですが、「現状はどうなっているのか、具体的には知らない」という方も、意外といらっしゃるかもしれませんね。
この記事では、男性の育児休業や育児休暇の概要、平均の休暇期間や給付金に加え、最近どんな義務が追加されたかについても、解説します。男女問わず、働く上で重要なテーマですので、ぜひチェックしてみてくださいね。
育児休業と育児休暇の違いは?
「育児休業」と「育児休暇」は、どのような違いがあるのでしょうか? 似ているので紛らわしく感じるかもしれません。厚生労働省の定義を見ていきましょう。
1:育児休業
「育児休業」とは、育児・介護休業法第2条に基づいた休業制度のこと。原則、1歳までの子を育てる労働者は、会社に休業を請求することができるとされています。なお、請求できる労働者は、男女を問いません。また、育児休業制度を設けることは、会社の義務です。そのため、「我が社には、育児休業制度がないので休ませない」などとは、言えないということです。
2:育児休暇(育児目的休暇)
「育児休暇(育児目的休暇)」は、育児・介護休業法第24条に基づく休暇制度のこと。例えば、子供の学校行事に参加するためのお休みなどです。前述の育児休業は、会社に義務付けられている制度。一方、この「育児休暇(育児目的休暇)」の制度は、必ず設けなければならないものではありません。しかし、子が小学校に入るまでの間は、このような育児休暇制度を設けることが望ましいとされています。
男性の育児休業期間の平均は?
男性の育児休業期間の平均は、どのくらいなのでしょうか? 令和3年度の統計調査結果を見ていきましょう。
厚生労働省の「雇用均等基本調査」によれば、男性の育児休業は、2週間未満というケースが多いよう。5日未満が25%、5日~2週間未満が26.5%となっており、2週間に満たないケースが全体の約5割を占めていることになります。
ちなみに、女性の場合、6か月以上の休業をする人が全体の95.3%を占めます。これを見ると、男性の育児休業の期間がいかに短いかがわかります。
また、そもそも育児休業を取得する男性の割合も低く、令和3年度の男性の育児休業取得率は13.97%でした。この率は、年々上昇傾向にあるものの、まだまだ男性の育児休業が浸透しているとはいえない状況のようです。
男性の育児休業に関する義務化とは?
「男性の育児休業義務化」というワードを耳にしたことがある方も、いるのではないでしょうか? 義務化の概要や、いつから義務化したのかというのも、気になるところ。
まず知っておきたいのは、企業側に様々な義務が追加されたのであって、労働者側の義務ではないということ。中には、「必ず育児休業をする義務」と誤解している人もいるようですので、注意したいところです。ここからは、どのような法改正があったのかを解説します。
1:育児休業を取りやすい環境整備と周知
令和4年4月1日から、育児休業を取りやすい環境をつくるために、企業は一定の措置を取ることが義務付けられました。この措置には、育児休業に関する研修や事例収集、相談窓口を設けるなど、複数の種類があり、少なくとも一つは行うこととされています。
なお、育児休業の制度等を労働者へ個別に周知することや、育児休業の希望などの意向確認をすることも、義務化されました。
2:育児休業取得率の公表
令和5年4月1日から、常時1000人を超える労働者を雇っている事業主は、男性の育児休業の取得状況を公表することが義務付けられました。このような制度にすることで、企業側に男性が育児休業を取りやすくするよう働きかけているともいえるでしょう。
男性の育児休業のメリットは?
ここまで、男性の育児休業を巡る義務化について解説しました。次に、男性が育児休業を取得することのメリットも見ていきましょう。男性が育児のために仕事を休むことは、「長期的な家計の安定」や「パートナーシップ」などの面で、さまざまなメリットがあります。
例えば、育児休業を女性が一手に担い、仕事を辞めてしまうと、家計は男性が主として負担することに。こうなると、男性が病気などで働けない状況になったときに、経済的に不安定になってしまうことが考えられます。
また、「自分が大黒柱だから」という思いから、本当は辛いのに無理をして働きすぎてしまう男性も、少なくないようです。このようなアンバランスな状態では、夫婦関係や家族関係も悪くなってしまう可能性があります。
そのため、男性の育児休業取得率を向上させることは、経済面や家族関係の安定という面で、様々なメリットがあるといえるでしょう。
産後パパ育休とは?
育児休業に関する法律改正など、最近の動向も見ていきましょう。まず、大きな変化として押さえておきたいのが「産後パパ育休制度」の新設です。これは、別名「出生時育児休業」と呼ばれ、令和4年10月1日から導入されました。
この制度は、子供が生まれてから8週間以内に、計4週間まで育児休業を取得できるという内容です。また、2回に分けて休めることもポイント。例えば、産後1週間休み、その後いったん仕事に復帰し、再度3週間休むというイメージです。さらに、休業期間中に数日だけ仕事をするということも、できるようになりました。
この制度は、なかなか長期間は休めないという男性も、活用しやすいのではないでしょうか。もちろん、男性もまとまった期間で休むに越したことはないのですが、このような文化が浸透するには、まだ時間がかかるかもしれません。
そのため、まずは以前より制度を柔軟にして、男性が育児のために休みやすい社会を徐々につくっていく狙いもありそうですね。
育児休業給付金とは?
休んでいる期間の給与やお金のことも気になるところ。中には、「給与が減ってしまう」「仕事に支障が出る」などのデメリットばかりに目がいってしまい、なかなか育児休暇を取る気になれないという声も。しかし、実は完全に手取りがゼロになるわけではないことをご存じでしょうか?
雇用保険には、「育児休業給付金」という制度があり、受給する資格を満たしていれば、以下のような給付金額を受け取ることができます。
・休業開始から180日目まで:1日の賃金の67%(休業1日あたり)
・休業開始から181日目以降:1日の賃金の50%(休業1日あたり)
なお、前述の産後パパ育休も育児休業給付金の対象になります。ただし、一定のラインを超えて働いた場合、対象外になりますのでご注意ください。例えば、以下のようなケースは、給付金を受け取ることができません。
・4週間の産後パパ休業期間中に、働いた日数が最大10日(10日超のときは、働いた時間数が80時間)を超えている場合
これはあくまで一つの事例で、休業期間が4週間より短い場合は、上記の働いた日数の条件も、比例して変化します。さまざまなケースがありますので、もし受給したい場合は、ハローワークに確認するのが安心です。
なお、同月内で14日以上育休を取得した場合は、その月の社会保険料も免除になります。育児休業給付金と、この免除制度を組み合わせるということもできます。
「育児休業中は無給なので、自分は休めない。妻子のために働かなくては」と思いこんでいる男性も、まだまだいると聞きます。一方、こういった制度を知ってから「それなら育児休業を取りたい」という意見に変わったという人もいるようです。
最後に
この記事では、男性の育児休暇に関する新たな義務や、育児休業の平均期間、育児休業給付金ついて解説しました。子供が生まれることは、働く人にとって大きなライフイベントです。そのため、育児休業制度については、男性も女性も押さえておくと安心です。
※解説した制度は令和5年4月時点の内容です。また、給付金受給などには一定の要件がありますので、ご留意ください。
執筆
塚原社会保険労務士事務所代表 塚原美彩(つかはら・みさ)
行政機関にて健康保険や厚生年金、労働基準法に関する業務を経験。2016年社会保険労務士資格を取得後、企業の人事労務コンサル、ポジティブ心理学をベースとした研修講師として活動中。趣味は日本酒酒蔵巡り。
ライター所属:京都メディアライン
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